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68 ◇義母の応援
瑛士さんは私たちが到底考えもつかないような、そんなくだらない
行為をして眞奈や私たちを落胆させ悲しませたわけだけれど
彼は妻である眞奈だけでなく、ずっと眞奈の親である私たちにも長年
変わることなく気さくに、そしてやさしく接してくれて気立ての良い婿殿だった。
眞奈から当初瑛士さんの諸々のふるまいを聞いて瑛士さんにかなりの好印象を
持っていたからよけいかもしれない、かなり失望したのも事実なのだけれど。
娘の話からだと、身体の関係まであっのかなかったのか、そこまでは
分からずみたいだ。
娘は身体の関係云々、あったのかなかったのか……それはそれで気になる
ところではあるが、自分以外の複数の女性との交流がなんとも腹立たしく
悔しいのだということで直截的な証拠をあげることなく離婚に踏み切っていた。
だからなのかなぁ~、夫の時とは違った感情で私は瑛士さんのことを
見られるというか、何というか。
ぶっちゃけ、私は当事者じゃないからその分、理性的に
見られるところもあるのじゃないだろうか。
彼に一度チャンスを与えてもいいと思うのだ。
我が夫は私が瑛士さんが望む眞奈との復縁に反対するだろうと
思ってたみたいだけど。
眞奈が彼を拒む理由はひとつだけではないようだけど、そのひとつに孫の
将大のことが入っていた。
所謂なさぬ仲での義父親に育てられる生育環境の中で息子が果たして
幸せになれるのか? という点に疑問を抱いてるようだ。
私はもしこの先の眞奈に再婚ありきという点で考えてみるとするならば
瑛士さんほど将大にとって理想的な義父親はないと踏んでいる。
眞奈のみならず、私や夫、それに私の妹夫婦とその娘まで何かと
心配りのできる人だから。
15年間変わらず妻側の親族に変わらぬ態度で気持ち良く接することの
できる男(夫)が果たしてどれくらいいるだろうか。
この年になるまでに見聞してきた中においては、そうそういないのでは
ないかと思われる。
瑛士さんには娘にあんなことこんなことをされながら、こんなこと言うと
非難されそうだけど自分のテリトリー内の人間にとことんやさしくできる
彼の心根は本物だと思えるのだ。
だから、私は彼を応援することに決めた。
69 ◇味方なんていないと思ってた
私も何だか急いていて瑛士さんのお宅に入るなり
「ねぇ、今日どうだったの?」
と第一声を放ったのはいいのだけど、瑛士さんの姿を目にして
絶句してしまった。
明らかに一目見て分かる程に激ヤセしていたのだ。
そこから彼の本気の苦悩が見てとれた。
果たして眞奈はこんな姿の瑛士さんに拒絶の言葉を残してきたのだろうか? 眞奈が帰宅してから、心ここにあらずでふさぎ込んでいたのが何となく分かる気がした。
おそらく彼の今の姿、にだろうなぁと。
「お義母さん、言葉を精いっぱい尽くしてみましたが、駄目でした。
眞奈の心には届きませんでした」
ほんとにほんとに、瑛士さんは力なくそう告げてきた。
「ね、瑛士さん、私も当初は眞奈の気持ちを汲んであなたには腹が立って
怒ってたけど、私はあなたのこと憎めないわ。
ううん、憎めないどころか好きだわ」
「お義母さん……」
情けない声で瑛士さんが私のことを口にした。
「あなたがずっとずっと私たち家族に誠実でやさしくしてくれていたことは
本当ですもの。
もうびっくりするくらいあなた、私たちにやさしかった。
本当の気持ちがなければ、続けられないことよ。
このことは、あなたの強みだわ。
眞奈に縁のある者たちにやさしくできたあなたですもの、きっときっと
私の孫の将大のことも大切にしてくれると信じられるの。
だからね、私はあなたのこと、応援するわ。
一度眞奈に断られたぐらいで凹んでちゃだめよ。
私ね、今日から家に帰ったら眞奈にあなたがどんなにやさしい人かって
いう点をどんどんアピールするわ。
だからちゃんとご飯食べて寝るのよ。
流石に絶対大丈夫とは断言できないけど、勝算はあるから。
今再婚が駄目でも眞奈と会えるチャンスくらいなら、私にも作れると思うし。
そんなに激ヤセしちゃってたら、いい男が台無しで眞奈にもアピールできる長所が
短所になってしまうのよぉ~?
だからごはん一杯食べて、元のいい男っぷりになっててくれないと
応援する私が困るわぁ~」
「お義母さん、ははっ、お義母さんが応援してくれるなんて頼もしいなぁ。
俺、今夜から眠れそうです。
味方なんて……味方なんていないと思ってたのに、お義母さんが
味方になってくれて100人力ですよ」
「あきらめないで、長期戦でいきましょう?」
「そうですね。急いては事を仕損ずるって諺もあるくらいですからね」
「そうよ、そのいき!」
私に何か勝算があったわけではないのだけれど、瑛士さんに会ったことで
何だか知らないけど、この2人を絶対また結び付けてやろうという気に、
そんな気持ちになったのよね。
70 ◇眞奈の涙と戸惑い
実はまず最初に会った瞬間、元夫の姿に驚かされていた。
ガリガリに痩せ細っていたから。
小夜さんからの言葉、彼は心から改心していますよ……は、どうやら
本当なのかもと信じていいのかもしれなかった。
気がつくと、私は泣いていた。
ヤダっ、これ何の涙なの?
胸にチクっとした痛みさえ走り、こんな訳の分からない涙を流したのは
生まれて初めてだった。
それほど元夫の魂の叫びが私の琴線に触れたってことなの?
自問自答したけれど、難しい問いかけで答えは分からないままだった。
無常にも凍るような冷たさで、さよならのひと言を残して私はあの場を
去った。
そのような無慈悲ともとれる自分の言動で
小夜さんが言ってたように彼が死んでしまうかもしれないとそんな気がして、
ただただ怖くなってしまい不安になる自分がいた。
可笑しいよね?
正直許せる気もしないのに、何でそんな人相手に心配になったり
不安がったりするのよ。
ちょっとしたジレンマに陥った。
そんなモヤモヤして過ごすなか……
私が瑛士さんに会いに行った翌日から、母が1日に1回は瑛士さんの話題を
するようになった。
要は瑛士さんアピールだった。
どんなに彼が人に対してやさしい人であるかということを聞かされた。
私がいない時に彼からこんなことをしてもらってたこともあったとか、
そして彼の気遣いは本物だったのよ、とか。
15年も一緒にいた人だから、例えば将来再婚も視野に入れているのなら
将大にとってはリスクの少ない瑛士さんが断然お勧めだとか。
まぁ、いろいろ考えうる限りのプッシュをしてきた。
そしてとうとう、母に勧められるまま、私は月4~5回、元夫の休日に合わせて
子連れで彼の家へ行くことになり、なんのことはない、私はとうとう瑛士さんの魂
の叫びと母の熱心なプッシュに絆されてしまったのだ。
コメント
1件
うわ……義母さんの視点、めっちゃ重くてあたたかくて、泣きそうになった。 瑛士さん激ヤセしてて「味方なんていないと思ってた」って呟くところが胸にグッときたよ。 眞奈も涙の意味がわかんなくて戸惑ってるのがリアルで、この揺れ動く感じがすごく好き。 長期戦で結ばれるといいな……静かに応援し続けるね🌙