テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
稀灯 夏成🩵🍸
2,336
2,872
_____
すちは教室でらんの椅子に座りながら背中からもたれかかって大きなため息を吐く。
その様子からも分かるようにすちは疲労困憊の状態だった。
もうとっくに生徒は帰るはずの時間で窓からの夕焼け色の光がそのことを確かなものにさせていた。
翠『 近付きたいんだけどな 、アタックなんて できないし ぃ … 。 』
一昨日の日曜日、こさめに言われたことを振り返りながら独り言を呟く。
桃『 誰に ? 』
翠『 … は ッ !? 』
ガタガタガタ ッ 、と大きな音をたててすちは椅子から崩れ落ちた。
突然現れたらんに動揺を隠せないようで目をまるくさせている。
桃『 てか な ー んで 俺 の 椅子 座ってんの ? 』
桃『 ん ー ?? 』
にやにやとすちを見定めるように、少し煽り気味で言った。
利き手の人差し指をだしてすちの額を軽く押すとすちはまた頭上にハテナを浮かべる。
翠『 いや 、これは っ 、違くて … 。 』
翠『 目 に 入った 椅子 に 座った だけ 、で … 。 』
翠『 許可 を 取ってなかった のは … ごめん … 。 』
なんでもできる万能人間がするとは思えない表情で、時折らんの方を見ながら謝罪を口にした。
それを見てらんは柔らかい笑みを零してガシガシと強くすちの頭を撫でた。
翠『 … … 、/ 』
桃『 な ー に ぶすって してんの 、折角 の イケメン が 台無し ー 。 』
桃『 ほら 笑え 笑え ー っ っ !! 』
すちと目線を合わせるようにしゃがみこんですちの頬を掴んで横に広げる。
口角が上がるようにすちの少し硬い頬を揺さぶる。
すちはわけがわからない様子でそれをただ受け止めていた。
翠『 … ん ふ っ 、 』
桃『 ぉ 、 笑った ! 』
小さく微笑むと大きく反応を示す。
満足気ににんまりと、絵に描いたような大きな笑顔を顔に浮かべる。
翠『 らんらん は 俺 が 笑ったら 嬉しい ? 』
桃『 嬉しい ! 』
食い気味に躊躇いなど知らないように言う。
そんな言葉にすちは何とも言えない気持ちを重く、深く、抱えていく。
この気持ちは届かないことは当然すちは知っている。
だから言わない。
言えない。
翠『 そう 。( 微笑 』
そうやって笑って気持ちを削ぎ落とそうとする。
自身に、相手に誤りが生じてしまうその前に。
桃『 んふふ … 、( 微笑 』
翠( … … 、 )
心で自身の気持ちを言うことも躊躇う。
本人はそう思ってなんかない、そう決めつけて。
翠『 もう 帰ろうか 、暗くなってきた 。 』
桃『 そだね 。 』
革鞄を肩にかけて教室を出ようとする。
翠『 … 、 』
桃『 、どした ? 』
翠『 … いや ? なにも 。 』
一瞬、口を開いた。
でもすぐに閉じた。
空にあった小さな黒雲が今のすちの心の中のように広がっていく。
そして空を閉じる。
翠『 行こうか 。 』
一つの影を落として。
_____
コメント
1件
はい、読み終えました……!もう、ここ、すごく切なかったです。 翠さんが「らんらんは俺が笑ったら嬉しい?」と聞くところ、一瞬の弱さを見せたのに、すぐに「そう」と笑って気持ちを引っ込めてしまう。 その“言わない”選択が、黒雲と重なって胸にじんと来ました。桃くんの無邪気な「嬉しい!」が、裏腹に残酷で。 こんな距離感、すごくリアルで好きです。続き、どうなっていくんだろう…。