9月も後半、日はもう落ち切っていて自販機の光だけが暗闇を照らす。
「…ほいっ」
音を立てて落ちてきた2本のペットボトルを取り出し、片方を若井に向けて放り投げる。
「え、奢りですか」
「優しい大森先輩に感謝しなさい」
「ありがとうござまーす」
レコーディング途中。
何となく気分転換をしたくなり、近くにいた若井を無理やり連れて来て今に至る。
「うわ、寒……」
吹き抜けた風が冷たくて、思わず肩を竦める。
「ほんとだ、急に………ちょっとあっためて」
パーカーのファスナーを閉めていると、後ろから腕を回されて。
「人で暖を取らないで貰えますか」
「元貴あったかいね」
全然聞いてないし。
でもこうやって触れてくれるのが嬉しい、とか。思ったり。
ずっと言えてないけど、好きなんだよ。
常に若井の事考えてるくらいに、重症。
回された腕を袖の上からそっと撫でながら、何の気なしに空を見上げてみる。
雲の無い空に、白い光を放つ月が浮かんでいて。
「………月、綺麗だね」
小さく零すと、若井が笑った。
「あれ、告白?」
その言葉に、何も返せなかった。
分かってる。冗談だって。
分かってるけど、それを否定する言葉が出てこなくて。
いつも通り、笑って返せばいいだけなのに。
そんな訳ないから、って。
いつもみたいに。
「……………違うよ。今のは、違う」
「……もっと…ちゃんと伝える、から………」
自分で言っておきながら、恥ずかしくなって言葉に詰まる。
あーもう。顔、熱い。
引かれる、かな。
せめて笑ってくれればいいのに。
「じゃあ、待ってる」
返ってきたのは、予想外に素直な言葉で。
そういう所だよ、好きになったの。
思わず深く息を吐くと、小さく笑う声が後ろから聞こえてきた。
「そろそろ戻ろ」
後ろから回されていた腕が離れそうになって、思わずその手を掴む。
「なに。笑」
「あと少し待って、顔見られたくない」
「えー?」
仕方ないなぁ と笑う若井の体温が、もう一度背中に伝わった。
「じゃあ今言ってよ」
「やだ。心の準備出来てない」
「嘘でしょ。ここまで来て?」
コメント
2件
ちょっと余裕感ある若井さん好きすぎて生きる