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「え?」
サーフィーは思わず振り返った。
そこには、ソファーにもたれかかるクルルがいて
様子が何やら違う。
窓の隙間から冷風が入ってきて
足元がヒヤリヒヤリとする。
空間に耐えられなくて
サーフィーが声を上げた。
「どういうことだよ…」
サーフィーの後に沈黙が続いた。
「…だから、あれは姉よ。
わからない…?”姉と二人暮らし”なんだから。」
「…誰?」
「杉山だとしか名乗れないわね…
霊というのは憑依ができるから便利だわ。」
「貴方は見えない代わりに祓えるのよ。
だからクルルちゃん?に憑依させてもらったわ。」
クルルに憑依した霊は立ち上がると
隣の部屋にあるベッドの下に座った。
そして、ガラガラと引き出しを開くと
通帳を沢山出した。
「これ、あなたに全部あげる。」
「…警察が引き取るかと思った。んなもんが
なんであるんだよ。大麻も。」
「あれは権力よ。私の家、極道だし。
手下やらが口止め料払ったからね。
大麻は親戚なんかが隠してるんじゃない?」
「はぁ、なんで俺にくれるの?」
「気に入ったのよ。」
サーフィーは呆れた顔をして次のように言った。
「犯人は知り合い?」
「いいえ…だけど、見た目なら分かるわ。」
「どんな?」
「紅い服…私を押し倒して首を絞めたの。
それから息が止まりそうになって
口づけをしてきたの。それと同時に息が途切れたわ。」
「ロマンチックだねぇ。」
「そんなことないわよ。ブサイクだったし性格も最悪よ。」
「ふぅ〜ん。で、何時頃かなぁその男が来たのは。」
「午後七時ごろよ。夕飯の自宅をしていると
__戸締まりをし忘れていたものだから
玄関から普通に入ってきて
私と鉢合わせたの。それからしばらく
つかみ合いをしたわ。1時間近くお互い揉めて
私は外に出そうとしなかったし
男は私を殺そうとしてきた。
けど、今考えたら不思議なのよ。
会ったこともない男が私のことを恨むかしら?」
霊は首を傾げた。
勿論、外から見ればクルルなのだが
生々しい内容を語るソレは依頼者本人であった。
彼女は目を瞑り少し考えると
サーフィーに続けた。
「貴方、坂本刑事のこと知ってる?」
「知ってるよ。兄ちゃんとよく飲んでたもの。」
「その坂本刑事さん…実は事件を隠蔽してるの。」
「…は?」
「本当はもう一つの事件と関与している…なのに
一人の女が首を絞められ殺害されたとしか
言っていない。おかしいと思わない?」
「本来なら”居なくなった姉と父と母”のことを
取り上げるはずなのよ。
私は、その事件についてずっと追ってきたのに。」
「…私はね、私を殺した人より母と父の消息が知りたい。
勿論、それには私を殺害した男が関与していると思うの。」
「だから、協力して。」
彼女がそう言うと
サーフィーは頷いた。
「いいよ。交渉成立…!来世と金は頂くからね。」
「わかったわ。」
霊が許可すると
向かい合わせの椅子に座らせて
サーフィーは事情聴取をし始めた。
「それで事情聴取だけど…
何人家族?極道は何組?人間関係は?」
「私の家庭は四人家族で、杉山組。
人間関係は知らないわ。」
「ただ岡田真織っていう
女友達が姉と仲が良かったわ。
後、父や母ともよくお茶をしてたわね。」
「ふぅん。いい情報だねぇ…それは。」
そう言うとサーフィーが外方を向いた。
人のザワザワとした声が聞こえるだけで
数分ほど沈黙が続く。
まるで瞑想をしているかのような
不思議な空気で霊は顔をしかめた。
「どうしたの?」
「…真織は殺人鬼でねぇ…今じゃ務所だよ。
無期懲役だし兄ちゃんが捕まえたんだ。」
「ソイツってことは、真織と付き合ってる
河野吉木(かわのよしき)かもね。
今は指名手配犯。そして日本には居ない…と。」
「えぇ…?その吉木ってのは何処に居るの?」
「知ってたら捕まえてるよ。
あ、けど……フィリピンとかに居たと思う。」
「兄ちゃんがそう言ってたらね。」
自慢気に言うサーフィーの瞳には
曇があった。言葉を話している途中
太陽が隠れたかのように暗くなって、
また太陽が出たかのように輝き出す。
さすがに霊もそれに気づいた。だが、言わなかった。
霊は「確かにそうなのかもしれない」と頷き
話題には触れずに居た。
それから霊は立ち上がり椅子を机の前に置くと
こう言った。
「もう時間だわ。クルルちゃんから抜けるわね。
…憑依は少し疲れてしまうわ。
だけど良いことが聞けた。ありがとうね。」
言い終わった途端、霊は倒れて
クルルから抜けた。
すると少しツっていた目が普通に戻り
完全にクルルに戻った。
サーフィーはそれを確信すると
クルルを背って車に戻った。