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## 第34話:『共鳴する魂』
厚い雲に閉ざされた岩礁地帯の空に、二機のガンダムが対峙していた。
一機は、白銀の装甲に身を包み、背中に**6枚のリフレクター**を閉じたまま静かに浮かぶプロト・ウイングエックス。そのコクピットには、パイロットのゼロ・ドラートと、この物語の「鍵」である少女、ミラ・エクリプスが同乗していた。
そしてもう一機は、ミラと全く同じ顔を持ちながら、漆黒の闇を纏ったガンダム・ノワールレイス。パイロットであるノアの紅い瞳は、憎悪と悲しみで濁り、そのプレッシャーだけで大気を震わせていた。
「……ミラ、無理すんなよ。アイツの感応波は、まともじゃねえ」
ゼロが隣に座るミラの震える肩を気遣う。だが、ミラは蒼い瞳を真っ直ぐに前方の漆黒の機体へと向けていた。ゼロ・システムがもたらす過酷な情報流入も、ミラが側にいる今は、澄み渡るような静寂へと変わっている。
「大丈夫……。だって、私の一部があそこで泣いているのが分かるから」
ミラは通信を開き、全神経を研ぎ澄ませて自身の魂を解き放った。
『……ノア……聞こえる? 私よ、ミラよ。……もう、自分を傷つけるのはやめて。ルカスが与えた憎しみなんて、あなたは持たなくていいの』
ミラの感応波が、戦場を白く包み込むような優しさで広がっていく。しかし、それに対するノアの返答は、鋭いビーム・サイズの斬撃だった。
『黙れ……黙れ黙れ黙れ!! あなたに何が分かるの!? 独りきりの冷たいカプセルの中で、あなたの「影」として、あなたが捨てていった絶望だけを糧に生きてきた私の気持ちが!!』
ノワールレイスが加速し、死神の鎌を振り下ろす。ゼロは反射的に操縦桿を捌き、バスターソードでそれを受け止めた。
「へっ、相変わらず話の通じねえ奴だな! ミラがせっかく歩み寄ってやってんのに、その態度はねえだろ!」
ゼロはいつもの不敵な笑みを浮かべ、あえて生意気な口調でノアを挑発する。
「影だの絶望だの、そんな湿っぽい理屈は俺には分からねえよ。だがな、ミラが今ここで、お前を家族として迎えようとしてるのは本気だぜ。お前、鏡を見たことねえのか? 泣きそうな顔して笑うなよ、ブサイクだぞ!」
『――黙れ、不純物!! あなたがミラを汚したのね、あなたさえいなければ!!』
ノアの怒りが頂点に達し、ノワールレイスの機体各部から血のような赤い発光現象が溢れ出した。大鎌を力任せに振り回し、ウイングエックスの死角へと超高速で回り込む。
「速い……! だが、見えるぜ。今の俺たちの『ルート』には、迷いなんてねえんだよ!!」
ゼロはゼロ・システムが提示する唯一の勝利の道を、迷わず突き進んだ。ウイングエックスは背中の**リフレクター**を巧みに使い、姿勢制御を極限まで高めてノワールレイスの猛攻を紙一重で回避し続ける。
サテライトキャノンはまだ使わない。月が見えぬこの空で、無理に力を振るえば機体が持たないことをゼロは理解していた。今はただ、剣と剣、魂と魂のぶつかり合いだった。
ノワールレイスが再び鎌を突き出す。ゼロはバスターソードを盾にしながら、あえて懐へと飛び込んだ。
「ミラ! 今だ!」
『……ノア! 見て、私の心の中を! 私はあなたを拒まない。……一緒に、この闇を終わらせましょう!』
至近距離で、ミラとノアの意識が激しく混ざり合う。
ノアの脳内に流れ込んだのは、ゼロが作った形の悪いジャガイモ、セレスの少し厳しいけれど温かい叱咤、そしてカイルやジュードが見守るゼストの賑やかな食卓の記憶だった。
『……なに、これ……温かい……。嫌、嫌よ! こんなの知らない! 知りたくない!!』
ノアは悲鳴を上げ、ノワールレイスの推進力を最大にして、強引にウイングエックスを突き放した。彼女の精神は、初めて触れた「家族」という概念の眩しさに耐えきれず、完全に暴走を始めていた。
「逃がさねえぞ、ノア! 決着をつけようぜ、俺たちのやり方でな!」
ゼロは、もはや恐怖も迷いも感じていなかった。
厚い雲の向こう側で、隠された月が静かに満ちていくのを、今の彼とミラなら感じることができた。
**次回予告**
月が最も高く昇る夜。
ゼロはサテライトシステムを起動し、ノアもまた機体のリミッターを解除する。
「これが、俺たちの生きる光だ!」
仲間たちの必死の援護の中、二つのガンダムは宿命の臨界点へと加速する!
次回、『光と影の臨界点』
**「行くぜミラ、アイツを本当の夜から連れ戻すんだ!!」**