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『マイク越しの、君の声』
― Prologue ―
スタジオの空気は、いつだって独特だ。
防音ガラスの向こうに、スタッフたちの真剣な視線。
その前で、二人の声優が立っている。
ディレクター「じゃあ……5話、アフレコ入りまーす。Aチーム、テイク1、スタート」
短く響いたディレクターの声のあと、スピーカーから効果音が流れる。
シリアスなシーン。
対立するキャラ同士が、ついに感情をぶつけ合う重要回だ。
静かに息を吸って、入野自由がマイク前で口を開く。
入野(キャラ):
「……もう我慢できない。俺は、お前が欲しいんだよ」
そのセリフが響いた瞬間――
スタジオの空気が、一瞬だけ張り詰める。
神谷浩史が眉をわずかに動かす。
予定されていたセリフ。けれど、そのトーンが妙にリアルだった。
演技とは思えないほどに、真っ直ぐで、熱を帯びていて。
神谷は戸惑いながらも、すぐに演技を続けた。
神谷(キャラ):
「……バカを言うな。俺たちは、敵同士だろ」
無事にテイクは終わり、ディレクターが「OKでーす」と声をかける。
けれど、神谷の心臓は落ち着いてくれなかった。
視線を感じる。
ふと横を向けば、自由がいつもの穏やかな笑顔でこちらを見ていた。
ただ、その笑顔が今は――なぜか怖いくらいに真っ直ぐで。
神谷(モノローグ):
(……あいつ、あのセリフ……本気だったんじゃないのか?)
そして、この瞬間から。
ふたりの距離は、確かに変わりはじめていた。
――マイク越しに交わした声の奥に、本当の気持ちが隠れていることに、
まだ誰も気づいていなかった。