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brfr 黄水 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
その日は、朝から少し嫌な予感がしていた。
みつきは事務所の廊下を歩きながら、何度もスマホの画面を確認していた。
通知はない。
メッセージもない。
それなのに、胸の奥が落ち着かなかった。
「……なんだろ」
小さく呟いて、みつきは首を傾げる。
最近、元彼からの付きまといが続いていた。
自宅の近くで見かけたり、帰り道に後ろからついてこられたり。
事務所にも相談して、スタッフさんが警戒してくれている。
だから今日は大丈夫。
そう思っていた。
――そのはずだった。
「みつき」
「……え?」
背後から名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声。
みつきの足が止まった。
ゆっくり振り返る。
「……なんで」
そこに立っていたのは、もう会いたくないと思っていた人物だった。
元彼。
「久しぶり」
「……どうしてここにいるの?」
「会いたかったから」
みつきの顔から血の気が引いていく。
「帰って」
「そんな冷たいこと言わないでよ」
「帰って……」
声が震える。
相手は一歩近づいた。
「最近、全然連絡くれないよね」
「……」
「俺のこと避けてる?」
「……帰って」
もう一度、みつきは言った。
けれど声は小さく、今にも消えてしまいそうだった。
「みつき、俺たち付き合ってたんだから――」
「もう終わったよ」
震えながらも、みつきは言った。
「ずっと前に終わった」
「でも俺はまだ――」
「終わったの!」
思わず声を上げた。
廊下に声が響く。
みつき自身も驚いた。
けれど、相手は引かなかった。
「そんなに怒らなくてもいいだろ」
「……っ」
怖い。
身体が動かない。
逃げたいのに、足に力が入らない。
そのとき。
「……みつきさん?」
別の声がした。
スタッフの声だった。
けれど、みつきは返事ができない。
視界が滲んでいく。
「みつきさん、大丈夫?」
「……らい、む……」
その名前が口からこぼれた瞬間。
涙が一粒、頬を伝った。
「……え?」
元彼が驚いたようにみつきを見る。
みつきは慌てて涙を拭おうとした。
けれど、次から次へと溢れてくる。
「……やだ」
小さく呟く。
「もう、やだ……」
その瞬間だった。
「みっちゃん!」
廊下の向こうから、らいむが走ってきた。
収録のために来ていたらしい。
息を切らしながら駆け寄ってくる。
「みっちゃん!」
「……らいむ」
みつきはらいむの姿を見た瞬間、張り詰めていたものが切れた。
「らいむ……っ」
涙が止まらなくなる。
らいむは一瞬で状況を理解した。
泣いているみつき。
その前にいる元彼。
そして、事務所内にいるはずのない人物。
「……あんた」
らいむの声が低くなる。
普段の優しい声とは違う。
けれど、怒鳴ることはしなかった。
みつきが怯えているからだ。
らいむはまず、みつきの前に立った。
完全に庇うように。
「みっちゃん、こっちおいで」
「……うん」
みつきが震える手で、らいむの服を掴む。
らいむはその手をそっと握った。
「大丈夫やで」
「……怖かった」
「うん」
「急に来て……」
「うん。もう大丈夫」
らいむはみつきの顔を見て、優しく言った。
「俺がおるから」
みつきは何度も頷いた。
らいむはそれを確認してから、元彼へ視線を向ける。
「ここ、どこやと思ってます?」
「……」
「事務所ですよ」
声は静かだった。
「みっちゃんが嫌がってるのに、なんでここまで来たんですか」
「俺はただ話を――」
「話したいんやったら、本人が話したいと思ってるか確認するのが先やろ」
「……」
「みっちゃんは帰ってって言いましたよね」
らいむの言葉に、元彼は黙り込む。
そのとき、スタッフが駆けつけてきた。
「らいむさん、みつきさん、大丈夫です」
「……お願いします」
らいむはスタッフに任せる。
「この人、事務所に入ってきた経緯も含めて確認してください。必要なら警察にも相談しましょう」
「はい」
元彼が何か言おうとした。
しかし、らいむはもう相手を見なかった。
今、一番大事なのはみつきだった。
「みっちゃん」
「……」
「もうええよ」
「……らいむ」
「帰ろか」
その言葉に、みつきの目からまた涙が溢れた。
「……うん」
控室に戻ると、みつきはソファに座った。
らいむはその隣に座る。
「……ごめん」
「なんで謝るん?」
「また、らいむに迷惑かけた」
「みっちゃん」
らいむは少し困ったように笑った。
「それ、何回言われても違うって言うで」
「でも……」
「迷惑ちゃう」
みつきの手を握る。
「恋人が怖い思いしてたら、助けるやろ」
「……」
「俺がみっちゃんのこと大事にしてるん、知ってるやろ?」
みつきは黙って頷いた。
「なら、頼ってええねん」
「……うん」
「怖かった?」
「……すごく」
「そっか」
らいむはそれ以上、無理に聞かなかった。
ただ、みつきの頭を撫でる。
優しく。
何度も。
「泣いてええよ」
「……」
「我慢せんでええ」
「……らいむ」
「ん?」
「ぎゅってして」
「もちろん」
らいむはみつきを抱きしめた。
みつきはらいむの胸に顔を埋める。
「……怖かった」
「うん」
「名前呼ばれたとき、どうしたらいいかわからなくなった」
「うん」
「でも……らいむが来てくれた」
「……間に合ってよかった」
らいむの声が少し震えた。
みつきは顔を上げる。
「らいむも怖かった?」
「……ちょっとな」
「え?」
「みっちゃんが泣いてるの見たから」
らいむは苦笑する。
「俺、めちゃくちゃ腹立ったけどな」
「……」
「でも、みっちゃんが怖がってる前で怒鳴るわけにはいかんやろ」
「らいむ、優しいね」
「みっちゃんにだけや」
「……嘘」
「ほんま」
みつきが少しだけ笑った。
それを見て、らいむもようやく笑う。
「ほら」
「なに?」
「やっぱ笑ってるほうがええわ」
「……らいむのおかげ」
「そっか」
らいむはみつきの目元に残った涙を、指先でそっと拭った。
「もう一人にせんから」
「ずっと?」
「ずっと、は言いすぎかもしれんけど」
「……」
「必要なときは、いつでも呼んで」
「じゃあ今、呼んでいい?」
「うん」
「らいむ」
「はい」
「好き」
「……俺も好きやで」
「もう一回」
「好きやで、みっちゃん」
「もう一回」
「何回言わせるねん」
そう言いながら、らいむは笑った。
「大好きや」
みつきも、ようやく笑った。
その日の帰り。
らいむはみつきの少し前を歩くのではなく、隣を歩いた。
みつきが怖くなったら、すぐ手を握れる距離。
何かあれば、すぐに助けられる距離。
「らいむ」
「ん?」
「手、繋いでいい?」
「もちろん」
みつきが手を差し出す。
らいむはその手をしっかり握った。
「……あったかい」
「みっちゃんの手、冷たすぎや」
「怖かったからかな」
「じゃあ、温めたる」
らいむは少しだけ強く握り直した。
「大丈夫」
「うん」
「みっちゃんは一人ちゃうから」
「……うん」
二人は並んで歩いていく。
今日の出来事が、すぐに消えるわけではない。
怖かった記憶も、涙も、震えも。
それでも。
みつきには、もう一人で抱え込まなくていい理由がある。
隣を歩いてくれる人がいる。
怖いときに名前を呼べば、駆けつけてくれる人がいる。
そして何より――
「らいむ」
「ん?」
「今日は、ありがとう」
「何回言うねん」
「だって言いたいから」
「……そっか」
らいむは照れくさそうに笑った。
「ほな、これからも俺のこと頼ってな。みっちゃん」
「うん」
繋いだ手は、家に着くまで離れなかった。
コメント
1件
うわっ……このエピソード、最初からずっと胸が苦しかったです。元彼が事務所にまで来るとか、本当に怖すぎる……💦 みつきちゃんの「らいむ」って名前を呼んだ瞬間の涙、そこで一気に感情が溢れたのが伝わってきて、こっちまで泣きそうになりました。 らいむくんの「俺がおるから」って台詞、めちゃくちゃ沁みました…。怒鳴らずにまずみつきちゃんを守るって、本当に優しいですね。最後の手を繋いで帰るシーンも、もうずっと離さないでほしいって思いました。 続き、すごく気になります。この2人の関係、これからもっと深まっていくのかな…次の話も絶対読みます🤍
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瑠唯-るい-腐女子投稿頻度🐢
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