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雨月
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朝食を終えた館内は、それぞれが思い思いの時間を過ごす穏やかな空気に包まれていた。
レウさんは厨房で手際よく大きな鍋や皿を洗い、夕食の下ごしらえを始めている。ガストの魔人である彼は、時折小さな火の粉を指先から散らしながら楽しそうに料理の準備を進めていた。
中庭では、きょーさんとコンちゃんが日当たりの確認をしながら庭の手入れを行っている。頭上に輝く光輪を浮かべた天使の魔人・きょーさんと、どこかマイペースで不思議な雰囲気を纏うイカの魔人・コンちゃんの会話が、風に乗って爽やかに響いていた。
みどりくんは、壁や廊下をふわふわと透けて通り抜けながら、かくれんぼでもするように館の中を楽しそうに散歩している。
村で忌み嫌われ、毎日のように石を投げられていた僕にとって、ここはまるで夢のような場所だった。誰も僕を「無能」と蔑まない。魔力がないことを責めもしない。ただ一人の仲間として、温かく接してくれるのだ。
僕はリビングの大きなソファに腰掛け、膝の上に置いた古い本を眺めていた。けれど、頭の中はさっき思い出した過去のことや、母さんから託されたペンダントのことでいっぱいになり、文字はまったく頭に入ってこなかった。
rd「……ぺいんと。何難しい顔してんの?」
不意に上から声をかけられ、顔を上げると、らっだぁが覗き込んでいた。
青鬼の魔人である彼の頭には、小さな二本の綺麗な青い角が生えている。けれど、その瞳はどこまでも澄んでいて、僕を見つめる眼差しは優しい。
pn「あ、らっだぁ……。ううん、なんでもないよ」
rd「嘘つけ。顔に『悩んでます』って書いてあるぞ」
らっだぁはニッと悪戯っぽく笑うと、僕の隣にすっぽりと腰を下ろした。ソファが少し沈み込み、彼と僕の肩が軽く触れ合う。その部分から伝わってくる温もりに、胸がどきりと跳ねた。
rd「……ねえ、ぺいんと。ちょっとそれ、見せて」
らっだぁが指さしたのは、僕の首元から覗く黄色いペンダントだった。
pn「これ……? うん、いいけど」
僕は首からペンダントを外し、手のひらに乗せて彼に見せた。
光に透かすと、中の宝石が淡く黄色い輝きを放つ。
rd「やっぱり……気になるんだよね」
らっだぁはそう呟くと、僕の手の上に自分の手を重ねてきた。
冷たいペンダントを挟んで、らっだぁの大きな手が僕の手を包み込む。彼の体温がダイレクトに伝わってきて、顔が一気に熱くなるのが分かった。
pn「ら、らっだぁ……!? 近いよ……」
rd「いいじゃん。……なぁ、ぺいんと。俺さ、ぺいんとと出会ったときからずっと不思議だったんだ」
らっだぁは急に真面目な顔になり、じっと僕の目を見つめてきた。至近距離で見つめ合ってしまい、息が止まりそうになる。
rd「俺たち、森で会ったのが最初のはずだろ? でも……こうやってぺいんとの近くにいると、すごく懐かしい感じがするんだ。ずっと昔から、こうやってぺいんとの隣にいたみたいな……そんな感覚になるんだよ」
pn「懐かしい……? らっだぁも……?」
rd「『も』ってことは、ぺいんとも同じこと思ってたの?」
pn「うん……。僕も、らっだぁの声を聞くと、昔どこかで聞いたことがあるような気がして……」
僕がそう答えると、らっだぁの表情がぱっと明るくなった。
彼はそのまま僕の手を握り直し、もう片方の手で僕の頭を優しく撫でた。
rd「そっか。やっぱり俺だけじゃなかったんだな。……ぺいんとに魔力がなかろうが、なんだろうが関係ない。俺が絶対にぺいんとを守るから。だから、ここにいていいんだよ」
pn「……うん。ありがとう、らっだぁ」
まっすぐな言葉と優しい手つきに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
村では両親しか僕を必要としてくれなかった。けれど、この館で、この人は僕の居場所をくれたのだ。
照れくささを誤魔化すように僕が俯くと、らっだぁは嬉しそうに「あはは、顔赤い」と笑った。
しかし――そんな穏やかな時間は、唐突に破られることとなる。
??『―――……戻せ……』
pn「……え?」
耳元で、かすかな声が聞こえた気がした。
風の音でも、みんなの会話でもない。地底から響くような、暗く冷たい男の声。
rd「ぺいんと? どうした?」
pn「あ……ううん。なんか、声が聞こえたような気がして……」
僕が困惑しながら首を振ると、手に持っていたペンダントが、ほんのりと熱を帯び始めた。
pn「熱い……?」
ペンダントの黄色い石が、まるで生き物のように不規則に明滅している。
らっだぁもその変化に気づき、険しい表情で立ち上がった。
rd「……ぺいんと、後ろに下がってろ。……誰か来る」
その言葉と同時に、館全体が激しく揺れ動いた。
コメント
1件
ああ、もう、らっだぁの「俺が絶対に守るから」って台詞にグッときました……。村で傷ついてきたぺいんとにとって、この館が「居場所」になる瞬間がすごく丁寧に描かれていて、じんわり温かくなりました。 それだけに、最後の不気味な声とペンダントの異変には心臓が跳ねましたね。穏やかな日常に突然影が差す、その対比が鮮やかで、続きが気になって仕方ないです。この世界観、本当に好きです。素敵な物語をありがとうございます。