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僕達はあいつらみたいに素直じゃない。
あいつらみたいに可愛くもない。
あいつらみたいに愛される存在じゃない。
先輩はこんな僕達でも、愛してくれますか?
「降ってきた。」
地面を打ちつける雨を見ながら伝七は唇を噛んだ。
「フフッ。この雨じゃぁ僕たちの居場所なんて分かんないね。」
伝七は自分の肩に頭をのせている彦四郎に視線を向けた。
実習中に山賊に襲われた。逃げる途中で誤って崖から落ちてしまい今に至る。
「そんなこと言うなよ。あの鉢屋先輩と尾浜先輩だぞ。今頃雨の中を必死で探してるよ。」
そう優しく言うと、彦四郎は嬉しそうに笑った。
「そうだね。」
「傷、まだ痛むか?」
伝七が心配そうに、頭巾で応急処置した腕の傷を見た。
「うん。でも、体がすごくだるいんだ。」
触るとすごく熱かった。
「ごめん。ぼく、学級委員長‥‥なのに‥‥‥。」
彦四郎はそのまま目を閉じてしまった。
「彦四郎!?」
「傷にばい菌が入ったんだ。」
そう言って顔を真っ青にした一平の足は腫れ上がっていて歩けない状態で、体中傷だらけだった。
「‥‥とりあえず横にしよう。」
そう指示した左吉の右手は四人の頭巾で固定されており、左頬には殴られた痕がある。
伝七は自分の風呂敷を彦四郎にかけた。
「‥‥伝七、大丈夫?」
一平が心配そうに伝七を見る。
伝七の左肩から背中の真ん中あたりには痛々しい刀傷があった。勿論包帯などはないため無処置だ。
他にも伝七の体にはたくさんの打撲痕があった。
「大丈夫だよ。お前は人の心配より自分の心配をしろよ。」
「うん。」
自分たちの中で一番ひどいであろう傷を負っているはずなのに、痛そうな顔一つしない伝七に一平はもちろん、左吉も顔を顰めた。
雨はどんどん強くなっていく。
「‥‥先輩、探してくれてるのかな。」
ふと、一平が言った。
「僕さ、全然素直じゃなくて、可愛くないから竹谷先輩来てくれないんじゃないかなって、思うの。生物委員会、一年生四人もいるし一人くらいいなくなったてなんにも思わないんじゃないかなーって。」
その言葉に、二人は何も言えなかった。
自分も同じことを考えていたからだ。。
「‥‥ごめん、ちょっと意識が、」
一平はそのまま眠るように倒れてしまった。
「一平!?」
「気を失ってる‥‥」
一平を彦四郎の隣に寝かせた伝七は遠くを見ながら笑った。
「左吉。僕さ、一平と同じこと考えてた。」
「‥‥‥‥。」
「僕は兵太夫みたいにすごいからくりを作れるわけでもないし、かと言って作法委員会の先輩方みたいに得意なことがあるわけでもない。だからいなくなってせいせいするって思われてるかもなって。」
「‥‥僕もだよ。」
僕も、左吉も弱っている。大好きなはずの先輩を信用できないほどに。どうせ先輩方は来ない。そうとしか考えられない。
「先輩‥‥‥助けて、」
僕の声は、大雨の音によって消されていった。