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「まさか……本当なのか? 前におまえは、うまくいかなくてと話していたのに」
父が驚きに目を見張る。
「うん、前にはそう話したんだけど、こないだのレセプションパーティーで、いろいろと勘違いしていたことも晴れて、それで……」
照れ隠しに、グラスを手の中でそわそわともてあそびながら話した。
「そうか、やったな! やはり父さんの選んだドレスが、功を奏したか?」
ここぞとばかりに父が笑って言う。
「それも、あるかもだけれど……」
手放しに喜ばれて、気恥ずかしい思いで口ごもる。
「貴仁君は、おまえのあのドレス姿を、気に入ってくれたんだろう?」
父からダメ押しでにこやかに問いかけられると、『そのドレス、似合っているな』というセリフが、頭の中で彼のやや低めな声で再生されて、頬が薄っすら赤くなるのを感じた。
「うん、彼も褒めてくれたから、プレゼントしてくれてありがとう……」
火照った頬を両手で押さえて、父にドレスのお礼を伝えた。
「……よかったな。父は、喜ばしいぞ」
大きな手の平がぽんと頭に乗せられる。
「私も貴仁君を勧めはしたが、まさか本当に付き合うことになるとは、あまり思っていなかったから」
「えっ、そうだったの?」
まさかという思いで顔を向けると、「ああ」と父が頷いて見せた。
「なにしろ向こうサイドのキャパシティが大きすぎるんで、価値観なども合いにくいのかもしれないと考えていたしな」
私自身が抱いていた彼への初めての印象を、父はとっくにお見通しだったことに、ちょっとびっくりしてしまう。
「顔合わせの時には私もそんな風に感じて、やっぱり無理なようにも思っていたんだけれど、彼の本心がわかったら、そういう価値観の違いとかも擦り合わせていきたいなって、自然と思えてきて」
「そうか……」と、感慨深げに父が応じる。
「……きっと久我の奴も、喜んでいるだろうな」
新たに注文していた熱燗から、お猪口に注いだ一口を飲んで、父がポツッと呟いた。