20××年4月。今日は僕の高校の入学式だ。今世の僕の名前はるぅと。戦争やスラム街などもなく、比較的殺人などの犯罪が少なく、平和な日本という国の黄瀬グループの一人息子として生まれた。ちなみに、彼女とはまだ出会えていない。
(まぁ、このまま出会えなければそれはそれで、君は幸せでいられるだろうしいいけれど……。)
いや、これはただの言い訳だ。僕の知らないところで泣かせたくないし、出逢えばきっと離れたく無くなるから。知らない奴と知らないところで幸せそうに笑っててくれればそれでいい。僕が嫉妬したりせずにただ平穏に暮らせる方法だ。
「桜、綺麗だな……」
僕はふと、足を止めて空を見上げた。まるで背中を押すかのように満開に咲いた桜の花はとても綺麗だった。
「ってやば!遅刻しちゃう……!」
入学式から遅刻なんて笑えない。やっぱり、峰澤さんの言う通り、学校まで送ってってもらえばよかったと後悔をしつつ駅まで小走りで行く。いくら東京都はいえ、次の電車を逃したら遅刻確定だ。
「はぁ……間に合った……」
僕は電車の中で一息つく。入学式というのもあり、現在の時刻は9時3分。9時30分までに集合で、10時には入学式が始まるため、今日だけは平日のピーク時の電車では無いのだ。そのためか、そこまで混んではいない様子だった。
「まもなく、私立すとぷり学園前〜、私立すとぷり学園前〜。」
アナウンスが入り、電車が停車する。僕は足早に電車を降り、学校に向かう。
(なんで学園前駅なのに、校門まで徒歩5分もかかるんですか……?)
学園の敷地が大きく、校門まで少し歩き、さらに昇降口まで10分ほど歩かなければならない。遠い、と愚痴を零しつつ信号待ちの間にスマホをいじってSNSを見る。
(あ、この曲いいなぁ…)
その時、1人の少女がスっとわきを通る。
「危ないっ!」
僕は咄嗟に少女の腕を掴む。振り向く少女の顔を見た瞬間、僕は察してしまった。この少女が今世での彼女であることに。
(出来ることなら、出会いたくなかった……。そして、とても会いたかった……。)
彼女を見つめると愛おしさが湧いてくる。
「あ、あのっ……」
少女の言葉に我に返り、僕は掴んでいた腕を離す。
「ご、ごめん……」
「いえ、!助けて下さりありがとうございました!景色ばかり見ていて横断歩道ちゃんと見てなくて……笑」
その言葉に怒りが込上げる。心配するような立場では無いが、そんな危険なことをして欲しくないと、咄嗟に僕は言葉が出てしまった。
「危ないでしょ!前をしっかり見ていないのは危険です!」
「ご、ごめんなさい……」
少し、怯えたような声で彼女は謝る。
「あ、いやっ……そのっ……。」
僕は初対面の彼女に何を言っているのだろうか……。僕が怒る権利なんてないし、彼女に前世の記憶があるわけでもないのに。
「ごめん……」
僕は小さくそう呟き、その場を離れることにした。出会いから最悪だ。きっと嫌われたことだろう。いや、でもそれで良かったのかもしれない。だって、惹かれ合わなければ、彼女を悲しませなくて済むから。
あぁ、でも……
(名前ぐらい聞いておけばよかった……)
ちょっとした後悔をしながら、僕は校門をくぐり抜けた。
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