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次は、若い女性のお客様。
悠人の予約のお客様は、9割以上が女性だ。
今度は私より若くて、とても綺麗で清楚なイメージの美人さん。
ブランドで身を固めて本物のお嬢様なんだろう。
悠人は、またVIPルームに案内した。
今日は、特別なお客様が多いんだ……
VIPルームに入る人は、結構な料金を払ってる。あんなに若くて綺麗な人といろいろ話したり髪を触ったりして……
そんなの美容師として当たり前のことだってちゃんとわかってるのに、つい笑顔で会話する2人を想像してしまう。
私、さっきからずっと何を考えてるの?
やだ……仕事が手につかないし、胸が苦しい。
「大丈夫ですか? 穂乃果さん、体調悪いんですか?」
「輝くん……」
近くにいた輝くんが心配して声をかけてくれた。
「だ、大丈夫。ごめんね、ちょっと疲れが溜まってるのかな」
「穂乃果さんが心配です。頑張り過ぎてるんですよ。あんまり無理しないで下さい。僕、穂乃果さんの分も動きますから休んで下さい」
輝くん、どうしてそんなに優しいの?
その気遣いが、今はとても身に染みる。
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから、ごめんね」
「わかりました。でも、つらい時はちゃんと言って下さいね。我慢しないで」
「うん、わかった」
「ちょっと輝くん! 何サボってるの! 次、シャンプー急いで入って」
梨花さんの怒鳴り声。
すごく怖い顔でこちらをにらんでる。
「すみません! すぐ行きます」
私に一礼して走っていく輝くん。
いつも私が男性と話していると、梨花さんに何か言われてしまう。もちろん、仕事中なんだから言われても仕方ないんだけど……
でも、私以上に梨花さんもよく男性と話してるんだけど……
どうしてだろう、毎回そんなに厳しく言わなくてもいいのに……
月城美容専門学校でのアシスタントが、今回、私だったことも、私が悠人と親戚で同じマンションに住んでることも、やっぱり全部気に入らないのかな?
私の全てが腹立たしいのかも知れない。
冷たい態度には少し疲れるけど、でもそんなことでクヨクヨ悩んでても仕方ない。私は、自分の美容師としての腕を上げるためにここにいるんだから。
それに、すぐ近くに悠人がいてくれる。
悠人のおかげで、この美容師という仕事が楽しいと……だんだん思えるようになってきてるから。
今はそのことに感謝して、もっともっと成長しなきゃ。
「穂乃果さん、何度言ったらわかるの? きちんと仕事できないなら辞めたら? あなたがいるとそれだけで……」
その辛辣な言葉に続けて、梨花さんが私の耳元で言った。
「目障りなのよ」
心が、ちょっと傷んだ。
ううん……結構、傷んだ。