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## 第35話:『光と影の臨界点』
岩礁地帯を揺るがす轟音と、闇を切り裂く火花。
プロト・ウイングエックスとガンダム・ノワールレイス。二機のガンダムによる死闘は、もはや人知を超えた領域へと突入していた。
「……はぁ、はぁ……! しぶといんだよ、お前!!」
ゼロ・ドラートは、滝のように流れる汗を拭いもせず、操縦桿を力任せにねじ伏せた。隣に座るミラの意識は、今や完全にウイングエックスの神経系と直結している。彼女が流す涙の一滴までもが、ゼロ・システムを通じてゼロの感覚を研ぎ澄ませていた。
対するノワールレイス。漆黒の装甲は至る所が剥がれ、内部のフレームが剥き出しになっているが、ノアの放つプレッシャーは弱まるどころか、血の色の光を増して周囲の岩壁を物理的に粉砕していた。
「……なぜ……! なぜ、あたらないの……! 私の方が、あの子よりもずっと強く調整されたはずなのに!!」
ノアの絶叫と共に、ビーム・サイズが半円を描いてウイングエックスの頭部を狙う。ゼロはリフレクターを微調整し、バーニアを逆噴射させてその一撃を紙一重で回避した。
「強さだぁ? そんなもん、一人で抱え込んでるから重てえんだよ! 俺とミラは、二人で半分ずつ持ってんだ。お前の独りよがりなスイングなんて、止まって見えるぜ!」
「……不純物が、喋るなァァ!!」
ノアの感情が爆発した。ノワールレイスが右腕のビーム・サイズを捨て、機体各部のスラスターを暴走に近い出力で噴射させる。狂気的な加速。
ノアは、もはや機体制御など考えていなかった。ただ、目の前の「白」を塗り潰すためだけに、全エネルギーを掌に集中させ、ゼロに向かって超高出力のエネルギー弾を至近距離から放った。
「――っ! しまった!」
ゼロはゼロ・システムが提示する最速の回避ルートへと機体を滑り込ませた。
放たれた巨大な光の塊は、ウイングエックスの肩口を掠め、そのまま空を覆う厚い曇天へと突き抜けていった。
その瞬間だった。
漆黒の夜を閉ざしていた重い雲が、ノアの放ったエネルギーの奔流によって円形状に穿たれた。まるで神が指先で空を裂いたかのように。
その穴から漏れ出したのは、冷たくも美しい、透き通るような白銀の光。
「……あ……」
ミラが小さく息を呑む。
雲の向こう側、漆黒の宇宙(そら)に鎮座していたのは、完全なる「満月」だった。
「――月が出た!」
ゼロの叫びが戦場に響く。待っていた。この瞬間を。
ゼロはコンソール中央に配置された、厳重なロックのかかったスライドスイッチを力強く跳ね上げた。
「ミラ、頼むぜ! 俺たちの明かりを、ここに呼び寄せろ!!」
「……サテライトシステム……起動!」
ミラの言葉と同時に、ウイングエックスの背部にある**6枚のリフレクター**が、花が開くように一斉に展開された。ハニカム構造の受熱板が月光を吸い込み、金色の光を放ち始める。
キィィィィィィン……!!
戦場全体に、鼓膜を突き刺すような高周波の充電音が鳴り響く。
月面にあるサテライト・ステーションからのマイクロウェーブを受信し、プロト・ウイングエックスのエネルギー残量が、一瞬にして限界値を突破して駆け上がっていった。
だが、ノアもまた、その光を見ていた。
「……そう。それが、あなたの『正体』……。なら、私の『全て』で、それを焼き切ってあげる」
ノワールレイスが、機体背部から巨大な砲身――バスター砲を肩越しに展開した。それはウイングエックスのサテライトキャノンに酷似しているが、より禍々しい形状をしている。
ノワールレイスの各部から赤い電磁放電が激しく噴き出し、砲口に圧縮された暗紅色のエネルギーが収束し始めた。
その異常な光景を、1キロメートル後方のゼストから見守っていた艦長は、コンソールを叩き割らんばかりに立ち上がった。
「馬鹿な……!? ここで、至近距離であれを撃ち合うつもりか!」
「艦長! 両機のエネルギー反応、計測不能! 臨界点を超えています!」
アンナの悲鳴がブリッジに響く。
「このままでは、直撃せずとも生じる衝撃波だけで、この岩礁地帯ごとゼストが粉砕されるぞ! リサ、エマ! 総員、耐衝撃防御! 戦艦を最大戦速で後退させろ! 岩壁の影に潜り込め、急げ!!」
ゼストは後部バーニアを全力で噴射させ、砂埃を上げながら必死の退避を開始した。
熟練の操舵技術をもってしても、伝わってくるエネルギーの余波に艦体が激しく震え、警報音が鳴り止まない。
1キロ離れた後方の巨大戦艦が逃げ出すほどの、圧倒的な破滅の予感。
しかし、当事者である二機のガンダムは、もはや周囲の状況など目に入っていなかった。
「……ノア。さよならは言わない。……迎えに行くわ」
ミラの静かな声。
「……ミラ。あなたがいけないの。……あたしを、こんなに熱くさせた、あなたが……!」
ノアの狂おしい咆哮。
ウイングエックスの右肩に鎮座するブラックキャノンの砲口が白銀に輝き、ノワールレイスのバスター砲が深紅に燃え上がる。
二つの光が、臨界点を突破した。
もはや、言葉は不要だった。
引き金にかけられたゼロとノアの指が、同時に力を込める。
砂漠の夜が、白と赤の混じり合った「無」の光に飲み込まれようとしていた。
**次回予告**
解き放たれた二つの禁忌。
白銀の光と深紅の闇が正面から衝突し、世界は音を失う。
爆風の中に消える漆黒の影、そして砕け散るプロト・ウイングエックスの誇り。
「これが……終わりの光なのかよ……!」
衝撃の果てに、ゼロが掴み取ったのは勝利か、それとも――。
ノア編、ついに完結!
次回、『明日を照らす残光』
**「たとえこの腕が壊れても……お前を離さない!!」**
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