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エーミールと出会ってから1ヶ月。毎日会う訳では無いが、朝すれ違うとつい長話をしてしまう。そんな魅力がエーミールにはあると思う。いっつも本読んでるから、知識豊富なんやろなあ。
瞼の上がらない授業を聞きながら、ゾムはそう思った。
7月に入り、いよいよ夏休みと言ったところか。生徒は遊んでいる場合ではないと奮起して勉強に取り組んでいる。…そんな生徒も居れば、怠けて遊び尽くそうとする生徒も居る。典型的な者がゾムだ。夏はやっぱり海だろう。
今年は誰と行こうか…
そんな事を考えている内に、先生に叩き起された。
「叩かんくてもええやん…」
じんじんと痛む頭を抑えながら小さな声で呟いた。
6時間目が終わり、下校時間だ。夏は日が長く感じる。実際、夏は昼が長く夜が短い。学校の時間が長くなるのは真っ平御免だ。
早足で歩いていると、丁度保健室から出てきたエーミールと出会った。
「エミさん!」
手を上げると、エーミールは眉を上げて驚き、直ぐに手を上げ返した。
今日あった出来事を話すべく、靴箱へ向かうエーミールに着いていく。
ローファーをトントンと足に馴染ませるエーミールに自然と話しかけた。
「今日、一緒に帰らんか?」
軽く言った様に見せたが、ゾムとしては大分勇気を振り絞った方だ。
エーミールは一瞬 えっ という表情を見せたが、
「いいですよ。」
と快く受け入れた。
2人並んで、すたすたと歩き始めた。
少しの間無言の空気が流れたが、ゾムは気にせず話しかける。
「暑いなあ。」
「そうですねえ。」
「そろそろ夏休みやから、暑いのも終わりやな。」
「そうですね〜。私はいつも保健室居るのであんまり暑くないですけど、登下校はやっぱりしんどいです笑」
他愛も無い会話が続く。登下校の時話し相手が居るとこんなに楽しいんやなあ、とゾムは思った。
青く染まった空を見上げて、太陽に手を伸ばす。手の甲から自分の血潮がはっきり見え、子供の頃を思い出した。両親が居ない時には1人で手にライトを当て、流れる血潮を眺めた。ゲーム等は買って貰えない家庭だったので、子供ながらに何か暇つぶしは無いかと考え抜いた末の遊びだ。
長い間上を向いていると、横から不思議そうに見つめられている気がしたので、 懐かしさに浸る事を辞めてゾムはまた話し始めた。
「そういや、今日嫌な事があってん」
「どんな事があったんですか?」
「いやあー、今日な、授業寝とったら担任に叩き起されたんや。それに腹たってしゃあない!」
「ぇぇええええ!!それはゾムさんが悪いじゃないですか!」
エーミールは多少オーバー気味な反応を見せ、高笑いをした。
「いや、叩くのは無いやん!!」
そう言って横を向くと、こちらを見るエーミールと少しの間目が合った。
陽光に照りつけられたエーミールの瞳は透き通り、もはや瞳が存在しないかのように思えた。
早くなる鼓動を抑え、直ぐに前へと向き直しまた違う話題へと 変えた。
汗が服にじんわり染みていく。
「あ、私こっちの道なんで 」
「おー、そうか。じゃあまた」
もう少し話したいことがあったんやけどなあ、と少し帰りを惜しみつつも、エーミールと分かれる事にした。
「また明日学校で!」
そう言って笑うエーミールは、まるで向日葵のようだった。
今にも燃えてしまいそうな顔の熱さを夏の所為にして、俺はまた歩き始めた。