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放課後の清掃作業は教室の掃除の後で教師一人の立会いの元、普段の掃除の範囲から外れた箇所をする事になっている。
池流と二人で一時間程真面目に掃除をして、立会いの教師に報告・確認の後に開放。おお、もうそろそろ五時か。
教室に戻り荷物を持ち、スマホを確認すると鍵留から、
「ワレテキヲハッケンセリ、テキホンキョチハ、ブンカケイブシツトウサンカイナリ」
受信時間は十六時頃で今まで更新が無いって事は、まだそこにいるって事か。
いい度胸じゃないか。明後日を待たずして、OHANASHIできますねぇ。クックックックック……
教室を出て池流と合流。文科系部室棟三階の新聞部部室に向かうと鍵留が近くに待機していた。
「すまん、ありがとう鍵留」
「いえいえ、大した事ではありませんぞ、守殿」
「いや随分と待たせちまったし、本当に悪いな」
「池流殿もお気になさらず。それで、かの部室ですが放課後に女子が一人だけ入り、他には誰も来ていませんな」
「そうか、何か罠が有ったら面倒だな。俺と鍵留のスマホとレコーダーで録音しておこう。池流もスマホでいいか?」
「オッケー。俺は胸に差して録画しておくわ」
「拙者も上着のポケットに入れて録画するとしてレコーダーは鞄に入れておくでござる」
「部室に入った後の流れだが、まずは盗聴器を確認する。俺は持ち込んだ検知器で調べる。二人は目視で頼む」
「はいよ」「了解ですぞ」
突入開始。
コンコン、失礼しまーす。返事は待たない。
ダイナミックエントリーは今のところはまだ行わない。
鍵は掛けていなかった様でドアはスムーズに開いたのだが。
「だ、誰っすか!?」
バリケードの向こう側から声が聞こえる。
そう、バリケードの向こう側からだ。机と棚と椅子をテープで組み合わせたバリケードの向こうには工事現場で使われているような黄色のヘルメットを被った瓶底メガネ着装済みの三つ編み系女子生徒が居た。端的に言おう、スゴクアヤシイ。
「一年三組ぃ 小野麗尾 守でーす。本日はぁ、新聞部の皆さんとぉOHANASHIしたくてぇ、おーじゃーまーさせていただきましたぁ!」
「ヒッ、ヒイィィィィィ!? あの小野麗尾!?」
おかしい。撮影・録音もしている都合上、礼儀正しく挨拶しただけなのだが何故彼女は怯えているのだろう。
まぁいい。早速だが、突撃お宅の盗聴器。
検知器に反応無し。池流と鍵留も目視の範囲内では不審な物は見つからなかったようだ。
弱い反応すらなかったのでバリケードの向こう側にも、おそらく盗聴器は無し。
「な、何をしているっすか! ここには金目の物とかは無いっすよ!?」
バリケードはっと…… ここから解体すればいいか。
「ギャアアアア! 止めるっす! これは不法侵入っすよ!」
残念だけど部室は君の私有地じゃないんだよなぁ。
「あ、池流そっち押さえてー」
「おう」
「こっちは運び終わったでござるよー」
「あっあっあっあっあ」
さて、撤去終了。
こちら側に撮影機器は…… 無しっと。
スマホも未装着で周囲に置かれている感じは…… うん、無さそうだ。
「あんたら、一体何の用っすか!?」
「はっはっは、ナイスジョーク。 ……まさか身に覚えが無いとは言わないね?」
「……俺達の要求はまず一つ、今日の掲示板の新聞を書いた部員と部長を出せ。誰だ?」
「い、いないっす」
「ナイスガッツだ、お嬢ちゃん。だが隠すと君の、そして隠された人の為にもならんぞ」
「や、ホントに他所にいないっす! ホントっす!!!」
「……残念だ。我々はあくまでOHANASHIの為に来たのだが、本当に残念だ……(棒」
「仕方がありませんな。気は進みませんが、ここは我々が探すしか無いでござるな。ほんのチョット調べられたく無かった事まで調べすぎてしまうかもしれませんが、まぁ我々は素人ですからな。仕方ありませんな」
「他に人なんていないっすよ! だって……」
「新聞部は、もう私一人しかいないっす!!!」
涙目になりながら訴える彼女に詳しく話を聞いてみる。
まず彼女の名前は舞日 朝陽(まいにち あさひ)で二年生。新聞部の部長である。
入学時から部に所属している生粋の新聞部員で、今回の新聞を書いたのも彼女だということだ。
で、何でこんな記事を書いたのかというと。
「このままだと、新聞部が無くなってしまうっす……」
「「「ふーん」」」
「昨年の四月の初めで前部長と私の二人しかいなかったっす。前部長は三年生で八月には受験の準備で退部してしまったっす」
「「「へー」」」
「新聞部は学校側からも比較的優遇されていましたので、部員二人でも廃部は免れたっすけど、一人となると流石に部の存在の必要性を疑われるっす」
「まぁ、普通は二人でも部が廃部か同好会扱いになるだろうしなぁ」
「だから、だからどうしても評判が欲しかったっす。その、今までの新聞の路線だと、もう大半の生徒が見てくれていなかったので、どうしようもなかったっす……」
「……まぁ、俺もロクに見たこと無かったが、だからってこれは無いだろう。これは。何だって今回に限ってこんな派手な真似をしてくれたんだ」
「ううっ、申し訳ないっす。大きいヤマだったのは確かっすけど、実は個人的な恨みが小野麗尾さんにはあったっす。そのせいで筆が走ってしまったっす……」
「個人的な恨みって。守、お前この先輩に何かしたのか?」
「いや、全く覚えが無いぞ」
「それはもう、何もしていないと言うか、してくれなかったというか…… ゴニョゴニョ」
「……守、正直に言え」
「守殿、本当に心当たりは無いでござるか?」
「どんな疑いが俺に掛けられているんだ!? 本当にこの先輩とは会った記憶が無いぞ!」
「嘘をつくヤツは、皆そう言うんだぜ?」
「本当の事を言うヤツも、こう言うだろうよ!」
「舞日先輩、どういうことですかな?」
「……去年の二学期。先輩が退部して、私が独りになった時の事っす」
「守殿、まさか独り身の先輩の寂しさに付け込んで……」
「ねーよ!?」
「私は、そのときから焦り始めていたっす。このままじゃ新聞部が無くなるって。そんな時に冒険者になった学生の噂を聞いたっす。数年ぶりのウチの高校生冒険者、話題性は有ったっす。部活もあまり目立つ活躍が無くて、学校からのお知らせとか、校内行事の記事とかばかりだった新聞の内容に、ビッグなタイトルが出来ると勝手に期待していたっす」
「総合格闘部の部長がIHベスト8まで行っていた筈だが、そいつは結構な活躍じゃないのか?」
「そうっす。本来ならそっちでメイン記事を作れるはずだったっす。でも、前々部長がヒドイ奴で、相当に馬鹿な事をやらかして運動部系の大半が新聞部の取材を拒否してるっす。前々部長はとっくに卒業してるんすけど、未だに新聞部は運動部系からは取材はおろか練習中の接近を禁じられているっす」
「……そんなんで良く一昨日は武道場に潜り込めたな」
「新聞部を名乗らなければ誰も私の事を知っている人はいないっす。でも新聞部を名乗らずインタビューとかしたら記事にした時点で運動部から殴りこみ喰らうだろうし、大会の成績ぐらいしか書ける事がないっす。そうなるともう、お知らせみたいな感じで記事とはとても呼べない物になるっす……」
「そこまで拒否されるって前々部長は何をやらかしたんだ……」
「私が入部した時はもういなかったので噂レベルの話っすけど、当時の紙面は部長の方針で生徒間の恋愛のゴシップネタや下ネタは当たり前のイエローペーパーで、さらに部長は新聞部の予算を着服した上、くすねる金額を増やそうとして運動部系の部活を徹底的にコキ下ろし、予算の削減キャンペーンを張ったそうっす」
「そんだけの事をしてそいつは退学にならずに卒業できたのか!? ていうかよく新聞部潰れなかったな!?」
「実際潰れそうになったっす。前部長が相当に苦労して立て直して最低限の信頼回復に至ったそうっすけど、部員も当時は十人近く居たのに部長以外辞めていたっす。前々部長とその親戚は卒業後の行方を知っている人間が誰もいないっす。私も知りたいとも思えなかったっす……」
「「「うわぁ……」」」
思わず、声がハモる。これは酷い。
「……で。話を戻すが、というか何か想像出来てきたんだが、俺に対する恨みというのはもしや……」
「多分、想像してる通りっす。私は冒険者の活躍に期待してたっす。文化系の目立った活躍は無く運動部の記事も作れない現状で、小野麗尾君の活動と取材記事にすっっっっごく、期待してたっす……」
「「「……」」」
気まずい。悪い事をした訳ではないが、これは気まずい。
池流と鍵留も同様なのだろう。三人で思わず顔を背ける。
「なのに、その後の小野麗尾君は特に目立つ事をしなかったし、取材も全然受け付けてくれなかったっす……」
うん、クラスカースターへの警戒をしていた時期だ。愛想も悪くしていたし、さぞかし落胆した事だろう。何か罪悪感が……
「だから、もうどうしようもなくなった悲しみと小野麗尾君への逆恨みを胸に記事を書いたら筆がノリに乗ったっす。このまま誰にも省みられず雑草の様に枯れるなら最後に一つデカイ仇花でも咲かせた方がまだマシだと思ったっす……」
「そこは止めろよ!!!」
「……枯れ果ててしまえ! むしろ除草剤撒いて枯らしてくれるわ!」
「いやはや、逆恨みと分かっているのなら思いとどまるべきでしたぞ?」
「ごめんなさいっす! 私、どうかしてたっす!!!」
むう、どうしてくれようか。
考えを纏めるために意味無く周りを見渡した所、ふと彼女が先程まで触っていたパソコンの中身が目に入る。
『笑撃!!! 笑ってはいけない魔王領!?』
そうか。ここにいたのはそう言う訳か。
すでに第二段を用意していたとか、これはもう。
パソコンの画面を指差して、
「……処刑って事でいいかな?」
「いいともー!」
「処す? 処すでござるか?」
「処そう」
「処そう」
三人で先輩の方に向き直り
「「「……そういう事になった」」」
「せめて、せめて家族だけは許して欲しいっす!!!」
「それは先輩の態度次第かな~?」
「”誠意”を見せていただきたいところでござるなぁ?」
二人とも悪い顔をしやがって……
さて、OHANASHIタイムの始まりですよ、と思ったところで。
「あ、あなた達、ここで何をしているんですか!?」
扉の先に、教師が居た。