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「わぁ!こんな人の数、見たことないです!!!」
ルナは初めて目の当たりにする建国祭の賑わいに驚きを隠せないでいた。車道にはたくさんの馬車が行きかい、またその両サイドを多くの人たちが歩いている。
「やはり今も変わらずこの時期は賑わってるな」
「オルタナさん、これからどうしましょうか?どこから見て回りますか?」
ルナはまるで子供のようにキラキラした目をしてこちらを見つめていた。今すぐにでも駆け出していろんなものを見てみたいという気持ちが目からも仕草からも溢れ出ていた。
「そうだな、早く見て回りたい気持ちも分かるがまずは今夜泊るところを確保しないと」
「あっ、確かに…でもこんなに人がいたらどこの宿も満室かも…」
「だろうな。だが一つだけ部屋を用意してくれるかもしれない伝手があるからまずはそこへ行こう」
そう言って俺はルナを連れてとある宿屋へと向かって歩き始めた。
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「お、オルタナさん…伝手のある宿屋って本当にここですか?」
「ああ、ここだ」
「ど、どう見ても高そうなんですが…」
俺たちは広場から十数分ほど歩いた場所に建っている大きく、そして豪華な高級宿の前に来ていた。そのキラキラとした見た目に困惑しているルナを横目に俺は気にせず中へと入っていく。
「お、オルタナさん!置いていかないでください~!!」
「そんなに緊張することはない。言っただろ、伝手があるって」
おどおどして俺の後ろの隠れるようにして付いてくるルナに合わせてゆっくりと入り口のドアを開けて中へと進んでいく。
宿屋に入るとそこにはさらに豪華な装飾を施されているロビーのような場所が広がっていた。すると俺たちの元に綺麗な正装に身を包んだ男性が近づいてきた。
「ようこそいらっしゃいました。ご予約はありますでしょうか?」
「予約はしていないが一部屋空いてないだろうか」
「…すみませんが、こちらの宿は完全予約制でして」
「ああ、もちろん知っている。とりあえずここのオーナーに『SSランク冒険者のオルタナが来た』と伝えてくれ」
俺はそう言いながら彼に冒険者カードを見せつける。彼は目の前に出されたカードを受け取ってじっくりと目を通すと数秒ほど固まったのちそのカードを俺の元へと返してきた。
「…少々お待ちください。オーナーにお伝えしてきます」
淡々とそう言うと彼は落ち着いた足取りで奥へと消えていった。警備兵の時と違って彼は全く驚くそぶりを見せることもなかったことに少し感心した。流石は高級宿の従業員、しっかりと所作の一つ一つに気が配られている。
「オルタナさん、良かったんですか?あまり目立つことはしたくないんじゃ…」
「ああ、確かにその通りだがここなら目立ちすぎる心配はないだろう。ここのような高級宿には国内外問わず貴族や王族以外の多くの権力者がやって来る。そのような場所では従業員が客の情報を口外すると宿としての信用問題に関わる。だからこそここでオルタナとしての名を使ったところで嫌に広まることはないという訳だ」
「なるほど…」
俺の後ろで隠れていたルナは小声で俺の心配をしてくれた。俺の後ろに隠れながらもこのような場所に来たことないからか物珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡していた。
まあそんな俺もこんな場所に来るのはかなり久しぶりだ。
そうして従業員がこの場を立ち去ってから5分も経たないぐらいに奥から正装をし、杖を突いた老人がこちらへと急いでやってきた。
「お、オルタナ様、お久しぶりでございます!ようこそいらっしゃいました!!」
「お久しぶりです、ラグジュ会長」
俺はラグジュ会長とあいさつを交し、そのあと彼の目線まで屈んで握手をする。するとその後ろから先ほどの従業員が急いでやってきて会長の後ろで待機する。
「本日は当宿にお泊りいただけるとそこの者から聞きましたがどのようなお部屋に致しましょう?」
「過度に豪華でも広くもなくていいのである程度の設備の揃ったベッドが2つある部屋を一部屋用意して欲しいのですが、どうでしょう?」
「畏まりました。すぐに用意させますのでしばらくお待ちいただけますか」
「ええ、もちろん」
するとラグジュ会長は後ろで待機していた従業員にすぐに部屋を用意するよう指示をした。指示を受けた従業員は礼儀正しく一礼をするとすぐに奥へと消えて行った。
「それにしてもオルタナ様、突然いらっしゃったものですからびっくりしましたよ。事前にお伝えいただければしっかりと歓迎の準備をさせていただいたのに」
「突然来てしまって申し訳ない。王都に来ることが決まったのがほんの数日前でしたから連絡する暇がなく…」
「左様でしたか…!そんなお忙しい中、我が宿のことを選んでいただいたことに感謝いたします。ところでそちらの方は…?」
ラグジュ会長はちらっと俺から俺の後ろに隠れるように立っているルナへと視線を移動させる。
その視線に気づいたルナは少し体をビクッとさせて姿勢を正した。
「この子はルナ、私のパーティメンバーです」
「は、はい…!る、ルナと申します!!!」
「パーティメンバーの方でしたか!なるほど…あのオルタナ様が選ばれた冒険者様なのですから、さぞ素晴らしい方なのでしょう」
「ええ、もちろん。彼女はとても優秀な冒険者ですよ」
そんな会話をしていると奥から先ほどの従業員が戻ってきた。彼はラグジュ会長の耳元で何かを伝え終えるとすぐにその場を後にした。
「お待たせいたしました。お部屋の準備が整いましたのでご案内いたします」
「お願いします」
そうして俺たちはラグジュ会長の後を追って部屋へと向かって行った。
その道中、ふとルナの様子を見てみると何だか先ほどまでの緊張した様子から打って変わってとても嬉しそうな様子だったので心配はなさそうであった。
そうして会長に案内された部屋は想像以上に豪華な部屋で、宿というより一つの家と言って良いぐらいの広さと部屋数があった。
部屋の説明と宿のサービスの説明を終えた会長は「ごゆっくりお過ごしください」とどこかへと行ってしまった。
会長もこの時期は忙しいだろうに突然来た俺たちの対応をさせてしまって非常に申し訳ない。おそらく別件の用事も詰まっていたのだろう。
すると案内された部屋を隅々まで見て回っていたルナが俺のところへと神妙な面持ちで駆け寄ってきた。
「あの、オルタナさん。こんな高級宿の会長さんとどうしてお知り合いになったんですか?」
「ああ、そのことか。ラグジュ会長とは以前にギルドからの依頼で知り合ってな。何故かは分からんが会長にとても気に入ってもらって、その時から事あるごとに『ぜひ当宿に泊まりに来てください』と言われていたんだ。だが知っての通り魔道車や長距離移動魔法がある俺にとっては宿は特に必要ないな、会長のお誘いに応じれる機会がなかったというわけだ」
「そうだったんですね。あんな凄い人とも繋がりがあっただなんて驚いちゃいました」
「まあそんなことは置いておいて早速観光に行こうか。行ってみたいところはあるか?」
「そうですね!それじゃあまずはあそこに行ってみたいです!!」
そうして俺たちは少しだけ部屋でくつろいだ後、再び街へと出かけて行った。流石は建国祭中の王都、どこもかしこも賑わって活気が溢れかえっている。
初めて観光してみる風景に目をキラキラと輝かせたルナはとても楽しそうだった。そんな様子を見ている俺までも少し童心に返ったように楽しんでいるのかもしれない。
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オルタナやルナが建国祭の観光を楽しんでいる一方、同じく王都にある王城の中ではアイリスが騎士団長の報告を聞いてため息をついていた。
「以上が極秘に調査を進めている内容の第三次報告となります」
「なるほどね、やっぱりそう簡単には尻尾を掴ませてはくれないわね」
アイリスは数枚にわたる報告書を手にもって眉間にしわを寄せる。第一王子が怪しいとは分かっているのだがその決定的証拠が全く出てこない。
アルト先輩の方が成績は良かったとはいえ、第一王子も彼には届かずともそれに次ぐ賢さはあった。つまりそう簡単にはいかないということだ。
彼女は報告書を見ながら厄介な人が第一王子なんて立場にいるものだと感じていた。
「とりあえず流石のあの人もこの建国祭の間は何もしないでしょう。アレグ、引き続き調査を続けて」
「了解しました」
騎士団長が退室し、アイリスは椅子から立ち上がってゆっくりと歩きベッドへとダイブする。ここ数日の公務での疲れやいろんな問題を抱えているストレスが大きなため息となって出ていく。
「先輩…私、頑張ってますよね」
全てを投げ出して先輩と好きな魔法の話で盛り上がって楽しいだけの日々を過ごしたいと考えてしまう。こんな立場に生まれてしまったことを恨みもするが、脳裏にアルトの顔が浮かび上がってくるとそんなネガティブな感情たちが全て打ち払われる。
「…そうですね、先輩。こんな弱気になっては先輩の横に何て立てませんよね」
アイリスは脳裏に浮かんだ先輩に気合を入れ直してもらった。そしてそのままの勢いでベッドから一気に立ち上がり、再び彼女の戦場へと向かっていった。