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日課である食後の惰眠を貪っているコユキの大鼾が響く中、フェイトが語り始める。
「美味かっただろうロットよ…… これが、我々が消し去ろうとしている人間が、他ならぬオマエの体を慮(おもんばか)って心を込めてくれた、食事の味だ……」
顔を上げたロットの目には、いつの間にかテレビから視線を外し、自分を見つめる仲間の運命神達の真剣な顔つきが映っていた。
フューチャーがフェイトに続けて言う。
「善悪だけではないぞ、コユキも人並外れたガッツだけでなく、リベラルアーツを始めとした数々の知識を持つ稀有(けう)な存在で当然善人だ…… 二人揃ってこの寺に集まっている悪魔達から絶大な人望を獲得している…… 元々ルキフェルに傾倒していたバアルだけではなくアスタロトや魔獣の神、ラーやハヌマン、ガルダまでな…… そんな存在なんて今まで聞いたことも無いだろう? なあ、我らのリーダー、ロット・ラダよ、今回の結末、果たして本当に許される事なのだろうか?」
「むむむっ、し、然(しか)し――――」
「あー俺もフューチャーにサンセっ! 昨日来たばっかだから和尚の事は良く分からねーけどさ、悪い人間じゃねーのは確かだと思うぜ! それに昨夜と今見させてもらったコレクションから察するに、ガッツと闘魂ってヤツを持っている事は確定だな! コユキに関しては惻隠の情も正義、悪を憎む心もしっかり持ってるからな! 多少難は有るが自分なりの礼儀もあるし、頭も悪くないぞっ! 今時ってか、昔から中々いない素養じゃね? なあ、フェイトにロットよぉ、今からでも作戦変更にしね? そうしようぜ」
フェイトが頷いて言う。
「無論私も同感だ…… そもそも私は今回の周回には乗り気でなかったのだ…… コユキと善悪だけではない、あの団地で爆死した者達、その周辺で亡くなった者達…… 特定の人間の死を誘引する権利など我々運命神が持って良い性質の物では無かろうが…… お前はそう考えないのか? ロットよ」
ロットは抗議の声を上げた。
「なっ、何故私一人が決めた事みたいに! ず、ずるいぞっ! 皆で決めた事では無いかぁ!」
三柱は各々言う。
「いや然(しか)し、リーダーが最終的に了承するわけだからな? 今にして思えば二回目の悪魔達による虐殺の辺りで反対していたと思うんだよな、私の性格からして」
「なっ! 覚えてない癖にぃ!」
「私も気分が悪くなるんだよ…… 三回目の人質取って呼び出して、とかさぁ、多分、いいや絶対反対したと思う…… 胸糞だからね」
「それは私とて同じだ、だからこそ皆で決めたのでは無かろうか? ほら、世界の為に泣く泣くみたいな感じでぇ」
「あー俺ちゃん的には一回目も四度目の今回も同じくらいムカつくけどぉ! だって今回二人を犠牲にしちゃってさ、ルキフェル? サタン? 強くして結局やるこたぁ人間や動物の虐殺だろ? んで最後は悪魔と無機物と僅(わず)かな命だけが残りましたぁ、めでたしめでたし? ならんでしょ、違うか? ちっと残酷すぎるんじゃねーかぁ? ロットよぉ」
「だから、何で私一人が決めた事にしてるんだよ…… じゃあ、変えようよ…… 私だって嫌なのは同じなんだからさ、今から変更できる案を募るよ…… 何か無い?」
「おお、漸(ようや)く目が覚めたか、ロットよ」
「うむ、聞く耳を持ったのは成長だな」
「ったく、最初から聞けよ、俺らにさっ」
「もう、良い、分かった、すみません、全部私が悪いのです、ごめんなさい」
どうやら全ての責任はロット神にある事になった様だが、悪の権化は自らの画策していた企(くわだ)てを断念したらしい、良かった。
とまあそれは流石に可哀想だ、しかし最後に幸福寺に来たロットが責任者っぽく話を進められるのは仕方が無い事だ、打ち合わせも出来なかったしね。
哀れではあるが自分自身で『丁度良い』とか何とか言っていたから、まあ、丁度良い結果なのだと思おう。
そんな事をつらつら思っていると、洗い物を終えた善悪が居間に戻って来て言う。
「さてさて、やっと片付けが終わったのでござる、では、改めてこれからの計画を聞かせて頂けるかな? 本堂に向かわせて頂きたいのでござるよ、今日はお寺はお休みにしたのでござる! 全員に集まって貰っているのでそこで教えて欲しいのでござる! これ、この通り! ん、んんん? これこれコユキ殿っ! 起きなければいけないのでござるっ! ほれほれ、今日は大事な日でござろっ! さあ、一緒に説明を聞くのでござるよ! 大丈夫? ほら確り目を開けなきゃいけないのでござるよ? 頑張って!」
「んがぁ? あ、善悪ぅ? あのね、アタシもう食べれないんだけどね、本当にゴメンなんだけどねぇ!」
「食べなくても大丈夫でござるよ、コユキ殿! 食べた食べた、今日も一杯食べきったのでござるよぉ! ささ、お歴々! こちらへぇ、どうぞどうぞぉ!」
確(しっか)りと半分眠ったままのコユキの脇を支えて本堂に向かう善悪の背中を見つめながら、揃って無言のままだった運命神達は一人残らず頭を下げて固まったまま、先行する善悪に遅れない様にとぼとぼと本堂に歩を進めるのであった。