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「そうそう、君たち。私も探索者になったということで、物の試しにエネルギーボルトを覚えてみたんだ」
昼休み、次の講義は一緒でないにもかかわらずいつもの俺、彩花、朝日奈、合法ロリの四人で、イェニチェリがスルタンと共に卓を囲むがごとく、仲良く食事をしている。
やけにちっこいスルタンだし、奢りでもないしそれぞれ別のものを食べているが細かいことはいいんだよ。仲良きことはいいことだ。決してたかりにきているわけでもないしな。
「前回、金額を考えて止めたのでは? ライター一つに金をかけるにはあまりに高すぎると思いますよ」
「うむ、そうだったのだがね、三勢電力側に打診をしてみたところ、実験の器具の一部として購入をしてプレゼントしてくれたんだよ。少なくともここまでの研究でそれを出すだけの分の実績は得られた、と考えてくれたらしい」
つまりは袖の下代わりにエネルギーボルトを都合してくれたってことか。俺が都合した分は無駄になったな。
「で、使ってみた感想はどうですか? 楽しいですか? 」
シャボン玉を飛ばすようにエネルギーボルトを発射し続けている合法ロリの姿が瞼の裏に浮かぶ。ほほえましい一幕だ。登場人物が30超えた人物であることを除けば、とても絵になる一枚なのだろう。30超えた人物でなければ、だ。
「最初はおっかなびっくりだったが、慣れてくると段々応用が分かってきて面白いね。これ、まっすぐ飛ばすだけじゃなくて速度や打ち込む角度の変化もできるし、フォークボールを投げるみたいに目標の前でカクッと落としたり、いろいろできるんだねえ」
そこまで考えてなかった。そういう使い方もできるのか、さすがは研究者というところだろうか。単純に速度と威力だけしか考えたことなかった。むしろそれで十分だと感じていたし、どこまでその力を使いこなすことができるのか、という点については研究心すら持ち合わせてなかったということか。俺もまだまだだということだな。
「ただ、少々使いすぎてね。二度ほどぶっ倒れることになったんだが、朝日奈君がいなければその辺の路上で寝たきりになるところだったよ。ありがとうねえ朝日奈君」
朝日奈を見るとニッコニコで反応しているので、完全に役得だと思っているのだろう。朝日奈的に考えれば、自分の好みのタイプの女性を背中に背負うかお姫様抱っこで運ぶか、どちらにせよ好き放題する隙があったわけだ。
「だとすると、俺のよわよわエネルギーボルトもそんなに出番がなくなってくるわけですか。負担が減って何よりですね」
「でも先生、ダンジョンの中でぶっ倒れたりしないように気を付けなくちゃダメですよ。探索に赴くことはほとんどないでしょうけど心配になります」
「安心したまえ、私がダンジョンに赴く可能性はゼロだ。そんな時間があったら研究することがあるからな。私の研究室から出ないつもりだし、スキルを使うとしても窓からよわよわエネルギーボルトを出すだけにすぎない。安心して扱えるってもんだ」
本人はこう言っているが、どこまで信用できるかは今のところわからない。が、一手間省けたのは違いないな。
「なら、念のために確保しておいたエネルギーボルトは出番がなさそうですね」
「おや、本条君は私のためにそんな準備までしてくれていたのか」
「在庫欠乏で手に入らない可能性もありましたからね。念のためにと思って一枚準備はしておいたのですが、無駄になって何よりでした」
さて、この在庫はどうしようかな。覚えるもよし売るもよし、しかし今更覚えたところで知れているところではある。
「ふむ……本条君、その一枚とっておいてもらうことは可能かね? もしかすると三勢電力側で新たにファイヤースターターとして正式に任命されるかもしれないし、その時に手元でひそかに探索者ではない人物に対して付加することが可能になるかもしれないからねえ」
「一応できなくはないですが、それ探索者のルール違反になりますから、あとで怒られて面倒なことになりますよ。スキルスクロールは原則、自分で取得したもの以外は、ギルド建物内部で覚えるというルールがあります。素直にその時まで待っているほうがいいとは思いますけどね。……まあ、エネルギーボルトをその時まで保持しておくのは難しくはないです。お金のほうがひっ迫しているわけではないので」
「本条君は小金持ちだねえ。税金はしっかり払いたまえよ。ダンジョン学部の学生が脱税なんて話になったら面倒だからね。ダンジョン学部はダンジョンと脱税について指南しているのか、とかダンジョン探索者は儲かる職業なのに、それを見越して税金の話をしてないなんてどういう教育をしているのか、なんていわれるのがオチだからねえ」
「まあ、その辺は自分でも調べて、どんなに稼いでも総収入の半分は税金で持っていかれると考えて行動してるから大丈夫ですよ。ほんとうにそこまで稼げるかどうかはわかりませんが、税金のことを大学入学から考えることになるとは思ってませんでしたよ」
「その様子だと心配はしなくてよさそうだねえ。しかし、うちのゼミ生は少数精鋭でありがたいよ。ほかのゼミの様子を聞いているとどうやらそれほど芳しくない成果のほうが聞こえてくるようだからねえ」
どうやら、うちはうまくいってるほうらしい。詳しくは聞かないが、それぞれ目的をもって……若干一名目的のベクトルが違う気がするが、それでも成果を出すという点で言えばすでに一件は成果を出しているのは間違いないし……と、そういえばドライヤーの件はどうなったんだろう。
早めに次の課題に取り組むためにも聞いておきたいところだが、そこまでせっつかなくても結果はもう出ていて、おそらくその結果の報酬としてこの合法ロリがエネルギーボルトをねだった可能性もあるのでおとなしく次の講義を待つとしよう。
「さて、次は二限ぶっ続けで君らはフィールドワークだったな。やはり三人で組むことになるんだろうかねえ? 」
「前回は俺と朝日奈で組みましたからどうでしょうね。また二人組作ってーとなると、朝日奈は自分と親しい人と組むかもしれませんから、案外俺が一人ぼっちになる可能性もありますね。あまり……いや、全く? そういえば友達を作る暇がなかったもので」
「なるほど、本条君は自分から友人を作るのを苦手としているわけか。道理で孤高のイケメンがダンジョン学部にいるとか言われているわけなんだな」
俺、そんなポジションだったのか。孤高であることとイケメンであることはもはや否定して回るだけ面倒なのでしないが、孤高であるといわれるのは少し心外だ。もっとちやほやしてくれたっていいんだが、周りがそれを許さないらしい。
「俺、そういう風に思われてたのか……ちょっと意外だ、というか訂正を求めたい」
「さすがに今から訂正を求めるのはなかなか難しいんじゃないかな。例えばもっと人数の多いゼミに向かってみるとか、一般座学や体育科目でしっかりポイントを稼いでくるといいし、コミュニケーションをとることが大事だね。いろんな人とつながりを持っておいたほうがいいのは社会人になってから確実に感じるようになるだろう。ここが最後の関門だと思って交流先を広げておいたほうがいい。結城君に怒られない程度に合コンやパーティーにも参加して、壁の花にならずにできるだけ会話の中に入っていくようにしていったほうがいいね」
えっと……それをするには話題が必要だよな。かといって探索者に興味がありますか? なんて誘い文句はコミュニケーションではなくてただの探索者勧誘だし。どんな内容の話なら違和感なく溶け込めるんだろう。うーん……わからん。俺はどうすればいいんだ? とりあえず顔を売って合コンに混ざりこむぐらいならできるとは思うが、そこから先の話を膨らませて楽しませる会話が俺にできるのかどうか。まずはそこからだな。えっと……
「結城君、本条君は対人戦にはとことん向いてないみたいだが、よく君はこんな男を口説き落とせたね」
「まあ、いい男を捕まえるにはそれなりのテクニックみたいなものがあったというか、流れでそうなっちゃったというか……まあ、いろいろあるんですよこっちにも」
「あまり聞きだしたくないような、聞き出したらそれはそれで砂糖を吐き出しそうな甘ったるい情景が想像されるのか……まあ、ともかく本条君が基本的に対人にあまり慣れていないということはわかった。そんな中で、よくもまあ私とこれだけの関係を築くことができたものだねえ」
「大泉先生の場合、同じ人類として考えてませんから。珍獣かペットかそういうものだと考えています。なのであまり気にせずにいられるのかもしれません」
「あっはっは、面白い冗談だ、単位落として留年させるぞ君」
「……すいません、私もちょっと物珍しいものを見ている気持ちで接してます」
彩花が白状する。大泉先生は珍獣である。それもかなり珍しい、日本のごく一部地域にしか生息できないようなそういう類のものだと思っている。
「結城君までだと!? 私の味方はいないのか! 」
「大泉先生、僕がいますよ。ここに味方がいますって」
朝日奈がここぞとばかりに点数稼ぎに顔を出す。大泉先生が小さな体を丸めて朝日奈に縋りつく。朝日奈がとっても嬉しそうにしているのが対照的だ。
「よかったですね先生、ゼミには絶大なあなたの信奉者が少なくとも一人いますよ」
「うう……ぐすっ……朝日奈くぅん」
「おおよしよし、もう大丈夫ですからねー」
掛けている声とは対照的に、陰のある邪悪な笑みを浮かべつつある朝日奈に俺と彩花が少し引く。こいついつか手を出すな。そんな気がするが、無理やりでなければ別にいいと思うし、学生と教師の関係を超えてというのも悪い話ではないし、この合法ロリにとっては最後のチャンスかもしれない。
そう考えるとこの二人の背中は素直に押してやるのが世の中のためになるのではないだろうか。婿のなり手がいない研究一筋の女性に、それでもいい、いやむしろそこがいい、育ってないのが更にいい、と押しの一手をかける朝日奈。これは……これも愛の形か。陰ながら応援していくことにしよう。
コメント
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おお、第272話、ゼミの日常がめちゃくちゃ楽しそうですね!大泉先生がエネルギーボルトを覚えた話、しかも実験器具扱いで三勢電力からもらったってのがまた先生らしい。それで使いすぎてぶっ倒れたところを朝日奈に運ばせてるのがもう完全に役得だし、朝日奈のあの邪悪な笑み…応援したくなりますね(笑) それと「孤高のイケメン」って呼ばれてることに驚く本条くん、確かに自分からは友達作りに積極的じゃないけど、でもゼミの仲間とはしっかり馴染んでるのがいいなあ。日常のほのぼのしたやり取りが読みやすくて、好きです!
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リリア💙🤍
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璃音
1
#学園
大正
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