名前をお借りしていますがご本人様とは関係ありません。
時刻は23時57分。
俺たちは、窮屈なソファにふたり、並んで腰をおろしていた。
「そろそろだね。若井の誕生日」
「うん。
…いやー、そろそろ28歳も終わりなんだ」
「ほんっとあっという間。去年から1年とか。
てか、俺も少しの間は若井より年上だったのに。」
「笑、そうだね。
いやもう、年齢だけじゃなくてなんでもすぐ追いついちゃうからね。走るよ、置いてかれないように」
「もともと同じトコだよ、若井とは。差なんてないんだから」
「嬉しいこと言いますねえ、急に。……ありがと」
なんだか話が変な方向へ行ってしまい、互いに続ける言葉もなく、沈黙が流れる。カチ、カチ…と秒針が動く音だけが部屋に響き続けた。
「ねえ、元貴。29歳の俺も愛してくれる?」
沈黙を破るべくか細い声を絞り出す。聞こえるか聞こえないか、そんなレベルの。
「何言ってんの、当たり前じゃん。
……ずっと好きだよ、若井」
元貴はなかなかストレートに愛情表現をしない。それこそ、こういう特別な日以外は。
だから、こういうときに少しでも愛を確かめておきたかったのだが……あまりにもまっすぐに見つめてきて、好きだなんて言われると照れてしまう。こんなので真っ赤になってしまう自分に苦笑する。
「あ、そろそろだよ。はい、3、2、1……」
「ういー!誕生日おめでとう、若井」
「ん、ありがと。初お祝いは間違いなく元貴だね」
「うん。あったりまえよ。
あ、ちょっと目つぶってて。準備するから」
「?うん」
目をつぶると、暗い世界が広がった。
ばたばたという音だけが情報として入ってくるが、あっちこっちに移動する元貴の様子が容易に頭に浮かび、思わず笑ってしまう。
元貴の足音が聞こえなくなり 暗い瞼の裏しか見えなくなったところで、今までのことを思い出す。
元貴と出会った中学時代。
ミセスの前身バンドのこと、それが解散したときのこと。
元貴と再会し、ミセスを組んだときのこと。
活動休止、フェーズの移り変わり…数え切れないほどの思い出。
元貴と付き合う前も付き合ってからも、自分はずっと幸せだったなと、改めて感じる。
そんなことを考えていると、足音が近づいてきた。今度は ぱたぱたと、ゆっくりと歩いているようだ。近くに来たようで、ふわっと元貴の香りが鼻をかすめる。元貴が座ると、ソファが軽く沈んだ。
「んしょ。はい、目開けて」
「ん。……あぁ!ケーキ!!しかもいいとこの…!」
「うわ嬉しそ。
えー、改めて若井、誕生日おめでと。じゃあここでプレゼントでーす」
そう言って元貴は、 手をいっぱいに広げてこちらを見つめてきた。 何が言いたいのか瞬時にはわからず、顔を顰め首を傾げていると。
「プレゼントはおれ。…みたいな?」
そう言って元貴はにこっとはにかんだ。
「なーんて笑 ちゃんとしたプレゼントもあるから……」
そう言って持ってきていた袋をゴソゴソと漁る元貴をよそに、俺の口から出た言葉は。
「…たべたい」
「ああ、ケーキ?ごめんごめん、早く食べよ。
あ、あーんしてあげよっか?笑」
「違う、元貴」
「元貴食べたい」
口をついて出た言葉だが、元貴の戸惑う顔を見てもこの欲は消えなかった。目の前のこの可愛い生物が、恋人が、食べてしまいたいほどかわいくて仕方がなかった。
「いい?もう、0時…だし、夜、夜だよ」
「んちょ、ねえ、同意を求めてるふりしてるけど断らせないよね?待ってよ先に、ふつうにお祝いさせて」
どうしよう。今すぐ力いっぱいにハグだけでもさせてほしい。メンバーとしての、友達としてのお祝いも嬉しいので、先にそれを受けておくべきか。
「キスだけさせて」
「まあいいけど…」
29歳になって間もないのに、もう元貴との初キスを迎えた。柔らかい唇の感覚はいつまでも変わらない。
「元貴、すきだよ」
「うん、おれも。
…誕生日おめでとう、これからも一緒にいてね」
ということで おめでとうございます。おふじも登場させればよかったな、完全に二人の世界ですね。
恐らくこれを最後に一旦書くのやめますまた帰りますたぶん!ありがとう!
コメント
1件
相変わらず今回も最高すぎます… 投稿お疲れ様です!またいつか見れる日を楽しみにしてます👀