ーー深いまどろみに包まれていた。ん、あれ?
ガバッと起き上がった。
「うおっ」
横からそんな声が聞こた。その人物は京介だった。
「急に起き上がるなよ、、」
その言葉とは裏腹に、京介はホッとしたような表情をしていた。
そういば僕、また倒れたんだっけ。
「悪い夢でも見てたのか?」
「え?」
頬に触れて見ると、指先が濡れた。どうやら泣いていたらしい。
「あれ、何でだろ」
「覚えてないのか」
「…」
うっすらと、先程の夢の内容が浮かんできた。いや、あれは夢じゃない。実際の出来事だ。
「でも、良かった」
京介はそう言って抱きついてきた。京介の香りに包まれると、なんだか落ち着く気がした。
「急に倒れるから驚いた」
「…うん。寝不足だったのかな、今は何ともないけど、」
パッと嘘をつく。
「そっか」
京介はそう返すと僕から体を離し、立ち上がった。
「?」
「ごめん、そろそろ授業だから!」
そう言って京介は慌ただしく保健室を出て行った。どうしたのだろうか、らしくないな。
僕は1人、保健室に取り残されてしまったらしい。
時計を見ると3時半だった。え、?普通に計算しても4時間くらい眠っている。
それに今は授業中だ。もう帰れる。結局今日の授業は全てサボってしまったらしい。自然と、笑みが零れた。
ガラガラ
保健室の戸が開かれた。
「え、先生いねーの?」
やって来た人物は1人らしい。
「くっそ、」
その男子生徒は湿布を取り出すと右手に貼ろうとした。が、左手だからか湿布を貼るのを盛大に失敗していた。ぐちゃぐちゃだ。僕はその男子生徒の前に出た。
「手伝おっか?」
「うおわっ!?」
俺の存在には気づいていなかったらしく、その男子生徒は飛び上がった。
俺は新しい湿布を取り出す。
「どこ?」
「あ、こっちっす」
その男子生徒は右手首を差し出した。
「…」
我ながらなかなか綺麗に貼れた、気がする。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
「体育の授業中に挫いちゃって、」
「あー」
「あの、先輩」
「え?」
「あ、その色2年っすよね?俺1年なんで」
この学校の制服は、学年によりネクタイの差し色が変わるのだ。1年は緑、2年は青、3年は白となっている。僕は2年だから青だった。
「俺、瀬尾湊って言うんすけど先輩は?」
「僕は及川ゆ」
「ゆ?」
ゆき、と言おうとして辞めた。特に理由はない。
「及川。」
「及川、?」
「うん。」
「及川先輩、か」
先輩、そう呼ばれたのは中学卒業以来だ。なんだか懐かしさを覚えた。
「その、急なんすが先輩ってどんな人がタイプっすか?」
「え」
突然、瀬尾はそんな事を聞いて来た。本当に急だ。
「気になるっす」
そう言った瀬尾はキラキラした目で僕を見つめてきた。
「うーん」
どんな人がタイプか、そう聞かれるのは初めてではないがまともに答えた記憶がない。
というか正直分からない。
瀬尾はまだキラキラした目で僕を見つめている。…この目に嘘をつくのは心が痛む、気がする。ここはちゃんと答えないとか…
「えっと」
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