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第2話 白の海
酒場に 入ると、相変わらずの顔ぶれが揃っていた。
「おお、ノア!」
「ルーサー爺。また酒飲んでんの…?やめとけよ、死ぬぞ。 」
「酒で死ぬなら本望ってな!ははは!!」
「全く…おい、ノーラン!あんたにも言ってんだぞ!!」
「分かってるわ!うるせえガキだぜ…」
「ははは、正直でないが心配してるんだろ、可愛いじゃねえか。」
「なっ…別にそんなんじゃない!!」
「見ろ!!俺を言う通りだ!!」
ノアはからかい続ける老人に口を結んだ。
「お?なんだ、ノア?拗ねてんのか?
可愛い奴だ。図体ばっかりでかくなりやがって」
「中身はなんにも変わってねえなあ」
「うるさい!! 」
「中身は少しばかりひねくれたかな?」
「そうに違いねえ!」
もう何を言っても笑われるので、ノアはげっそりしてため息をついた。
とはいえ、ノアはこの空気が好きだった。変に気遣う奴もいないし、
むしろ楽しい。
同じ年頃の奴がいない村では、この酒場が遊び場だ。
「ほらよ、ノア。」
「なに、これ」
「林檎ジュース」
「……ナメてんの?」
「しょうがねえだろ、ガキが酒飲めると思うなよ。」
「もうガキじゃねえ!」
ルイスは聞く耳を持たずケラケラと笑っている。
酒ぐらい飲めると思うのだが、妙なところで律儀な男なのだ。
久々の林檎ジュースは甘ったるくて、脳が絶叫している。
(あっま……)
「あ!おい、ノア!俺の酒返せ!」
ノーランの酒を奪い取ると、ノアは大きく呷った。
「ふふ、俺だって大人だ!酒ぐらい飲めるぞ。」
「ったく…俺の酒返しやがれ!」
「ほらよ」
ノーランは不服そうに渡された林檎ジュースを飲んだ。
「ふふ」
そんな酒場に似合わない、上品な笑い声がした。
(……ん?)
ノアは不思議に思って、声がした方向を見た。
いるのは、白いフードをかぶった旅人である。先程まで店主となにやら話し込んでいたようで気づかなかった。
(この村に、旅人?珍しいな )
世界の端…すなわち田舎。こんな場所に旅人だなんて、異様以外にどんな言葉が当てはまるだろうか。旅人はこちらを見てくすっと笑った。
(なんだ……?)
「お、そういやノア、言ってなかったな。白い海から来たって言う旅人だ。」
「白い海だって?」
「初めまして。」
やけに澄んだ声だった。
(女か?)
「白い海から来たって…本当か?」
「ええ。」
「白海は、本当にあるのか?まさか、伝説の…?」
「この地域では、そう呼ばれているようですね。」
ノアは思わずノーランの酒を落としかけた。
「こちらからしたら、黒海が本当に存在していたということの方が驚きでしたけれどね。」
「白海には人や物が現れるというのは、本当の話なのか?」
「極稀に、人が流れ着きます。」
「……!!」
旅人は嘘をついているようには見えない。ノアが混乱していると、旅人は背負っていた鞄から瓶を取り出した。
「これは白海の海水です。」
「なっ……本当か?」
「ええ、治癒の効果がありましてね。旅人は重宝しています。お近付きの印に、どうぞ。」
「……あ、ありがとう」
白濁した液体は、瓶の中できらきらと光っている。とても美しいので、ノアはため息をついた。
「黒海の海水もすくって来ようかと思ったのですが、触ると危険だと言うので……諦めましょうかね。」
「別に触れる分には問題は無いはずだ。その先は…知らないが。」
「おや、そうですか。証拠として持って帰りましょうかね。」
(もしかして、父さんはあっちで生きてる……?)
父さんが帰ってくるのなら、もしかしたら母さんも治るかもしれない。
父さんが帰ってくるのなら、もう黒の海の研究なんかやめろと怒鳴ることができるかもしれない。
父さんが帰ってくるのなら!
「お、俺も行きたい。」
「……え?」
「な、何を言ってるんだノア?」
「俺も白海に行きたい。迎えに行きたい…いや、迎えに行かなきゃ行けない人がいる。」
旅人は暫く考えたあと頷いた。
「いいですよ。」
「!!」
「そろそろ帰ろうかと考えていたんです。ついでに案内は可能ですよ。」
「な、なら…」
「その前に、保護者の方とよくご相談を。」
ノアの背後には、曇った顔のルイスが立っていた。