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鈍い音がした気がした。その音が鳴り終わる前にはもう、僕の視界には何も写っていなかった。
「…、あれ…。ここは…。」
視界は真っ白。一瞬、視力を失ったのかと思った。
でも、視界の端に白いカーテンが写ったのを見てそうじゃないと知る。カーテンの方に目線を向けると、雪がぱらぱらと舞っていた。
生きてるんだ、僕は…。生きていたんだ。
僕は多分、交通事故に巻き込まれた。
きっと、僕の不注意だったんだろうな。生きてることが奇跡だとでさえ思う。
「大丈夫…?」
愛する人の声が聞こえて、声の方を見る。彼女は泣くこともなく、心配そうに僕を見つめた。
大丈夫ではない。でも、何となく言葉が出なくて、ただ微笑むしかなかった。
今日は、彼女との記念日で出かけていたところだった。仕事は休んだ。丸1日使って、彼女の好きなことをやる予定だった。
気付けば何かとぶつかって、現在。周りを見ていれば、こんなことには…。
「君は怪我してない?」
やっぱり、愛する人が傷つくのは嫌だ。彼女も同じことを思うだろうけど。
「うん。大丈夫…。」
彼女は悲しげに俯いた。
顔を上げて欲しくて、目の前にある頭をくしゃくしゃにしようと思ったときだった。
手が、上がらなかった。何も感覚がなくて気が付かなかった。
腕はまったく動かないように固定されていた。
彼女の頭に僕の額をコツンと当てた。
それ以外、何も出来なかった。
「完治への見込みはありません。」
お医者さんの言葉に心の底から絶望感じた。
両手がなきゃ、何も出来ないじゃないか。
食事もできない。愛する人と手を繋いだり、家事を手伝ったりもできない。
それに…大切な仲間との撮影だって…。
僕の人生は、もう全て台無しになってしまった。
これからどうすればいいんだ。この先、絶望しか待っていないじゃないか。
僕とぶつかったのは、トラックだった。生きていることが奇跡だった。
もう少し当たり所が悪ければ、天国へ直行だったろう。鍛えていて良かった。
でも、もう…。
「仕事は、やめようかな…」
その言葉を口にした途端、行き場のない気持ちが込み上げてきた。
彼女も、僕が一切言葉にしないであろう言葉を聞いて、涙を溢れさせた。
僕も、口にしたくなかった言葉を言ってしまって、後悔と共に現実を突きつけられた気がして思わず涙があふれる。
「ごめんなぁ…私が庇ってあげられたら…。」
ドズルは仕事を続けれたのに、と言葉を続ける彼女に、僕は「やめてよ、」と遮った。
「君が事故に遭ってたら、間違いなくお空行きだったよ。」
たしかに、とても言うように俯いた。
本当に、このままじゃ仕事は続けられない。
彼らに、手紙を送ろう。今の状態じゃ直接伝えられる気がしない。
少しだけ動く左手だけを頼りに、キーボードで彼らに送る言葉を丁寧に売っていく。
たまに、骨がきしむ音がする。これは僕の手じゃない、と信じてしまいたくなる。
彼らへ届ける言葉は、気持ちのあまり長文になってしまった。でももう、会うことはないから仕方ないか。