テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#デスノ夢
アカツキ
47
──朝。 夜神月は相変わらずBと鎖に繋がれたまま、日々を過ごしていた。
カーテンの隙間から、朝日が漏れる。
重たいまぶたをゆっくりと持ち上げると、最初に目に入ったのは、隣で寝ている黒髪の頭だった。
「…………おい」
月は彼に声をかけてみたが、動かない。
いや、それどころか、Bはまるで自分の居場所を主張するように、ぐい、と身体を寄せてきた。
「……っ、もう……狭いよ」
眉間に皺を寄せ、目を開けぬまま、Bから距離を取った月。ぐいっと頭を押し離れようとしたが、Bは更に抱きついてきた。
(……邪魔……)
まだもう少し寝たい……寝たいのに……すりすりと寄ってこられると気が散って眠れない。
それどころか、相変わらず手首についている手錠も邪魔くさい。
鎖が腰の下に当たって……痛い──
けど、ほんの僅かな寝返りさえしようとしない、月は再び眠ってしまった。
……のも、ほんの数分。
「っ、ぅ……」
Bが更に抱きしめてきた為、目が覚めた。
内心なんだよっと声をあげ、寝返りを打つと、直ぐに僕の胸元にスリスリと頬を擦り付けてきた。
自分と体格の変わらないやつが隣にいると、余計動きづらい。
重いし……。
実際のところは僕より軽いんだろうが、足の上に乗ってる彼の足は重く感じる。
「んー……っ」
眠そうな声でうねると、腰元までずり落ちた布団をぐいっと引っ張った。僕にもBにもかかっていない、掛け布団。それはもう掛け布団の役割をしていない。
僕は軽く自分に掛け布団をかけたあと、残りの半分でBを包み込むように布団をかけた。
ほんの僅かに目を開けたBを見て、収まりの悪い位置が気になってしまう。
ぐいっと腰を引き寄せ、抱き返した。
「んむっ……」
大人しくしてろよ、という意味と、収まりが良くなったよしよしの意味を込めて、背中をポンポンと叩く。
それが良くなかったのか、Bはくすぐったそうに身じろぎ、乱れた長い髪が首元に当たってくすぐったい。
動くな、動くな。
でも、ここで動くなと言って強制ホールドをするほど月は冷たい人間では無い。というより、月にそんな発想はない。──いくらあのキラと呼ばれた月でも、力づくで誰かを支配するような真似はしない。
だから、月はBの頭をポフポフ……いや、ボフボフと叩き、じっとしろの合図を送ると、ようやっと落ち着いた。
さあ、二度寝しよう。
「………………」
つかの間、腰の下に敷かれっぱなしの鎖を退けるのを忘れていた。
(ぁー、痛い、邪魔だ……痛い)
このゴツゴツとした……金属が……めり込んで……痛い。
(……邪魔だよ)
ただちょっと、鎖をずらせば済む話なのに、なぜだろう。寝起きのこの時間帯だけは、ほんの少し動くことすら、世界で一番疲れてしまう。
まあでも、寝てしまえば、分からない。「……我慢しよう」。そう決意したのは、たったの30秒前。じわじわと僕の腰を傷めつけてくる鎖。心身共に攻撃されている。
結果、圧倒的に邪魔すぎる鎖を退けることにした。
ジャラ……ジャラ……。
腰からずらしたと思ったら、今度は尻の横に滑り込んできて──骨に直撃。
「……っ」
思わず、無言で鎖を弾く。
すると、今度はBの方に当たったらしく、嫌がるように身じろいだ。
腕の中からほんの少し離れる。抱きしめていたぬいぐるみのような熱が、わずかに遠ざかる。
……なんか、寒い。
心地よさが崩れたせいで、もう全部がどうでもよくなった。
Bの頭をぐいっと押し剥がし、鎖ごと引っ張って、自分の体を180度寝返りさせた。
──快適。
Bから距離を取れば、邪魔するものは何もない。密着されていた熱も、腰の痛みも消えて、開放感に満たされる。
すると後ろで、もぞっ……もぞもぞ……と音がした。
Bが体を起こし、上からじっと見下ろしている。「なぜ見放したの」とでも言いたげな視線が、後頭部を責めてくる。
無視だ。
気づかないフリを決め込む。
──が、ダメだった。
Bがごそっと身を乗り出し、大胆に体を揺らし始めた。
ゆさ、ゆさ、ゆさ。
「……っ……やめろ……っ」
肩に乗る重量と、布団全体に広がる振動。
わざとらしく左右に揺らしながら、無言で起こしにかかってくる。
「……B、今何時だと思ってる」
「6時です。夜神さんが私を捨てた朝です」
「捨ててないよ……」
「夜神さんの胸に抱かれている途中、頭をひっぺがされて、寝返られた側の気持ちを考えたことがありますか?」
……んー、面倒くさい。
Bはさらに揺らしを強めてくる。見捨てられた子犬というより、質の悪い猫だ。
「分かった、分かった。悪かったよ。ほら」
半ば諦め混じりに、布団から腕を出して広げた。
するとBは、「わぁい」などという可愛げな声を出すわけでもなく、ごく自然に、当たり前のように僕の胸に顔を埋めた。
「っ、重い……」
「愛がですか?」
「……お前がだ」
くくくくっと笑い出すB。僕をからかっているのは一目瞭然だ。
なんだか、もう、目が覚めてしまった。
寝ようという気になれず、Bをチラリと見ると、今までのいがみ合いは何だったのか、穏やかな声で返した。
「……眠れたか?」
「ええ、ぐっすりと」
「そう、なら良かった」
微かに笑って目をそらすと、まだ開ききらない瞼を閉じてぽつりと呟いた。
「いやほんと、助かるよ……Lだと寝ないから」
それは半分、愚痴のつもりだった。何気なく零れた本音に近いもの。
だが──
「……やはりLは寝ないのか?」
すぐさま返ってきたBの声は、思ったよりずっと真剣だった。
「寝ないよ……ずーっとパソコン見てる……まったく、忙しないな、Lってやつも」
「そうか……やはり、寝てないのか……」
ぶつぶつ呟くB。
何をぶつぶつと。
「Lは寝ない……なら、Bも……50時間、60時間、あとは糖分さえ補給できれば……」
何を言っているんだ?と、Bの方へ視線を向けた瞬間、僕はさっき自分が放った軽口を、心底後悔することになる。
「分かりました。では、私もこれからは──寝ません」
「は……はあ?」
「寝ません。絶対に。100時間……いえ、その先、200時間は寝ません」
バカか、こいつは。
死にたいのか?
「……」
呆れすぎて、言葉が出ない。
黙った僕に、Bは勝手に“承認”と受け取ったらしく、何かを決意した顔でうんうん頷いていた。
「これも“L超越”の一歩……」
やれやれ、と心底呆れて、僕は言葉を挟んだ。
「またそれか?そんなの気にするなよ、いちいち……」
「うん?……気にするな?」
Bの表情から笑みが消えていた。
「Lを超えるとか……なんですぐ、誰かと比べるんだよ。……くだらない」
自分でも、少し強く言いすぎたと思った。けれど、言葉が止まらなかった。
「お前がLより寝るとか、寝ないとか、そんなのどうでもいいだろ。“Lに勝ってるかどうか”なんて基準で、自分を測るなよ。……BはBだろ?Lになりたいわけじゃないくせに、どうしていつも、その名前を引きずるんだ?自分らしく生きればいいじゃないか」
Bは微かに目を見開いた。
「……自分らしく?」
そんな言葉を生まれて初めて耳にしたかのように返す。
「……そうだよ。BはBだろ」
月は軽く肩をすくめるが、その表情は思った以上に真剣だった。
「……Bとして、生きる?」
Bの脳裏には、ワイミーズハウスにいたLの姿を思い出した。背中越しに見た“L”の影。いつも、背中ばかりを追っていた。
Bには“B”としての居場所など与えられず、ただ“Lの代わり”か、“次善”として育てられてきた。
「Bはずっと……Lの影──バックアップ。それだけで……」
「だから、逸れてるんだよ」
月は遮るように言った。視線を外さない。
「Lに勝つためとか、Lと同じであるためとか。……それじゃあ、結局、自分を傷つけるだけだ。そんなもので張り合って……何になるんだよ」
Bの目が揺れた。瞳に、一瞬だけ迷いが走る。
今まで考えたこともなかった問い。
「……Bは……Bで、いいのか?」
「当たり前だろ」
月は息を吐くように即答した。
「BはLじゃない。“Lにはなれない”。でも──Lだって“Bにはなれない”」
しんと静まり返る。
窓の外では、朝の鳥の声がどこまでも澄んでいる。
Bは、布団の上で膝を抱えるように身を小さくした。強がりでもなく、悔しさでもなく、初めて見せる素直な仕草。
「……そんなふうに、言われたことはなかった」
「……そうか」
月は、そこでやっと気づく。Bの執着が、ただの狂気や対抗心ではなく、存在の証明を求めるためのものだったのではないかと。
気づけば、Bは布団の中へずるりと身を滑らせ、月の胸元へと顔を埋めていた。乱れた黒髪が肌に触れて、くすぐったい。
「……よしよし」
月の手は自然とBの後頭部へ伸びていた。撫でてやれば、猫のように身を丸め、嬉しそうに喉を鳴らす仕草まで見せる。
──従順。
あの、狂気に満ちた瞳の奥にこんな姿があったのかと思うと、胸の奥でざわめきが起こる。
可愛い。危うい。
……そして、欲しい。
頭では分かっている。
危険だ。
けれども、腕の中で甘えるBを撫でているうちに、喉が渇くような熱を覚えてしまう。
ふと、Bが見上げた。
「……夜神さん」
「なんだ」
「兄妹って……いますか?」
唐突な問いかけに、月はわずかに目を瞬かせる。
「……いるよ。妹がひとり」
「妹……」
Bは小さく呟き、胸に頬をすり寄せながら笑った。
「羨ましいですね。……私は一人っ子でしたから、兄に憧れていた」
「兄?」
「ええ。叱ってくれて、褒めてくれて、抱きしめてくれるような……兄」
ぽつりと吐き出された願いは、あまりに素直で、あまりに幼い。
月は思わず背中を軽く叩き、再び「よしよし」と囁いていた。Bはその声を嬉しそうに受け止め、腕を回し、月の腰にしがみつく。
月は、Bの頭を撫でながら大きな欠伸をした。
「……ふわぁ……眠い……」
まだ薄暗い朝の光が部屋を包み、布団の中の空気だけがぬるく温かい。
そんな中、Bはふと、月の胸に頬を押し付けたまま呟いた。
「……夜神さん」
「ん?」
「昔……私のいた孤児院に、夜神さんにそっくりな人がいたんです」
「ふーん?」
欠伸の余韻を引きずったまま、月は気のない相槌を返す。
Bの瞳が、ゆっくりと細められる。
「優しい人だった。兄のようで、みんなから慕われて──」
言葉を区切り、ほんの一瞬だけ懐かしむように目を伏せる。
「彼は……『私の初めての友達』です」
その一言に、月の思考がぴたりと止まった。
──初めての友達。
胸の奥に蘇るのは、Lが口にした同じフレーズだった。
《……月くんは、私の初めての友達ですから》
偶然か? いや、あいつも、同じことを言っていた。
「……そうか。初めての友達、ね」
「夜神さんも、誰かにそう言われたことが?」
問いかけに、月は少し間を置いてから肩をすくめる。
「……まあ。……ね」
それ以上は語らなかったが、否定もしなかった。Bはそれで満足したように、再び胸に頬を預ける。
「……そうですか」
呼吸が少し落ち着き、声が柔らかくなる。
「あの友人も、寝れない日はこうして一緒に寝てくれた。……懐かしい……温かい」
そのままBはくたりと力を抜いた。
さっきまでの不眠200時間発言は何だったのか。意図も簡単に眠ってしまった。
あれだけ意地を張っていたのに、月の胸元に顔を埋めたまま、子供のように眠りに落ちている。
撫でていた手を止めると、鎖がわずかに揺れてカチャリと鳴った。月はその音を聞きながら、もう一眠りしようと静かに瞼を閉じかけた。
──と、その時。
Bの唇がわずかに動いた。
「……『A』……」
月はピクリと目を開ける。
喉の奥でかすかに息を飲み込みながら、胸元で眠るBを見下ろした。
「……A?」
不意に部屋の空気が重く沈む。
さっきまでの温もりが、一瞬にして別の影を呼び覚ましてしまったかのように──
ׅ ♡゚𓏵 ׅ♡゚
窓から差し込む光はすっかり白く強くなり、机の上には取り分けもされないままのケーキがひとつ。
月は椅子にもたれ、顎に手を添えていた。
「……全然見つからない……」
新たなキラを追ってから数週間。僕らは未だになんの糸口も掴めていない。
紙の上の地図を見比べているだけ。
とても真相にたどり着かない。Lもやる気を失っているようだ。
「ねえ、夜神さん、Lって……どういう人なんです?」
ケーキをフォークでつつきながら、Bが軽い調子で問いかける。
「またそれ?」
僕に聞かれても分からないというのに。
「気になるんです。あの人、テニスのジュニアチャンピオンだったとか。どういうことなんです?」
「……そんなの、今はどうでもいいだろ」
「よくありません。Lですよ?わかってます?あのLですよ?」
「はぁ……」
「気になるんです。あの人が、コートの上ではどんな姿をしているのか。サーブを打つ姿……想像できますか?信じられませんね」
「Lだって人間だ。子供の頃から何かしらやってたんだろ。テニスが上手かった、ただそれだけの話だ」
「だけ?それだけで世界を手に入れた男ですよ?」
月はため息を吐きながら、心のどこかで悟る。
──Bは結局、Lに囚われている。
僕が何を言おうと、Lの影からは逃れられないようだ。
「……そんなの知らないよ」
思わず適当に返してしまう。
「Lのことなんて、僕だって全部知ってるわけじゃない。……本名だって、知らないのに」
「知らないんですか?」
「知らないよ」
「──私は知ってますけどね」
空気が止まった。
「……は、はあ?」
「知ってます。Lの本名。夜神さんが知らないなら、余計に……教えてあげたいくらいです」
「な、なんでLの本名なんて知ってるんだよ」
「私がBだからです」
さらりと放たれた言葉に、月は眉を寄せる。挑発とも、冗談ともつかない調子だったが、その瞳はどこか誇らしげに光っていた。
「……お前な。そういうこと、あんまり口にするもんじゃない!」
「どうしてです?」
「Lの本名どころか、正体を探ってる連中は山ほどいる。そんなのに見つかったら面倒だし、キラの有利になるようなことばかり言ってると──」
フォークをカタッとお皿の上に置き、Bを見やる。
「……“お前も監禁されるぞ”」
その言葉に、Bの瞳がきらりと光った。
「監……禁……?」
小さく繰り返し、次の瞬間、Bは机に身を乗り出した。ぐっと距離が詰まる。
「っ……」
「夜神さん、それはどういう意味です?」
机に両手をつき、顔が間近に迫る。月の息がかかるほどの距離。
近い。
パーソナルスペースがバグってる。
「……も、文字通りだ。Lがやろうと思えば、実力行使も何でもする。お前みたいに“Lの名前を知っている”なんて不用意なことを言うやつがいたら、疑われて、拘束されるかもしれない」
「……監禁? 監禁、ですか。Lが?あの人が?」
「……あ、ああ」
月は少し視線をそらしながらも、肯定する。
するとBは、さらに身を乗り出し、月との距離はほとんどゼロになる。
鼻がぶつかっている。
「夜神さん……その話、本当ですか?」
「……っ、近いよ」
「Lが『犯人』を監禁するなんて、聞いたことがない。詳しく教えてください……」
僕はBの肩に手をかけるとグッと押し返した。
「勘違いするなよ。僕はキラじゃないし、Lに強制的に捕まったわけでもない」
僕は互いに繋がれた鎖を見せびらかすように手を上げた。
「──自分から望んで監禁されたんだ」
一瞬、Bはぽかんと目を丸くした。
次の瞬間、ハッと息を飲むと、ぱあっと明るくなった。
「あっはははははは!監禁、かんきん、そうか……その手があったかぁ……!」
「……は?」
「考えもしなかった……自ら監禁を望むなんて……自白して、監禁してくれと……そしたら──Lに会うこともできた!」
「おい、何の話をしてるんだ」
怪訝な顔で問いかける月をよそに、Bはひとり頷いている。
「Lを出し抜くには……いや、Lに近づくには……それが一番……く、くくく。くくっ」
Bはようやく現実に戻ったように肩を揺らして笑った。
「かっかっかっかっ……!」
しまった。何かのスイッチが入ってしまった。
……やっぱり怖いこの人。
机越しに伸ばされた手が月の手をぎゅっと掴む。
「夜神さん……見直しましたよ」
「……何が?」
「そんな方法でLに接近するなんて……凄い。誰も思いつきません。自分から監禁されるだなんて」
目は真剣そのもの。だが、その顔は異様に興奮に満ちていた。
「は、はぁ……」
本気で自慢するつもりはなかったが、Bがあまりに食いつくので、否定する気にもなれなかった。
Bはそのまま月の手を離さずに、じっと見上げて言った。
「……夜神さん。もっとLのことを教えてください」
「Lのこと?」
「ええ。──何でもしますから」
「……」
……──ん?
何でも?
………。
「──……ふぅん」
月は顎に手をやり、わざとらしく気のない声を返した。しかし、その瞳は明らかに光を増していた。
ׅ ♡゚𓏵 ׅ♡゚
机の上に残されたケーキは、手つかずのまま乾いている。
月はBの前に立ち、その黒髪に手を添えていた。
「っ……んぶ、んっ……んぅ……」
「……もっと、もっと舐めてくれる?」
Bは小さく頷き、従順に従う。
熱に浮かされたように、月の指がその頭を軽く押さえ込んだ。
「裏の方……そう……舌先で、丁寧に」
Bが、ちらと見上げ、月の表情を伺う。
「あっ……」
その上目遣い。可愛らしい。いっそ、その化粧ごと落としてやりたいくらいだ。
「あむっ、んむっ、んんっ、んっ……ちゅぱっ……」
「……いい子だ」
「……はっ、っ、早く……Lの情報を、ください……」
月は悠々とBの頭を撫でる。掌に伝わる髪の感触が、異様に甘く、支配欲をくすぐる。
「……後で、ね」
腰の奥からせり上がってくる快感、昂ぶりきった肉が、熱を持ってびくびくと脈打っている。
気持ちいい……頭が溶けそうだ。
「イッたら、教えてあげるよ。Lのことを」
「んむっ、んむぅっ……んんっ、じゅるっ……」
涙をにじませながら必死に舌を絡め、さらに深く喉を開こうとする。
こんなに咥えこんで……はしたないやつ。
でもそこが、可愛らしい。
「……くっ、もう……」
Bの瞳が潤んで見上げてくる。切実な願いが滲むその目に、思わず喉奥で声を噛み殺した。
髪を掴んで引き上げ、顎をぐっと固定する。
「上向いて。そう──いい子だ」
汗ばんだ掌で頬を支え、喉を開いたまま固定し、逃げ場を奪う。
「ちょっとだけ、我慢できるね」
「な、何を……」
僕はBの頬を優しく撫でてから、喉の奥へと深々と突き込む。
奥を押し広げる感触に、Bの全身が痙攣するように震えた。
「んぐっ!?……ぐっ!」
「……そう、まだ……僕が許すまで……絶対に出さない」
Bはその言葉に、さらに執着を深めるように身を預ける。
顎をしっかり固定したまま、容赦なく喉の奥へと腰を打ちつけた。
「んぐっ──! んぶっ、ぐっ……ごぼっ……」
奥を押し広げられた瞬間、大きな瞳が揺れ、くぐもった嗚咽が洩れる。唾液が糸を引いて顎を伝い、床に垂れた。
「お、おごっ……ぶっ……おえっ!」
「……いい、えずいても。全部受けとめて」
涙が頬を伝い、必死に喉を開けて飲み込もうとする。その震えが直に熱へと伝わり、痺れるほどの快楽に変わる。
「……ほら、ここまで入ってる。外からでもわかるよ」
喉仏よりも少し上の方が膨らんでいる。
ここに僕がいるんだと分からせるように、喉を突っついた。
「んぐっ、んんっ……んむっ、むぅ……っ」
「……苦しい? でも──まだ飲めるね?」
「んぐっ……ごふっ、……んんっ」
涙目で、必死に咥えて、えずいて。
そこまでしてLのことが知りたいなんて、どうかしてる。
「……いい子だ」
優しい囁きの直後、一転してBの顔を押さえ込み、ゴツゴツと突き上げるように腰を振る。
「んぐっ……! ごぼっ、んんっ……っ!んぶっ……!」
ごめん、B。
少し乱暴にするけど、耐えて──
喉が締め付けてきて、気持ちいい。
奥、ゴツゴツしてごめんね、でも、止まらない──
ぬちゃっ、ぐぽっ、と下品な水音が部屋に響き、やがて限界を迎えて白濁が一気に溢れ出した。
「……くっ、アァッ──!」
「──ッ!んん、んっ!」
苦しげに喘ぐ姿。
Lの見た目をしていると尚更そそるものがある。
「はぁ、はぁ……はは、鼻から垂れてるよ」
ゆっくり僕のものを抜き、顎を上げさせた。
僕の方に、僕を見るように。目を逸らさせないように。
鼻筋を伝って粘つく雫がとろりと滴り落ちる。
口の端からも白く濁った糸が垂れ、顎を伝って落ちていく。その惨めで甘美な姿を見下ろしながら、髪を撫でてやさしく囁いた。
「……いい子だ。ちゃんと受け止めたね」
Bの瞳は潤んだまま、羞恥に染まりながらも必死に見上げている。
「ほら、口を開けて。全部僕に見せるんだ……」
指先を唇の間に差し込む。
舌に軽く指を押し当てると、熱を帯びた吐息と共に濡れた舌を差し出した。
「んぇっ……♡」
「……そう。いい子だ。全部、僕に見せて」
舌の上を、指先がゆっくりとなぞる。
「……そのまま」
指を押し広げるように差し込み、舌の奥を軽く押す。
「んっ、んんっ……んっ!」
指先を舐め取らせるように前後へと揺らした。
「まだ終わりじゃないよ。──もっと僕に奉仕できるね?」
指を舌の上から離すと、Bは荒い息を吐きながら苦しげに息をつく。唇を濡らして小さく囁いた。
「……Lの情報を……くれたら……っ。続き……してあげます……」
「ふふ。そうだった……先にご褒美をあげないと」
犬でも撫でるように頭を撫でた。
「……何がいいかな」
囁きながら、ちゅっと額へ口づける。照れて目線が下がるのも僕には見えている。
「そうだ。Lは──数百人の捜査集団だ、なんて噂されているのは知っているか?」
その言葉に、Bは小さく肩を落とし、息を吐く。
「……はあ……そんなの……知ってますよ」
呆れたように肩を落とした。
なんだ?有名な話なのか?
「私が欲しいのは、そんな表向きの建前じゃない……他は?」
「……そうだな」
少し考えるふりをしてから、わざと口に指を当てる。
「Lは……同じ服しか着ない、とかは?」
「……それも知ってます」
肩を竦め、唇を湿らせる仕草には、退屈すら滲む。
「じゃあ、靴下が嫌いなことは?」
「常識です」
「……なんだよ」
結構知ってるじゃないか。
「『なんだよ』は、こっちのセリフですよ。しかし、こちらからも一つ──」
袖で口元を拭うと、人差し指を立てた。
「イかせてくれたら……」
その人差しで、僕の心臓を突っつく。
「……Lの本名……教えてあげますよ」
空気がひりついた。
あまりに簡単に口にされた禁断の報酬に、心臓がはねる。冗談にしては度を超えている。
「……B、それは」
呼びかけても、その瞳は逸れない。むしろ挑発するように、潤んだ光を揺らめかせている。
「本気……なのか?」
「ええ」
すると──
空気が一瞬、凍りつく。背後のドアに、白いTシャツの男。
「……聞き捨てなりませんね」
独特の姿勢で現れたのは、Lだった。
「L……」
「B。分かっているとは思うが、私の本名は絶対に口にするな」
「ふふ、そんなの約束できませんよ」
「B……!」
「もし、私がキラに“本名”を教えたら──あなたは速攻で裁かれる」
言葉に込められた悪意と快楽。楽しげに体を揺らし、唇の端には歪んだ笑み。
「つまり……私の勝ちですね」
告げられるその言葉は、冗談ではなく確信を帯びていた。
月は思わず息を詰め、ハッキリと言い切った。
「僕はキラじゃない。だからLを裁くことなんてできない」
その断言に、場の空気がぴんと張り詰める。
だがすぐさま、横から冷ややかな声が割り込んだ。
「──いえ。夜神くん、あなたがキラです」
「なっ! またお前は、そんなことを……!」
声を荒げる僕をよそに、Lは一歩踏み出した。
その黒い瞳は僕ではなく、真っ直ぐにBを射抜いている。
「……私の本名が見えているんですね? B」
伸ばされた手が、そっとBの頬に触れる。
冷たいはずの指先に、不可解な温もりが混じっていた。
「ああ──見えている。……くくくくくくく」
頬に触れる手を受けながら、Bは狂気を宿した声で笑い出した。
そして……口を開く。
「L、ロ──」
その刹那、Lの手が素早く動き、Bの口を塞いだ。
「……っふ、ふぐっ……!」
Bはくぐもった声を漏らしながらも、なお必死に発音しようともがく。
喉奥で押し殺された声が、どうにか形をなそうと暴れる。
「……ロー、ライ……んぐっ」
無理やり吐き出そうとする声。
だがLは口を覆う手にさらに力を込め、親指で唇を強く押さえつける。
「……言ってはいけませんよ、B」
「んん、んっ」
「約束、忘れたんですか」
塞いでいた手はゆっくりと形を変え、口を覆う圧から頬を包む拘束へ。
敢えて優しく触れ、逃げ場を奪う。
「……Lが、抱いてくれるなら……黙っててあげますよ」
「……B、私とすることに、病みつきになっていませんか?」
「ふふふ……どうでしょうね?」
拘束されながらも、Bは甘美な愉悦を含んだ笑みを浮かべた。まるでその困惑さえも、快楽に変えてしまうように──
ׅ ♡゚𓏵 ׅ♡゚
ベッドが激しく軋んだ。
──ぎし、ぎしっ。
「……っ、あ、ぁっ……!」
目を潤ませながら、Bの喉から漏れる声が重なる。
「っ、は、あ、あぁ……っ!」
ぱん、ぱんっ。
皮膚が打ち合う湿った音が、部屋に響く。
ぬちゃっ、ぐちゅっ、と結合部から水音が溢れ、シーツを汚していく。
「っ、は、あ、あぁ……っ!」
ぱん、ぱんっ。
三度目の絶頂を迎えた合間、Bの唇が震えた。
「……ロー……ライ……ッ」
言葉の先が紡がれる前に、Lの手がその口を塞ぐ。
「……っん……!」
声が喉奥に押し込まれ、くぐもった嗚咽が漏れた。それでも腰は止まらず、深く、容赦なく打ち付けられる。
──ぎし、ぎしっ。
──はぁ、はっ、はっ……。
その全てを、僕はベッドの隅で聞いていた。
視線を逸らし、爪がシーツを握り締める。耳にこびりつく音から逃げられず、胸の奥を焼かれていた。
は、恥ずかしい……!
何を見せられているんだ、僕は……。
頭では拒絶しているのに、意識はどうしてもそこへ向かう。
Lに……あんなふうに、打ち付けられて……もう……全部、入ってる……。
想像してしまった瞬間、喉が詰まる。
僕は……あそこまで、届かないのに……。
「っ──」
月は頭を振る。
だめだ、考えるな。
(見るな……!見たら……っ、欲しくなる……っ)
視線を逸らすはずが、気づけば月の赤みを帯びた頬は真正面を向いていた。
──とろん。
濡れた瞳が、抑えきれぬ熱に揺らめく。
Lはその顔を見て、ふっと口の端を持ち上げた。
「……夜神くん」
囁きは低く、挑発の甘さを含んでいる。
「そんな欲しそうな顔をして……あなたも、抱いてあげましょうか」
月の喉がひくりと震えた。
「……っ……」
言葉は出ない。だが、どうしようもない渇き。
ほしい……。
ほしい、ほしい……。
Lがほしい……。
Lが、Lが……Lが……。
「……夜神くん」
Lはゆっくりと手を伸ばし、ちょいちょいと指を曲げる。
拒絶を許さぬ導き。黒い瞳が真っ直ぐに吸い寄せる。
「……こちらへ」
その瞬間、月の胸の奥で何かが弾けた。
「……え、L……っ」
声は熱に震え、理性を突き破る。
気づけば身を乗り出し、唇が激しく重なっていた。
ׅ ♡゚𓏵 ׅ♡゚
──ちゅっ、ぐっ……。
舌と舌が絡み合い、互いを貪るように深く。
唾液が糸を引き、唇の端からとろりと溢れた。
「……っん、ぁ……っ……」
相変わらず、激しい。
舌が口の中で暴れてる。自分では届かないところまで。
「………………」
そして、その光景をベッドの上でじっと見ている存在があった。
──B。
「……くっ、ふ、……ふ、ふ……っ」
笑おうとした唇が震える。頬がぴくぴくと跳ね、全く笑えてない。
その顔には確かな嫉妬。
Lの袖を握り締めた指先が白くなり、視線がLと月を射抜くように揺れていた。
「……夜神くん……もっと」
「L……もっと……」
Lは、そのまま首筋に唇を落とし、噛みつくように跡を刻む。
「──っ……ぁぁっ……!」
噛まれた……。
痛い。
痛いはずなのに、気持ちいい。
「は……っ、L……もっと……っ……!」
月の潤んだ瞳が必死に見上げる。
Lはその視線を受け止めながら、ちらりと横目でBを見やった。
まるで見せつけるかのように──いや違う。「月は誰にも渡さない」と言うように。
Bの胸を、嫉妬が焼いた。
「……っ……L……」
Bは、堪えきれずにLへ手を伸ばす。
しかし──
Lは肩に手を置こうとしたBの手を迷いなく払った。邪魔なものでも払うかのように、手の甲で追い払うように払い除けたのだ。
「……っ……ん……っ……」
Bは自分から腰を動かしてみる。
だが、うまくいかない。
むしろ──わざと浅いまま、深く届かない位置に留められている。
「……ぁ……っ……!」
少し動けば、かえって離れてしまう。
求めても届かない。
わざとなのか、本気なのか。
Bの胸を焼く焦燥は、答えの見えないまま、熱と渇きだけを増していった。
「夜神くん」
「……んっ?」
低い声で名を呼ぶと、Lは月に視線を落とした。すでに熱く濡れた唇を、親指でゆっくりとなぞりながら。
「……服、脱げますか」
「っ!」
答えの代わりに、震える指が自分の服の裾にかかった。
「あ、ああ……」
震える指先でボタンに触れ、ぎこちなく一つ目を外した。
布の下で肌が熱くなっているのが自分でもわかる。Lの視線が肌に落ちるたび、背筋がぞくりと疼く。
「……ぇ、L……、っ、はっ、はあっ……」
Lに見られながら脱ぐなんて、屈辱だ。
本当は辞めたい。
なのに、体はすでにLの手を待っている。
脱がなきゃ……。
そう思うほどに手元は震えてしまう。
(お、落ち着け。別に裸を晒したのは初めてじゃないだろう。何を怖気付いている)
慎重に1個ずつ取れば──
そんな月を見たLはゆっくりと手を伸ばし、月の手を退けた。
「無理はしないでください。私が……外します」
優しい指先が布を滑り、ボタンを一つひとつ外していく。
Bに見せられた激しい行為とは違う。ゆっくりと、丁寧に、剥かれていく感覚が、かえって羞恥を煽った。
僕はふと、Bに目やると、この世の地獄でも見るような目でこちらを見ていた。
「──ッ」
ゾクリと悪寒がする。
今にも僕は殺されそうだ。
胸の奥に渦巻くのは、嫉妬と狂気の混濁。
Bは、片足を持ち上げ、Lの胸を軽く蹴りつける。
「……B……?」
蹴りは本気ではない。ただ、訴えるような衝動。
──こっちも構え。無視するな。置いていくな。言葉にせずとも、足先の一撃がその欲望を雄弁に語っていた。
「蹴らないでください」
Lはそれだけ告げると、またBの足を払い除け、月への視線を一切逸らさずに行われた。
「……っ」
それでもBは諦めきれず、今度は強く足を振り上げる。
ガシッとLの胸を蹴りつけた。
だが──Lはその足を振り払っただけで、注意すらせず。反応も、言葉も、何もない。
次の瞬間、Lは迷いなく夜神月を押し倒していた。
「……っ……!」
潤んだ瞳で訴える月を、優しい手つきで抱きしめる。
唇が触れ合い、舌が絡む。
ちゅっ、ぐっ、と濃い水音と、甘い吐息が重なって部屋の空気を染めていく。
舌を深くねじ込まれ、喉の奥まで熱を流し込まれる感触に、腰がびくりと跳ねた。
「……さっき、夜神くんがBにしていたこと──してあげましょうか」
耳元に落ちる囁きに、月の背筋がぞくりと震えた。
想像しただけで、下半身が熱く硬く脈打つ。
「い、いや……」
顎をそっと掴まれ、視線を逸らすことを許されないまま、喉を指でなぞられる。
「ここまで……いや、ここまで入る」
喉仏よりも下をつん、と押される。
イメージだけで喉が押し広げられる感覚が蘇り、月は思わず身を震わせた。
Bがあんなに苦しそうに、それでも悦んで受け入れていたあの行為。それを自分もされるのか……そう思うだけで、恐怖と欲が同時に込み上げる。
「……喉も私で犯されてみたいですか?」
吐息まじりの言葉に、頭の奥で熱が爆ぜる。
「……っ、あ……っ」
ぐり、ぐり、とLの指が月の喉仏よりも下を押し込む。皮膚の上からでも、奥まで届く圧が伝わり、月の太ももが小刻みに震えた。
「……や、やだ……っ」
月は否定をもらすが、潤んだ瞳は抗えない熱に揺れていた。
否定しているのに、腰がわずかに浮き、Lの膝に擦り寄ってしまう。
「怖気付きました?……顔は欲しそうに見えますけどね」
「ちが……っ……」
否定の言葉は、耳元に落ちる囁きにかき消される。
「──本当は、私に犯されたいんでしょう?」
喉を押さえられたまま吐息を浴びせられ、月の背筋がびくんと震える。
熱に浮かされた顔を逸らそうとした瞬間──
顎を掴まれ、完璧な支配に絡め取られる。逃げることも、隠すことも許されないまま。
「あなたにはまだ、早いかもしれませんね」
低く甘い煽りに、月の唇がわななく。
「……っ……」
本当は、欲しい。
Bみたいに壊されるまで、Lに飲み込まれたい。
そんな柄にもない願いが、喉の奥で留まっていた。
その光景を横目で見ながら──Bは自分の首筋へ手を伸ばす。
指先で喉をなぞり、ぐっと押し込む。
「……ここまで……入るのか」
小さな声が漏れる。
想像の中で喉奥を貫かれる感覚に身を震わせた。
だが次の瞬間──Lの黒い瞳と月の潤んだ視線が絡み合い、互いに熱をぶつけ合う姿がBの視界に飛び込む。
唇を近づけ、囁き合い、触れ合う。目の前で繰り広げられる「自分の欲しかったもの」。
「……あぁ」
喉元を押さえていた手が力なく落ちた。
熱に浮かされるはずの心臓が、すうっと冷えていく。
──欲望よりも先に、萎えてしまった。
「もういい……」
枕をぐいと抱き寄せ、そのまま顔を埋める。
Lの吐息も、月の甘い声も、全部遮断するように。
「……っ……」
小さく肩が震えたかと思うと、暫くするうちにそのままBはうとうとと眠りに落ちていった。
嫉妬も狂気も、夢の中へ置き去りにして──
ׅ ♡゚𓏵 ׅ♡゚
──ぐっすりと眠り込んでいた。
朝早かったせいか、枕を抱いたまま、子供のように浅い寝息を立てている。
だが──突然。
「……っ……!」
頭にずしりと重みがかかった。
目を見開く。
視界の隅に写ったのは冷たく見下ろす黒い瞳。
……L。
彼の足が、Bの顔をしっかりと踏みつけていた。
「……一回は一回です」
こめかみを正確に、確実に踏みつけるように押さえつけていた。
軽くではない。乱暴でもない。けれど、逃げられぬ圧力で頭蓋をベッドに縫い止める。
「……頭を踏むなんて……あんまりじゃないか……っ」
掠れた声で、かすかに抗議する。
「……南空ナオミですら……顔までは踏まなかったのに……」
その言葉は、恨みの棘を装っていながら、どこかで甘えているような響きを帯びていた。まるで「比べてみせる」ことで、少しでも圧を和らげようとする軽いジョーク。
「…………」
しかし──Lの瞳はブレない。
無言で踏まれている。
本気の支配の視線が、冗談すら踏み潰すように突き刺さっていた。
じわじわと血流を奪われ、耳の奥で脈が荒れる。
──これ以上の屈辱はない。
あのLに、顔を。しかもこめかみを、正確に踏まれている。
嘲笑されるよりも、殴られるよりも、この“無言の支配”は残酷で、何倍も屈辱だった。
「やめろ、L」
ぞくぞくとする反面、これは最大の屈辱。
だが同時に、Lだけが与えられる“絶対の支配”の証でもある。
「離せッ……」
最初はぞくりとしたが、今は逆に鬱陶しい。
Lの足はなおもこめかみを押さえつけ、動かない。
その横で、夜神月が小さくビクッと震える。まだ熱の残る体を小さく縮こまらせながら背を向けていた。そんな無防備で弱々しい月を見たLは満足気に、ふっ、と笑った。
──その瞬間。
その顔に逆上した。
「L──殺すぞ」
低く吐き出された言葉に、場の空気が張り詰める。
Lは数秒、無表情のままBを見下ろしていた。
やがて──彼はそっと足をどけた。
圧が抜け、こめかみに鈍い痺れだけが残る。
「……殺す、なんて。物騒ですね」
そう言って肩をすくめるLの声は、いつもの淡々とした調子に戻っていた。
何もなかったかのように、軽くおちゃらけている。──やりすぎたことを理解していながら、遊んでいるのだ。
本当に悪趣味。
Bの怒りと嫉妬を、確かに楽しんでいる。
なんて変態だ。
Bの胸を焼いた怒りは、次の瞬間、逆に好奇心へと変わっていた。支配と嘲弄をこんな形で両立させるなんて──屈辱は確かにあった。けれどそれ以上に、「この変態のさらに上に行きたい」という衝動が芽生える。
──Lを、超えたい。
この異常なやり口すら、自分のものとして追い抜いてみせたい。
屈辱と怒りと好奇心が混じり合い、頭の奥で不気味な熱となって渦を巻いていた。
「さあ、B……次はあなたの番です」
淡々と告げるLの声。
だが、踏まれてなお性行為に及ぶほど、Bは安直な変態ではない。
冗談じゃない。
ふっと視線を逸らした瞬間──横合いに異様な光景が目に飛び込んだ。
「……ひゅー……ひゅー……♡」
月は寝返りを打ち、まだ熱に浮かされたまま、ひどく息を詰まらせていた。
胸元から下、ドロドロに濡れ、精液の匂いが室内にこびりついている。
濡れたまつ毛の隙間からのぞく瞳は半ば裏返り、焦点を失っている。白く濁った雫が喉元から胸へと垂れ、粘りつくように皮膚を這う。
指先はかすかに痙攣し、握ろうとしても力が入らない。それでも腰だけが小刻みに痙攣していて、まるで快楽の残滓を拒めないようだった。
「……あ……♡」
それは敗北の吐息か、なおも欲している証か──見分けがつかない。乱れきったその姿は、淫靡でありながら同時に残酷な美しさを孕んでいた。
ぞくり──
その淫靡な残骸を前に、Bはふと己の胸の奥がざわめくのを感じた。
背筋を撫で上げるような寒気と、抗いがたい熱が同時に走った。屈辱の果てにあるはずの姿が、なぜか甘美な未来像のように心に焼きついて離れない。
今はどういう顔をすればいい?
どの感情が正しい?
──笑うべきか、拒むべきか。
だが瞳の奥で芽生えた衝動は、どちらでもなく──ただ見たい、知りたいという好奇心だった。
(もし、LがBを抱いたら ……Lはどうするのだろうか。夜神月よりも深く、もっと壊してくれるのか……?)
快楽に沈む月の姿が、次は自分かもしれないという予感と重なり、身を唆る。
Bは無意識のまま、口角を上げた。
あまりに異常で、あまりに純粋な欲望に染まった笑み……。
「……何ニヤけているんですか」
すぐ傍で声が落とされる。
鋭く刃物のような声。
「……やはり、あなたは危険すぎますね。そんな顔をして……私に壊されることを、望んでいるではありませんか」
「……気づいた、か?」
「ええ。バレバレです」
言葉と同時に、Lの顔がゆっくりと近づいてくる。唇が触れ合う寸前──Bの呼吸が止まった。
瞳がとろんと溶け、焦点を失いかける。頬は熱に染まり、無意識のまま唇がわずかに開いた。
だが、寸前でLは止まった。
触れることなく、その顔をまじまじと凝視する。
「……………」
「……………」
「……………」
長い沈黙が、二人の間に落ちていた。
呼吸すらも絡み合うほど近い距離。
「…………L?」
期待と昂ぶりに問いかけ、Lはその顔をじっと見つめたまま、冷ややかに口を開いた。
「……キス、してもらえると思いましたか?」
「……ふ、ふふ……」
唇がわなわなと、笑いとも嗚咽ともつかない声が零れた。まるでその残酷さにすら、快楽を見出すかのように。
「……思いましたよ。だからこそ……今のLは、たまらなく意地悪だ」
くすぶるように笑うBを前に、Lは表情を変えないまま、やがて淡々とした声が落ちる。
「……夜神くんに言われました」
「……?」
「あなたに干渉させすぎるのも、距離を離しすぎるのも──よくないと」
至近距離で視線を絡めたまま、Lは寸分も動かずに言葉を続ける。
「だから今の私は……必要以上に踏み込まず、かといって突き放しもしない」
「っ……」
その優しい言葉が胸を貫いた瞬間、Bはぐっと奥歯を噛みしめた。
そんな──そんなの──
そんなこと、望んでない──
けれど、頭のどこかで理解している。
それこそが“最適解”であることを。
Bはこれまで、ただ「Lを超えたい」という理由だけで、躊躇なく殺人を犯し、事件を作った。道徳心も、感情も、Bにとってはどうでもよかった。超えるため、ただそれだけのために、人を手にかけた。
だからこそ、夜神月が言った言葉──「干渉させすぎても、突き放しすぎてもいけない」──その理屈が正しいと嫌でも分かってしまう。
夜神月が『Bを想って』『Bの為に』『BがBである為の』──『Bがオリジナルでいられる為の最適解』をLに告げたことも理解できる。結局それが、Lとの『程よい関係』を生むのだということも、痛いほど分かってしまう。
「……」
Bは唇を噛みしめた。
理解した瞬間、抑えていた何かがぷつりと切れる。
ぽろり──
ひと筋の涙が、頬を伝い落ちた。
「……っ」
Lの黒い瞳がかすかに見開かれる。
「び……B……?」
その瞬間、普段の冷静さは跡形もなく崩れ去った。
「……な、泣いて……B……」
どうしていいか分からないとばかりに、あからさまにキョロキョロと周囲を見回す。
手を伸ばそうとして引っ込め、口を開きかけては閉じ、挙動不審。情けないほど狼狽し、あちこちに視線を泳がせる。
「……あ、あの……」
Lは机の上に視線を移した。そして、カゴの中に入った見覚えのある甘いものを見つける。
「……あ、甘いもの……食べますか?」
慌てて指先でドーナツをひとつ摘み、差し出す。
だがBは涙に濡れたまま、ふるふると首を横に振った。
「…………っ」
Lはその拒絶にさらに焦り、目を泳がせ、落ち着きなく指先をもぞもぞと動かす。
キョロキョロと周囲を見回し、助けを求めるように視線があらぬ方向へと逃げる。
額にはうっすら汗が滲み、わなわなと震える指先。
その姿は孤高の天才ではなく、ただの不器用な青年にすぎなかった。
「……な、泣かないでください、困ります」
Lはしどろもどろにそう言いながら、恐る恐るBの頭へと手を伸ばした。しかし、その動きは慰めというにはあまりにぎこちなく、撫でるというより──ぬるり、ぬるりと奇妙に手のひらを這わせている。
「…………」
普通に撫でればいいものを、髪の毛を指先で摘まんで離したり、掌をすべらせて同じ場所を往復したり。一定のリズムもなく、まるで「撫で方」を知らない人間が、必死に真似をしているかのようだった。
「……っ、ふ、ふふ……」
涙で濡れた瞳が、その不可思議な仕草に思わず細められる。笑うべきか、もっと泣くべきか分からず、Bの胸には新たな混乱が生まれる。
Bは袖でごしごしと涙を拭った。
その仕草さえも、どこか不器用でぎこちない。
「……泣いたのなんて、初めてですよ」
ぼんやりとLを映す。視界が水に濡れたように滲み、輪郭が揺れる。
「……ふふ……目が潤むと……視界がぼやけて──」
そこで、Bはかすかに息を呑んだ。
涙に曇った瞳には──いつもなら必ず見えてしまうはずの寿命も、名前も、何ひとつ映っていなかった。
「綺麗、だ──」
「B……?」
「……ただの……人間らしい視界が、見える……」
ぽつりと零れる言葉。嘘でもない、ごく純粋な喜び。
BはLの首へとゆっくり手を回し、自らの額を近づける。
そして、逆に──今度はBの方からLの頭を撫でた。
「……L、綺麗だ。愛してる」
囁きは小さく、笑みはぎこちない。
けれどそれは、いつもの狂気とも演技とも違う、Bが初めて見せた“人間らしい”仕草だった。
ׅ ♡゚𓏵 ׅ♡゚
頭が溶けそうだ。
快感が全身を駆け抜けて、また壊れてしまう。
「……ん、あっ……」
瞳は熱に濡れ、意識の焦点を失いかけていた。
Lがさきほど告げた言葉──「干渉させすぎるのも、距離を離しすぎるのもよくない」。その理屈は理解している。けれどBは、理屈ではなく本能で願っていた。
(……もっと……もっと近くに……)
心も体も、あなたに。
すべての境界線を壊して、距離なんて一切なくてして、ずっとこのまま──ひとつに。
「……L……もっと……っ」
Lは一瞬視線を落とした。
しかし次の瞬間、腰を深く打ち付ける衝撃がBの奥を貫く。
「……っ、あ……♡」
奥に当たって……!
苦しい。
必死に爪を立てながらも、瞳は涙で濡れてLを見上げていた。
「……あなたが欲しいものは、分かっています……でも、堪えてください」
意地悪。
分かっていて与えないなんて。
Lは囁くように告げながら、わずかに動きを緩めた。優しく、深く、けれど壊すほどには打ち込まない。
「激しくすれば……あなたは壊れてしまう。だから……っ!」
その瞬間──腰がぐっと深く沈み込み、奥まで容赦なく押し込まれる。
「……っあ、あぁ……♡」
Bの身体がびくりと跳ね、瞳が潤みながら大きく開く。甘い吐息が漏れ、喉の奥から押し殺した声が零れ出す。
冷たい理屈のはずなのに、そこに滲むものは確かな“保護”。
攻めて、追い詰めて、いっそ傷つけてほしいくらいなのに。
攻めてはくれない、守りに入るなんて。
「……私は、あなたを失いたくない」
黒い瞳が、揺るぎなくBを見据えていた。
その声音は淡々としているのに、押し込む腰の動きは必死なほど深く──自分から離さないと証明するように。
「そう──Aのように、あなたを失いたくない」
低く落とされたその声が、Bの心臓を直接掴んで離さない。
A──
胸を締めつける熱と寒気が交錯し、息が詰まる。
「……私のせいで、またひとり……またひとり……いなくなるのは、もう見たくない」
そのまま──Lの動きが変わった。
深く突き壊すのではなく、浅く、何度も。
「……っ、あ……っ」
擦り上げられるたび、Bの奥で快感がじわじわと広がる。強烈な衝撃ではないのに、むしろその繰り返しが堪えきれない甘さを生んでいた。
「……はぁ、あっ……っ……ぃや、やだ……」
「……失いたくない……もう誰も……何も──」
その瞬間、抑えていたものが外れたかのように、再びぐっと深く奥まで貫かれる。
Bの喉から、ひきつるような声が漏れた。
「……っ、ああぁっ!」
「……だから……!」
LはそのままBを強く抱き寄せた。
胸板に押し付けられ、耳元にLの顔。軽く耳にキスをすると、囁くように呟いた。
「……置いていかないでください……」
強く、抱かれる。
冷徹な探偵のはずが、今はただ失うことを恐れる一人の人間としてBを抱きしめていた。
弱々しい囁きに、Bは熱い息を吐きながらかすかに笑った。
「……置いていってるのは、どっちなんでしょうね?」
BはそっとLに口付けた。
「あなたがあの家に来てから、ワイミーズハウスの“常識”は変わった。 いつの間にか、子供たちは皆──Lを超えたいと願うようになった。 でも、私はあなたを置いていくことはない。だって、Bはずっと前からいた。Lよりもずっと、ずっと、前に──“二番目”にいたんです」
吐息混じりの囁きが重なり合い、快感と共に胸を抉る。
「Lに近づけば近づくほど……あなたは遠ざかってしまう。それでも、私たちはいつだって、手を伸ばし続けてきた。地べたを這ってでもあなたに──手を伸ばし続けた。……でも」
一瞬、影が差す。
「Aは違った。……Aは逆にあなたに追われてしまった。……まさか、Aがあんな死に方をするなんて思いもしなかった」
「……っ……」
Lの黒い瞳が見開かれる。
その瞬間、Lの動きに余裕がなくなった。
「はっ……っ……あ……っ」
パンパンと響く音。
浅さと優しさを保とうとしていたはずの律動が、崩れていく。
Bの言葉が、心を突き刺して揺らしたせいで──Lはもはや理性を繋ぎとめられなくなっていた。
「……置いていくな、って言いたいのは……っ……こっちの方ですよ……っ!」
いつだって私たちはあなたに手を伸ばしてた。
死にものぐるいで、死んだって構わないと思うほどに──あなたとひとつになりたかった。
だから。
「……っ……L、手を……手を引っ張ってください……っ……♡」
「……っ……!」
「……あなたが……認めた一人を……ワイミーズハウスから……引きずり出して……っ、Bを、自由にして……っ……♡」
Lに囚われない生き方をする為に。
BがBらしく生きる為に。
あなたが必要だから──
「……私達は……“Lにはなれない”ッ……だから、っ……だから、私達が手を伸ばすんじゃなくて……っ、あなたが……手を差し伸べて……っ……導いて!」
パンパンと肌のぶつかる音が早まり、Bの背筋が跳ねる。
「L……私を──」
小さな声で名を呼びながら、涙を伝わせ、唇を噛む。
そして最後の一言を、吐き出すように零した。
「──捕まえて……」
熱と涙に濡れたその囁きに、Lの目が大きく開いた。
次の瞬間、腕をぐっと引かれた。
「──B!」
強く腕を掴まれ、次いで力いっぱい抱き寄せられる。
「……っ……!」
逃げ場を与えないような抱擁。
肩越しに感じる体温に、Bの瞳は熱に溶け、ぐにゃりと力が抜けていく。
「……はぁ……っ……♡」
求めていたもの──『置いていかないという証明』を、今や確かにLに掴まれた。
「B──やっと捕まえました」
耳元で落とされた囁き。
それは勝利の宣告。
そして、終わりの合図。
良かった……。
やっと、Bの事件は終わった。
「……Bの負け、ですね」
「──はい」
短く、しかし揺るぎない声。
「……っ、あ……」
そのまま、唇が重なる。
深く、絡み合い、呼吸さえ奪うほどに。
「……っ、んむぅ……っんんっ♡ える、んっ、ふ……っ♡」
Bの舌は絡め取られ、涙と涎に濡れて震えていた。腰を突き上げられるたびに。
「……あっ♡ んぁっ……♡ はっ、はぁ……っ♡♡」
Bの脚が痙攣し、爪がシーツをかき乱す。
「……あぁっ♡♡ L……っ、だめ……っ♡♡ も、もう……っ♡♡」
限界が迫る。
「いいですよ、イッて」
ちゅっとコメカミにキスを落とす。
「っあ──♡♡ イくっ……♡♡ も、もうっ♡♡ イく──♡♡♡」
最後の強烈な突き上げで、Bの身体は大きく弓なりに反った。
「──っああぁぁぁぁっ♡♡♡♡」
身体の奥から一気に弾け飛ぶ快感に、Bは完全に飲み込まれていった。
限界を超える絶頂の瞬間、Bの身体は大きく跳ね上がり、そのまま力が抜けてガクッと崩れ落ちた。
意識が薄れていく。
「……B!」
Lはその身体を強く抱きとめ、ベッドの上で支える。熱と汗に濡れた髪をそっと撫でながら、静かに囁いた。
「──よく、頑張りましたね」
「──……」
僅かな意識の中、BはLの服を掴んだ。
その言葉を待っていた。
やっと、Lの呪縛から、開放された気がした──
ׅ ♡゚𓏵 ׅ♡゚
数時間後──
Lの腕の中で意識を失ったはずのBは、目を覚ますと何故か夜神月へと身を寄せていた。汗で湿った髪を揺らしながら、にいっと笑う。
「夜神月……やがみらいと……気に入りました」
ぎゅううぅっと抱きつかれた月は、思わず体を硬直させる。
「……な、なんで僕に……」
先程、僕よりも激しく抱いたのはLだったはずだ。なのに、何故かBはLではなく自分にまとわりつき、甘えるように笑みを浮かべている。
月は眉をひそめ、腑に落ちない顔でBを見下ろす。その向かいでLは、指を咥えたまま。黒い瞳を細めていた。
「……夜神くん。これはどういうつもりですか」
「どういうつもりって……」
それは、こっちのセリフだ。
僕はBの手首に繋がれた鎖に目を落とす。
僕を監視するために用意された鎖は──なぜかLとB、二人を繋いでいた。
意味がわからない。
「……それ、僕を監視するための鎖じゃなかったのか」
いつの間にか外されている手錠。
じろりと睨むようにLを見る。
「そうですよ」
わざと月を見ずに、Bに視線を向ける。
「しかし、今は監視ではなく──『逮捕』として、Bに繋げています」
「………」
月は思わず言葉を失った。
監視ではなく──逮捕。
その言葉が、あまりにも不吉に響く。
Bは鎖をくいと引っ張り、くすりと笑った。
「きゃはははっ!……逮捕?ずいぶん愛のある仕打ちですね」
「……っ」
月の眉がさらにひそめられる。
愛?これが?
その鎖が『愛』を示すなら、なんで僕とLに繋がってないんだ。
思わず口がへの字になる。
「夜神くん」
「なんだよ」
「どうして不服そうなんですか?」
「…………………」
「鎖が外れてよかったじゃないですか」
こいつ……分かってて。
「それとも、私と鎖に繋がれてたいですか?」
「違うよ……!」
月の顔がかっと赤くなり、唇を噛んでぷるぷると震える。
その反応を楽しむように、Lはほんの少し口元を歪めた。
「でも……夜神くんにこれは必要ないですよね?」
鎖をぽいっと投げ捨てて見せた。
かしゃんっ──
「──私からは逃げられないんですから」
月の胸に走ったのは屈辱か、それとも別の感情か。答えられぬまま、赤い顔で吠えるしかなかった。
「くっ……! Lの馬鹿……」
ふっと笑うL。
「あなただけは、絶対に逃がしませんから」
監視のための鎖。
いつしか疑いではなく執着を繋ぎ、拘束ではなく想いを結びつけるものへと姿を変えていた。
誰かを縛るためのものは、誰かを失わないためのものとなり。誰かを逃がさないという執着は、誰かの居場所でありたいという願望へと変わっていく。
三人の想いは、互いに交わることなく、複雑に絡み合い、ほどけない鎖となった。
救いたいと願うほど、互いを追い詰めてしまう。その鎖は、誰かを縛る呪いだったのか。それとも、孤独な者たちを繋ぎ止める、たった一つの救いだったのか。
この鎖は、誰を捕らえ。
誰を救い。
そして、誰を解き放つのか。
その答えを知るのは、運命だけか。
愛は、時に救済となり。
時に、最も美しい罪となるのだから。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!