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菊の花の彼女/     「少女レイ」曲パロ

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菊の花の彼女/     「少女レイ」曲パロ

1 - 菊の花の彼女/     「少女レイ」曲パロ

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2024年09月26日

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どうも、nanaha.です。

この小説は、みきとPさんの「少女レイ」をもとに書いたものです。原曲を聞いてから読むことをお勧め致します。

みきとPさんに、最大のリスペクトを込めて。



「凛ちゃん、よく来たねぇ。さあ、私がいても気まずいだろうし、一人で行くかい?」

「じゃあ、そうします。」

「そうか。じゃあ、あの農道のあたりに看板があるから、それのとおりに行ってね。」

久々に来た気がする、梵の家。前に訪れてから2年ほど経っているだろうか。

梵のお母さんは、相変わらず優しくて気さくで肝が座っている。ただ、少し頬がこけただろうか。不健康な痩せ方をしている。

「では、お邪魔しました。」

「いや、うちに荷物置いてるでしょ。私も凛ちゃんと話したいんだし、そうすぐに帰んないでよ。」

凛ちゃんったら、と鈴を転がすように笑っている。

私はセーラー服のスカートを翻し、目的の地へと向かった。


梵。そよぎ。口の中でその響きを転がす。

梵は高校で出会った、私の一番の親友だった。

「凛ちゃん、見て!この花、菊だよ、菊!」

梵は、菊の花が好きだった。そのためか、梵の家の庭には、菊の花が咲き誇っている。近くの公園の菊を見に行ったこともある。

6月19日の梵の誕生日には、おそろいの菊のキーホルダーを贈った。

無邪気に喜んでいる梵の顔を見て、ふと聞いたことがある。

「なんでそんなに菊が好きなの?」

すると、少しうつむいて顔を赤らめ、

「凛ちゃんにぴったりな花だから。」

と答える仕草は、とても可愛かったのを覚えている。


…いつからだろう、この平和な関係が歪んでいったのは。


私は梵が好きだと気付いた。

これは、友情の好きではない。恋愛感情としての「好き」だ。

でも、私は知っている。同性を好きになることは、笑いものにされることなのだと。学校というコミュニティの中では、罪に値するものなのだと。

実際、「凛と梵って付き合ってるの?」なんて嘲笑されたこともあった。

だから私は考えた。罪とされないように彼女と関わる方法を。

そして新学期の9月1日、

私は本当にそれをした。


梵は自分の机を見て呆然としていた。

「梵、どうかしっ…」

気づいた私は言葉を切り、梵は、机の上を指さした。

そこには、菊の花が挿された花瓶があった。

「なんかさぁ、アンタ。」

戸惑っているうちにいつの間にか、目の前にギャルの三人組がやって来ていた。

「凛と仲良くなったからか知らないけどぉ、最近イキっちゃっててダッサイよ?」

「それな。男ウケ気にしすぎっていうかぁ。天然な自分カワイイって思ってそうw」

「ウチらこれ前から思っててぇ。でも言わないであげてたんだよ?」

「この花瓶置いたヤツ、マジナイスすぎ。みんな思ってたってことだよねぇw」

「ウケるwww ってか、凛も横居てあげなくて良いよぉ。ウチらと居よ?」

「ってことで、じゃね〜」

三人は一気に捲し立てると、最後に梵の足を踏んづけて去っていった。

私は梵の腕を引き、廊下へと連れて行く。

「梵、大丈夫?」

うつむいている梵に声を掛けると、薄く笑って私を見た。

「私は大丈夫だよ。凛ちゃん、もう私と居ちゃだめだよ。離れてよ?ね?」

梵は自らに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。その瞳に涙が溢れ、その声は掠れて震えていく。その様は酷く残酷で、醜かった。

私は、陶器の様に白い肌を、静かに両の腕で包み込んだ。

「なぁに。大丈夫だよ。梵ひとりで戦わせない。二人ならへっちゃらだよ。ね。」

私は梵の耳元で囁く。

「私の手を掴みなよ。」

そして、梵の手にそっとキスをした。


梵は少し不思議ちゃんな節があり、それを一部の、いや、大半のクラスメイトが疎んでいることも私は知っていた。

だから、私はそれを利用した。

花瓶を置いたのは、何者でもない、私。そうすれば、さっきのギャルみたいに誰かが表立ってイジメだすのだ。これは、この戦場を生き抜くための常識。

菊を選んだのは、梵の好きな花が、葬式で供えられる花なのだという皮肉だ。

思わず笑ってしまいそうになるのを堪え、腕の中に梵がいることの幸せに浸る。

このまま二人きりの世界で、愛し合えるさ―。


そこから私達は、もっと仲良くなった。

教科書を隠された日は二人で机をくっつけて読み、体育倉庫に閉じ込められた日は助け出した。ジャキジャキに切られたスカートを、一緒に縫ったことだってあった。

私も巻き込まれたけど、梵に頼られる幸福感がそれを上回った。

でも、そんな幸福も長くは続かなかった。


1年生としての1年間を終え、春休みが始まった頃、事件は起こった。

終業式の日の夜、梵のお母さんから電話があった。

「はい、もしもし。雨乃です。」

『あ、凛ちゃん?夜遅くにごめんねぇ。あの、梵のことなんだけど。』

電話口のお母さんは、慌てているようだった。

「あの、落ち着いてください。急かさないので、深呼吸して。」

『ふぅ…取り乱してすまないね。それで、梵のことなんだけど、見てない?』

「梵ですか?今日はいつも通り門の前で別れて、その後は特に…。あの、梵になにかあったんですか?」

嫌な予感がする。冷や汗が吹き出し、背中がチクチクする感覚を覚える。

『それが…まだ帰ってきてないのよ。』


2日後、梵は見つかった。

線路の中で、遺体として。

制服姿で見つかったことから、学校を出たその足で向かったのだろう。通学鞄についていた菊のキーホルダーは、いつか私があげたものだった。

「梵、ごめんね、ごめんねぇ…っ。」

梵のお母さんの咽び泣く声をバックに、私の心は不思議と凪いでいた。

いつかこうなるとわかっていた。私の行動で、梵を傷つけることもわかっていた。でも私は、梵を傷つけてまで自分のものにしようとしたのだ。

だって、梵が悪いんだ。梵が私以外を見るから…。

自分の考えに、責任転嫁も甚だしい、と鼻で笑う。

もう一度梵の遺体を見ると、菊のキーホルダーが千切れていることに気付いた。


「凛ちゃん、起きて!」

寝ぼけ眼を擦りあたりを見渡すと、そこは一面の菊畑だった。

「おわ、起きたぁ!凛ちゃんおはよ!」

そして、セーラー服に身を包んだこの少女は、

梵だった。

「梵!?」

「うん!いやぁ、向こうで事故に巻き込まれちゃってさ、こっち来ちゃった!」

「事故…。」

「そうそう。生理中でさ、貧血気味だったんだ〜」

のほほんと喋る梵を、私は驚いて見る。でも、状況を飲み込むと、ホッとした自分がいた。

この期に及んで何を、と思うも、私のせいじゃないことに安堵している。

「最近ゆっくり喋れてなかったし、菊見ながら喋ろうよ!」

久しぶりに二人でじっくり菊を見た。色とりどりの菊の花が咲き誇る菊畑は、とても美しく神々しささえあった。

「私、やっぱり菊が一番好きだな。」

珍しく静かな声で呟いた梵が、とても孤独に見えた。


「楽しかった〜!っと、言わなきゃいけないことがあるんだ。」

あたりを巡り終え、伸びをしているところだった。

「あのね、凛ちゃんに伝えたいことがあるんだ。」

嬉しそうな、でもどこか泣き出しそうな笑顔を私に向ける。

「何?」

すると、目から大粒の涙をぼろぼろと零す。

「君は友達だよ。」


もう何十年も前の話なようで、1日しか経っていないようにも感じる。

これまで、怖くて墓参りをしていなかった。でも、高校を卒業するこのタイミングで、自分の感情に折り合いをつけておきたかったのだ。

「―梵。」

集団墓地の一角、教えてもらったお墓へとたどり着く。

できるだけきれいに掃除をし、線香と菊を供える。思い出の公園から取ってきた菊だ。

墓の前で目を閉じ、手を合わせた。

あの笑顔が、あの無邪気さが、私の頭を今でも蝕んでいるんだ。

本当に最低なことをした。だからせめて、今私が言えるのは。

「安らかに、お眠りください…。」


目を開けると、そこには。

透明な梵が、私を指さしていた。

『眠れないよ。』

頭の中に、梵の声がフラッシュバックする。

蝉の声と菊の影が、その声を立体的にする。


ああ、今更だけど気づいたよ。


「今、そっち行くね。」


菊の花の花言葉:あなたはとても素晴らしい友達



お読みくださりありがとうございました。

感想・リクエストお待ちしております。

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