俺は秋月湊瀬秋月湊瀬、17歳。向田高校の美術部に所属している。当たり前だが、趣味は絵を描くこと。
突然だが俺は、今ものすごくヌードデッサンを描きたい。勘違いしないでほしい、エロ目的ではなく純粋に書いてみたいんだ。
いち芸術家として、挑戦してみたいんだ。しかも、芸術欲に駆られて、何事にも集中できずに困っている。
だから一刻も早く描きたいんだが、そんなこと頼めるやつがいない。いや普通はどんなに仲が良くても頼めないか。
教室内を見渡して頼めそうな人を探す。
端から端まで探すが無理そうだ。最後に隣の席の篠原美咲を見る。
無理だと分かっているが、描くなら篠原のヌードデッサンを描きたいな。
彼女は長い黒髪に美しい琥珀色の目をしていて、普通に可愛い。
女性的の魅力も存分にありつつ、服の上からでも分かる美しい肉体。最近まで運動部に所属していたのもあり、出るところは出つつ締まるところからしっかり締まっている。
まさに肉体美の象徴。彫刻として後世に残したいくらいだ。
だけど俺のことが嫌いなのか、俺だけにツンとした態度を見せる。篠原は無理だろうな。でも、どうしても描きたい。ダメもとで頼んでみるか。
――
「秋月くんわざわざ美術室に呼び出して、なんの用かしら」
彼女は腕を組み、指先でトントンと一定のリズム刻みながら、俺をにらみつけている。
帰るところを、わざわざ引き止めたから怒っているよな。顔も紅葉しているし、その怒りがうかがえる。
変に回りくどく言っても無駄だから、単刀直入に伝えたほうがいいよな。
「篠原のことを描かせてくれ!!」
当たって砕けろの精神で伝える。
「ど、どうしてわたしなの?ほかにも人はいるでしょ…」
あれ?ここは変態とかどうしようもないバカ、などの罵声が飛んで来ると思ったが。
よし、もう一押しいくか!
「美しいと思ったから!!」
「ほかに可愛い人や綺麗な人いるでしょ?ぜひなく、わたしじゃなくても…いいと思うわ」
ちょっと表情が柔らかくなったように見えるが、まだ足りないな…ここは最終手段の土下座だ!!
「頼む、篠原(の体)が好きなんだ!!」
時が止まったかのような沈黙。ど、どうだ?恐る恐る見上げると
「そこまで言うならいいわよ。そのかわり、わたしが満足するように描きなさいよ!!」
「いいのか!サンキュー!いろいろ準備があるから、そこで待っていてくれ」
心のなかで特大ガッツポーズを決め、早速準備に取り掛かる。
篠原というと、イスに座りモジモジしたり、顔を手で覆ったりしながら、うつむいていた。
――
よし準備が終わった。バスタオルとデッサンに必要なものを揃えた。
「秋月くん、わたしはどんなポーズを取ればいいかしら?」
「あーその前に制服脱いでくれ」
「ジャージになれってこと?」
「いや、全裸になれってこと」
お互い首を傾げ、頭に?を浮かべ認識の違いを感じる。
ようやく理解したのか、顔がみるみる赤くなり、怒りの風船が割れる。
「ほんと信じらんない!!あんたってそういう人だったの!!」
「違うんだ落ち着いてくれ」
「何が違うのよ。たしかに全裸って言葉が聞こえたわ」
どうして、急に嫌がったんだ?俺の態度が悪かったのか?
「大丈夫、けして性的な目で見ないから。俺が根っからの美術オタなのは、知ってるだろ」
「性的な目で見られないですって?わたしの体じゃ欲情できないって言いたいの!!」
なんで、今の会話でヒートアップすんだよ…怒りのスイッチが分からない。
「本当に好きなんだ(体が)信じてくれ」
「変態の戯れ言にしか聞こえないわ」
「初めて同じクラスになったときから、一目惚れだったんだ」
「そ、それがどうしたのかしら…」
俺の夢はここで終わってしまのか…そう思った瞬間、突然頭に言葉が浮かんでくる。
「篠原と一緒に暮らしたいんだ」
そのほうが、モデルとかに困らないし…
「え?それって」
(それって告白だよね?好きです付き合ってください!!を遥かに越える告白だよね。付き合うどころか、結婚も視野にいれているってこと!?本気でわたしのこと、好きってこと?もう!なにがなんだか分からないわよ!!)
篠原は、ぐしゃぐしゃになった言葉と思いが喉に詰まり吐き出せずにいた。一旦大きく深呼吸をし、リセットする。
「秋月くんの思い、分かったわ。描いてもいいわよ…」
「ほんとうか!!」
今にも踊りだしそうな俺に、指先を突き刺し静止させる。
「ただし、下着だけは着させて。それが無理なら諦めてもらうわ」
本当に篠原の思いは読めないが、なんとかなった。感謝しか言葉が浮かばない。
鉛筆や消しゴムを、コロコロしながら制服を脱ぎ終わるのを待つ。
「言っておくけど、あまり下着じろじろ見ないでよね。できるだけ意識から消して描きなさい」
「そんなムチャなこと言われても」
「できるわよね?」
とんでもない圧を感じる。
「頑張ってみます」
この日から俺と篠原の奇妙な関係が始まった。