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「はああああ素晴らしい! 素晴らしいですわっ!」


ミューゼの家では、小さなファッションショーが開催されていた。観客はノエラとアリエッタとオスルェンシス。テーブルとソファを動かし広いスペースを作って、ミューゼ、パフィ、ネフテリアの生着替えを堪能。

2度もドアで潰した負い目があり、ミューゼ達はすっかり大人しくなった。ルイルイも3人の着付けを真剣に手伝い、最高の状態にしたモデル達をノエラの前に立たせていく。

数度に渡る着替えを経て、ノエラは大満足。その膝の上にいるアリエッタも、パチパチと拍手していた。


(いやー眼福眼福。みんな綺麗だし、似合うし、最高だねぇ)


アリエッタは2度目の着替えを強制される事は無かった。今日の所は自主的に着替えをしたのとミューゼ達が犠牲になった事もあって、それ以上の着せ替えは免除されていたのである。その代わり、ノエラの膝の上からは解放されなかったが。

ルイルイも特等席では見れなかったものの、3人に一通り着せる事が出来て嬉しそうにしている。

可愛いポーズ、魔法を使うポーズ、悩ましいポーズなどを決めていったミューゼが、ちょっと疲れた様子で、しかし少し嬉しそうに呟いた。


「……疲れたけど、アリエッタが喜んでるからまぁいいか」


そんなミューゼの恰好は、赤と黒をベースにした魔法少女服。黒のインナーを覆うように締め付けの無い赤のコルセット風のベストを着け、肩には黒のパフスリーブが付いている。スカートの基本色は黒で、白い裾にはトランプのスート模様。そんなスカートの後ろ部分には、片方が黒、もう片方が赤の長い燕尾が垂れている。さらには燕尾と反対の配色になっているハイソックスと靴。下半身がかなり派手である。そして頭には、ハートを模したミニハット。

今回の新作のテーマは、全て童話のアレンジなのだった。


「ふんふん……」(……足の方やり過ぎたかな? でも可愛いなぁ)

「ミューゼ……脚がステキ過ぎてわたくし変になりそう」


横で王女が妙な欲情をしている。

そんなネフテリアの衣装は唐衣裳姿と着物を合わせた感じになっている。竹の紋様が白でたくさん描かれた緑の着物で、腕部分は姫袖になっており、各所の裾からは重ね着している黄と桃の2枚のレーストップスが出ている。胴部分は黄色の帯で押さえ、正面に大きなリボン。その下は左右に大きく広がり、上半身とは違い桃色がベースで黄と緑が連なるティアードスカート。


(着てるの見ると一層派手だ。黒髪だからって和ゴス系で十二単イメージしたのは失敗だったか? まぁ嬉しそうだからいいか)

「こんな王女様なのになんだか煌びやかです」

「えっ、なに、いきなり悪口? でも確かに普段とは違う雰囲気とか…あと威厳? 凄い服ね」

「ミューゼさんと違って脚とか飾らないんですねぇ。逆に目を引くというか……」


ひとしきりネフテリアを堪能した後、最後にパフィに注目。

ベースカラーはブラウンのワンピース。色的に地味という事は全くない。上半身にはあまり重くなり過ぎないように軽い糸を使って大量のクッキーやフルーツの刺繍がされている。刺繍なので少し立体感もあって、クッキーやフルーツがくっついているようにも見えるのだ。ジャムやビーンズのデコレーションもあり、可愛い仕上がりになっていた。

下半身はロングのフープスカートで、上半身と同じく刺繍をされているが、こちらはクリームやチョコレートでドアや窓が描かれている。


「パフィおいしそう……」

「いや私は食べられないのよ」

「ぱひー、おいしー」(なんだか甘い匂いしそう~。頭もクリームみたいだし、イメージピッタリだねぇ)

「あらそう? アリエッタに食べられちゃうのよ♪」


ほのぼのしているパフィ達を見て、ネフテリアは思った。


(お母様ざまぁ! 今度自慢しよーっと)


今のパフィの恰好は、間違いなくフレアを暴走させるであろう破壊力を持っている。本日のミューゼ家はそんな甘い誘惑に満ち溢れていた。

一通り着替えが終わった一同は家具を元に戻し、そのままくつろぎ始める。そして興奮していた全員が落ち着いた時、パフィが呟いた。


「せっかくだからクリムにも見せに行きたいのよー」

「あ、それいいね。じゃあ今から出かけよっか」


という訳で、全員でヴィーアンドクリームに向かう事になる。道中注目されっぱなしだったのは、言うまでもない。




「みんな可愛いし! 丁度良いから手伝ってほしいし!」

『えっ』


何故かいきなり店を手伝う事になった。

店の前でミューゼとアリエッタとノエラが呼び込みをしてみると、服の可愛らしさと珍しさのせいか、あっという間に人だかりが出来た。そして中に案内されると……


「いらっしゃーい」

「あ、どうも」(この子も可愛い。誰だろう。あれ? 黒髪? どこかで見た?)

「王女様ーこっちのテーブル空きましたー」

「はーい、あちらへどうぞー」

「え、え? おう…じょ……さま?」


中でカラフルな王女が待ち構えているという罠。ルイルイが隠そうとすらせずに王女呼びするせいで、新しく入ってきた客が硬直したまま案内されていく。ミューゼの可愛さに惹かれて冷やかしにきた者も、茫然としながら注文してしまうのだった。

キッチンではパフィが手伝っており、たまに料理を持ってくると、その甘そうな姿に男女問わず目を奪われていた。


「ここ、何の店だっけ?」

「こんな美味しそうな店員達いたっけ?」

「っていうか何で王女様がいるんだよ!?」


食べ終わった客は、お腹と疑問がいっぱいになった状態で帰っていく。そして夕方前になり閉店。

ヴィーアンドクリームは昼向けの気楽な店だが、元々売り上げには困っていない。今日はなんとなく面白そうなメンバーが来たという事で、少し長めに続けたのだ。


「お疲れだしー。たまには忙しいのも楽しいし。さて詳しく話を聞かせるし。ボクも着てみたいし」

「クリム落ち着いて。他にも貰ってあるから、後で着てみるといいよ」

「よしっ!」


試作中は試行錯誤と練習で何着も作る事になる。いくつかできた完成品のうちそれぞれ1~2着程が、ミューゼ達に収められたのである。


「テリア用ので余ったのあるといいし。パフィのは大きさ余るしミューゼのは窮屈だし」

「うるさいのよ」

「うるさいなっ」


実際試着してみたところ、全員が満足し、アリエッタも嫌な顔をしなかったという事で、これで完成形となる。あとはノエラ達がじっくりと量産していくのだ。

実はフレアと話をした事で、クラウンスターは量産可能な体制を利用した衣服を、そしてフラウリージェは造りの細かい衣服を高級品として販売する事になったのである。

ノエラは手を抜くつもりはないが、プレッシャーが凄すぎると、店長仲間のクリムに愚痴をこぼしていた。


「で、どうするし?」


閉店作業が落ち着いた時、クリムがパフィに短く問いかけた。


「ルイルイにも手伝ってもらうのよ」

「あ、それいいし。頑張るし」

「え? わたしですか?」


ルイルイには何の話か分からない。しかし今は説明が無いまま、帰る事になった。


「お店ってのも楽しいものねぇ」

「なんで城にいる時よりも生き生きしてるんでしょうかね、この王女様は」

「庶民の暮らしって、やっぱりわたくしに合ってるのかも?」


楽しそうに話すネフテリアだが、その背後から見つめるミューゼとパフィの視線はかなり鋭い。

そのまま店を閉めるクリムを残し、ヴィーアンドクリームを出た。

なおもオスルェンシスと楽しく談笑しながら前を歩くネフテリアを見てから、ミューゼが突然アリエッタを抱っこし、頭を撫でて大人しくさせながら、ルイルイに話しかけにいった。

その時、パフィが動き始めた。


「……【フルスタ・ディ・リーゾ】」


手に持った白い塊を伸ばしながら構え、そのまま前を行くネフテリアとオスルェンシスに向かって振った。すると、パフィの手から白く細い物が、うねりながらネフテリアへと伸びていく。


「甘い! 【水流乱塊フロウクラスター】!」


振り返りざまに掲げた手の前に、大きな水の塊が現れた。そこに伸びてきた白い塊が突っ込んだ。


「おぉっ!?」


水の中で塊の動きが乱れ、あらぬ方向から飛び出す。ただの水の塊ではなく、中で複雑な流れが作られ、入った物を外へと弾き飛ばす魔法である。


「ふふっ、小麦粉生地は水に弱い事はもう知ってるの。それはすぐに使い物にならなくなるわよ」

「……甘いのよ」


パフィはそのまま弾かれた白い塊を操り、もう一度ネフテリアへと向かわせる。もちろん水流の塊を盾に使い、攻撃を弾く…が、弾いた先には丁度オスルェンシスがいた。


「ぅわぁっ!?」

「あっシス」


少し濡れた白い塊がオスルェンシスにくっつき、そのままパフィの元へと引っ張られていった。

オスルェンシスを回収したパフィは、くっついている一部を切り離し、再びネフテリアと対峙する。


「な、なんですかこれぇ~。ネバネバします……」


くっついている白い塊は粘り気がかなり強く、少し濡れているにもかかわらず、すぐにくっついてしまう。前に見た生地も粘り気はあったが、動けなくなる程の粘着性はなかった。


「え、何あれ。ネバネバ? って、小麦粉生地じゃ…ない?」


遠くからその事に気付いたネフテリアの顔に、はっきりと焦りが生じていた。

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