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「宝剣であるあなた一人だけでは、この女《スキュラ》の状態異常をどうにも出来ない。そうでしょう?」
「マ、マスタァなら出来るもん!!」
「……マスター? あぁ、荷物持ちの男……それは楽しみなことね――」
誰かと話しているフィーサの声が聞こえるがもしかしてスキュラと口喧嘩か?
その最中に入るのは気が引けるが、
「フィーサ、入るぞ! ルティたちの準備が整い次第でここを出るが、スキュラは大丈夫か?」
「…………」
「わ、わらわは平気なの」
フィーサが何とも言えない表情を浮かべている。だけど、単にスキュラとの相性の問題かもしれないな。
「お待たせしましたっ! お着替え完了です!」
「シーニャ、いつでも行けるのだ!」
何て声をかけるべきか迷っていると、ルティたちが支度を済ませて部屋に入って来た。着替えを済ませたように見えないが。そもそもルティは同じ服を何着も持ってたりするのか?
とはいえ、おれの衣服もせっせと編んでくれたし手先が器用ってだけだろうな。
「いよいよですね、アック様! 母さまが言っていたことをやる時が来たのですね」
「転送を使えば、ルタットの町をあっさり離れられるはずだ」
「きっと上手く行きますよ! アック様!!」
「ウニャ? 何をするのだ? シーニャ、怖いのは嫌だぞ」
森にいたシーニャにとっては未体験の出来事か。せめて言葉をかけて安心させてやろう。
「怖くは無いとも言えない。でもシーニャはおれが守るから心配いらないぞ!」
「フニャゥ……」
果たして一度に全員を移動させられるのかは不明だ。しかし知らない場所じゃない限り、行くだけなら失敗は無いと信じたい。バヴァルはルティが背負っているし何とかなりそうだ。
「――で、どうやれば移動出来るんだ?」
ルティは転送《テレポート》のことを自信たっぷりに勧めてきた。母親譲りで細かく教えてくれるものと期待しているが……。
「えぇぇっ!? 母さまから聞いてませんか?」
「詳しくは聞いてないな……」
「う~んう~ん……そ、それならっ! 外に出てロキュンテをここに呼ぶのはどうですか?」
何だ、全く知らなかったのか。
「……町の外にロキュンテを?」
「山が近いので多分大丈夫かなぁと思うです!」
肝心なやり方をルシナさんから聞かなかったおれのミスだ。しかし聞かないことには移動しようも無いし、ここに呼ぶしかなさそうだな。おれは魔石を取り出し、すぐにガチャを引いた。
【Uレア 火山渓谷ロキュンテ 残1】
【Uレア スキル:メモリア 習得】
ロキュンテを呼び出せるのも残り一回ってことか。
メモリア《記憶》ってことは、おれ自身の記憶で転送が出来るようになる?
そう思っていたら、火山渓谷ごとロキュンテの町が目の前に来ていた。
「あれっ?」
さっきまで後ろに見えていたルタットへの入り口が閉ざされている。結界に似た魔法のように見えるがどういうことなんだ。ルティたちを町の中に残したままだったが、使用者以外に干渉させない制限スキルという可能性がある。この辺も含めてルシナさんに聞いてみるしかないな。
眼前に広がる景色は確かにロキュンテに違いないし、ルティの母ならすぐにでも来てくれるはず。
今回は目の前に高くそびえる山が土台にあった。だからか、違和感なく移動して来たように見える。ロキュンテの町から出て来る人の姿は――
「ちょっとちょっとアックさん! 駄目じゃないですかっ!! 都合よく町を移動させては魔力消耗が――あれ?」
ルティによく似た母親ルシナさんが予想通り急いで駆けつけて来た。予言していたのか、そこまで怒り狂っているわけでは無さそう。
「す、すみません、ルシナさん」
「いいえ。転送のことを言っておきながら、詳しく教えていなかった私が悪いのですから。それにしても短期間で随分と魔力が増えていますね」
「ルティの特製ミルクが効いたんじゃないですかね~」
「あの子ったら、またそういう……。ところで、あの子はどこへ?」
やはり母親の知らない領域によるものか。
「ご存じないんですか? おれの後ろに見えている結界の先に町がありまして、そこで待ってますよ」
「不干渉転移……ですか。なるほど」
ルシナさんは難しい顔をしながら何かを考えている。
「あの……?」
「アックさん、今回は意図的にあの子を町に残されましたか?」
「え? いえ、そんなわけでは……」
「それとも何か不都合なことが? ……いずれにしてもアックさん! 魔力消耗はともかく、町転移はむやみやたらに使っては駄目ですよ!」
「ご、ごめんなさい」
ルティと同じ顔をした大人な女性に怒られると何も言えなくなる。心配しなくても、ロキュンテの転移は残り一回だけだ。さすがに易々と呼ぶことも無いだろう。
「……アックさん。転送のやり方ですがその前に、以前訪れた時にいらっしゃった女性は戻られましたか?」
「バヴァルのことですか?」
「あの時、時戻しのローブを身に着けていたはずです。あれ自体呪われた装備だったのですが……」
装備のこともお見通しだったか。あの時点でルシナさんは何かを感じていたということになる。
「若返って魔石を奪い、行方知れずでした。ですが、今は……」
「あの女性だけを私の所に連れて来られませんか? アックさんたちが連れて行くと、とても良くない予感がします」
「え、でも不干渉の」
「私とご一緒であれば行けるはずです。とにかく急ぎましょう!」