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「元、ですか⋯⋯。
詮索はしない方が良さそうですね」
「死にたくないのであればな」
「それは怖い。
ですが安心して下さい、命の恩人たるハーデス様にそのような事はなさいませんよ」
───ハーデスが咄嗟に考えた設定は元貴族である。
ハーデスの身形や口調から庶民で通す事が出来ない以上、その選択肢は限られてくる。
この世界の事をあまり知らない以上、不用意に王や貴族といった身分を名乗るのは不味い。
とはいえ、先の二つ以外にハーデスの口調や態度に違和感のない身分が浮かばなかった。
そこで選んだのが元貴族である。
これならば多少詮索されようと、過去の事である以上多少なりとも誤魔化しは効く。
王の方がハーデスに合っているかも知れないが例え没落しようと王である以上名が知られていないという事は有り得ないだろう。
直ぐにボロが出る王より、貴族の方が誤魔化しやすいと判断しての選択である。
「さて、互いの名も分かった事ですしオリオンに向かいましょうか。
ハーデス様はオリオンにお越しになった事はお有りですか?」
「否、此度が初めてだ」
「それなら道中の案内は私めにお任せ下さい。
何度も通った道なので迷う事もないですし」
自身の胸を軽く叩きながら得意げにそう告げるメインは、こちらですよとハーデスに道を示し短い返事を確認すると二人は歩き出した。
「ここから少し歩けば舗装された道が見えてくる筈です。
その道を道なりに進めばカルラ村がありますからそこで数日分の食料を買って、可能ならば馬車を借りましょう」
「馬車か」
「えぇ、流石に歩いていくのでは何日もかかってしまいますからね。
徒歩でも行けなくはない距離ですが、弟や冒険者の方々の遺体を出来るだけ早く回収したいので・・・。
念のため退魔石を周囲に置いてきましたがいつまで効果が続くか分かりませんからね」
「退魔石?」
「モンスターが近寄らなくなる匂いを放つ鉱石の事です。
人間からしたら無臭なのですがモンスターはその匂いが苦手なようでその匂いを嗅ぐだけ逃げるよう離れていくんですよ。
その事が最近分かって、王都の外に出る際は必ず持ち運ぶようにしているのですが希少な鉱石ですので私めも一つしか持っていないのです。
その鉱石を弟達の元へ置いてきたのでモンスターなんかに遺体を食べられる事は当分ないでしょう」
「有限か」
「えぇ、苦手と言ってもその匂いに慣れて仕舞えば何も問題ないですからね。
いつまでも置いておけば何れその匂いに慣れたモンスター達がやって来るでしょう。
ですので、出来るだけ早く回収したいのです」
退魔石の効力が分かった際にはその鉱石に注目が集まり、それを防壁に使おうという意見も出たがその効果が有限である上希少な為その値段も決して安くない事もあり、最終的に少し高価なお守り程度の扱いに落ち着いた。
それでも都市を行き来する商人からすれば必須のアイテムと言えよう。
「それが貴様の焦りの理由か」
「やはり、分かりますか⋯⋯」
「余の前で隠し事は不可能と心得よ」
「流石はハーデス様ですね、上手く隠していたつもりだったのですが⋯⋯。
やはりその場を離れると言いようのない不安を覚えてしまうんです。
弟達の遺体は無事か気になって仕方がない」
表情や言葉には決して出ていないが、メインが焦っている事にハーデスは気づいていた。
退魔石で守っているとはいえそれは有限ではある。
いつ大切な肉親の遺体がモンスターに食われるか分からない、その不安が焦りを生んでいた。
「弟達は既に亡くなってしまった。
だがせめて遺体だけは両親の元へ届けたいと思っています。
それすら叶わないのであれば私めはどうにかなってしまいそうで」
「⋯⋯⋯⋯」
ハーデスがその気になればメインの弟達の遺体の回収は容易い事である。
だが、まだ分かっていない事の方が多いこの現状で不用意な行動をこれ以上取るわけにはいかない。
(ままならないものだな。)
心底そう思う。
せめてもう少し情報があれば取れる選択肢も増えただろう。
だが現状の情報量では大した事は出来ない。
「不要な不安は抱くな」
「へっ⋯⋯」
「不安を抱くのもよい、心配するのも人であるならば当然の事よ。
だが、必要以上の不安は抱くな。
不要な心配は意思を鈍らせ、その足を止める。
真に思うならば、ただ行動すればよい。
自分が成した事を最善とし、迷うことなく突き進め。
その方が不安に足を止めるよりよっぽど利口よ」
「⋯⋯⋯⋯」
「分かったなら要らぬ不安に悩むより足を進めよ。
それが恐らく現状で取れる最善よ」
「⋯⋯それも、そうですね。
今こうしてただ悩むよりその方がよっぽどいい。」
迷いが吹っ切れたように笑うメイン。
その足取りが先ほどより軽いのは気の所為ではないだろう。
「少し急ぎますよ、ハーデス様。
積もる話もありますが、まずはカルラ村を目指しましょう。」
「好きにせよ」
そうして、2人はカルナ村を目指し駆け出した。
「もう、走れません⋯⋯」
───途中でメインがバテた。