『貴方の面影』
Luiyaさんの小説コン応募作品
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attention
太中
現パロ(あんまり関係無いです)
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ジリリリリリリリリリリ
聞き慣れた音で目が覚める。
ゆっくりと目を開け、朧げな手つきでアラームを止める
体を起こし、重い目を擦る。
自分の瞳に映るのは、1人だけ周りと隔てられた
色のないモノクロの世界。
立ち上がり、欠伸をしかけたが、床に朝特有の冷たさがあったため、自然と消えた。
大学に向かうまで少し時間があったが、特に長居する必要も無いため、少し早めに家を出る事にした。
昨日の飲みかけのぬるいコーヒーを一気に飲み干し、重い足取りで外へ行く。
その日は涼しかった。風が自分を押し出すように体の隙間を通り抜けていく。
秋になり、若木の青々とした匂いの消えた遊歩道を歩き進める。
「…寒、」
ふと、大学に行く前に遠回りをしたんだ。
いつもとは違う、少し遠いバス停。
理由は無い。何となくだ。
「…、珍しいな、誰か居る。」
そこのバス停のベンチに誰かが座っていた。
高そうな帽子を被った橙色の髪をしたスーツ姿の男だ。
向こうはこちらの顔を一度見る。
奇妙な、不思議な懐かしさを感じさせる顔。
特に印象的なのは瞳。
綺麗な蒼色のビー玉のようだが、完全に澄んでいるわけではなく、何より光が無かった。
「…見ていると思わず吸い込まれそうだ」
小声でそうぼやく。
だが彼はこちらを一瞥しただけで、すぐに正面を向いた。
不思議と、こっちを見ている時と見ていない時とで感覚は変わらなかった。彼の目がこちらを見ているようで遠くを見ているようなのが関係しているのだろうか。
とりあえずこちらも挨拶する気は無かったため普通に通り過ぎて、バスを待った。
朝早いせいか、私達の他に人は来なかった。
何分か経ち、バスが音を立ててやってきた。そして乗り込んだ。
ガラガラな車内を通り、窓側の1人用座席に座る。
足元の暖房が心地よかった。
いつもの癖で窓に寄りかかろうとするが、窓が結露している。
仕方がないため、袖で拭く。砂のようにザラッとした感覚と、が染み込むことに顔を顰めた。
そして窓に頭をつけ、寄りかかると。
先程の男が微動だにせずに座っていた
「おかしいな、このバス停には他の行き先のバスは来ないはずだが…」
そう思っているうちに、バスが出発した。
翌日、また例のバス停に足を運ぼうと思った。
昨日と同じ遊歩道を歩く。
雨粒が紫陽花に化粧をし、其処に蛞蝓が這っていた。
「彼奴にそっくり…」
そう呟いたところで、ふと立ち止まる。
彼奴って誰の事だ、?
「ま、気にしなくて良いか…」
傘に当たる雨粒の音を聞きながら、足を進めた。
靴に水が染み込んだ不快感に慣れてきた頃、バス停についた。
そしてベンチにをやると、昨日と同じ場所に男が座っていた。
雨なのに傘をさしていない。
水で濡れたシャツからうっすらと透ける橙の肌に、少し気持ちが浮ついた。
「…」
罪悪感から目を背けるように、男に傘を差し出した。
すると男はこちらも見ずに云った
『手前が濡れるぞ、』
いやもう濡れてるんだけど。
心の中でそうツッコむ
「君、傘は?」
出来る限りの作り笑顔と声で話し掛けた筈だったのだが、
『持ってねぇ、というか此れもいらねえよ、自分でさせ』
彼の反応は冷たく、開いたままの傘を押し付けてきた。
「そうかい。」
そう云うと、パチン、という音をたてて傘を閉じた。
『…何してんだ?』
男は変なことでも目の当たりにしたように聞いてきた
「別に、どっちかが濡れるなら2人で濡れた方が良いだろう?」
一瞬、男がすごく驚いた表情をした気がした。
『はぁ…?何言ってんだよ』
だがすぐに元の仏頂面に戻り、前を向いた。
そしてそのまま沈黙。
何分か経ち、タイヤで雨を弾きながら静かにバスが来た。
「」
私だけが立ち上がり乗り込む。
傘の水をはらい、定期をかざし、扉が閉まる前にまた後ろを振り返る
「…?」
男はまた動かずに座ったままだった。
声をかけようかと思ったが、運転手が早く乗れと言わんばかりに睨んできたため、無言で乗った。
それから何日も何日も、あのバス停に足を運んだ。
音の無いバスを待つ間、ほんの少しの時間。
だが彼と話したのは、傘を閉じたあの日だけで、
彼がこちらを向いたのも、動いたのもその日だけだ。
だが今回はこちらから声をかけてみることにした。
いつものようにバス停に向かう、そして彼の横に座る。
「ねぇ、君は何のためにずーっと其処に座っているんだい?」
答えてくれるとは思っていなかった。
『待ってるんだよ、初恋の相手をな』
だが意外とすんなりと話してくれたため、少し面食らった。
『…運命の奴だった。』
「…へぇ」
彼の語り出しに、何故か胸が騒いだ。
『だがな、彼奴は消えたんだ』
目を伏せながら彼は話し続ける。
「逃げられたってことかい?」
『違……、否…違わないか』
寒い筈なのに、背中に汗が伝う。
「つまり何があったんだい?」
不思議と焦ったくなって口走った
『其奴は、元は同じ場所に居たんだよ』
『それがいつの間にか遠くなって、』
『想い伝えられないまま、手の届かない場所に行っちまって』
そう話し続ける彼の声は、少し震えていた
『何でだろうなぁ…死にたがりなのはわかってた癖に…、』
『彼奴は何時迄も生きてるような気がして…』
『一目で良いから会いたくて、ずーっと、ずっと前から、此処で待ってるんだ。』
さあっと、風が吹いた。
すると、考える前に口が勝手に動いた。
「私も」
自分で発した言葉な筈なのに、自分でも理解出来ない。
「私もずっと、君に会いたかった。」
彼を待っていた?会いたかった?どういう事だ、
『…は、?』
彼があの目不思議な目つきでこちらを見る
だが、口は勝手に言葉を紡ぐ。
「…此処に来たら君に会えると…っ思って…ッ」
すると、少し間があってから、彼が呟いた。
『手前…だったんだな』
そう呟くと、彼の体が砂のように崩れ出す。
「ッ!?待っ…ッ」
急いで彼に手を伸ばした。
間に合え…っ
だが、手に残ったのは彼から崩れた砂。体に触れることはできなかった。
彼は消えてしまった。
なのにどうしてだろうか、驚きが無い。
手を戻し、ふいに砂を見ようとする。
すると、先程迄は砂だったはずのものが形を変え、
真っ黒な生地に金色の金具のついたチョーカーになっていた。
「…ッ!?」
金色。モノクロじゃ無い。輝くような金色。
色が認識できる、?
急いで周りを見回す。
瑞々しい青紫色の紫陽花。焦茶色のキンモクセイの木の枝、乾いた茶色い土の匂い。綺麗な飴色の太陽。全てが綺麗に、美しく瞳に映った。
そして色が映った瞬間、唐突に脳内に記憶が流れた。
息が出来ない。苦しい。
此処は、濁流の中…?
ゴオゴオと鳴る水の音に混じってまばらに声が聞こえる。
「…‥太宰…っ…俺が………を」
『次こそ手前を助けるからっ!!』
泣きながらそう叫ぶ声は、彼の声だった。
『どんなに手前が変わっちまおうと…!』
『俺は手前を…、助けに行くから…っ!』
その声の主に、体の主が手を伸ばそうとする。
だがそこで事切れたのか、記憶は終わった。
記憶が蘇り終わると、頬に熱いものが伝わった。
理由は自分でもよく分からない。
さっきのが誰の記憶かも。
だけど、突然色が見えるようになった理由。
それだけは分かる。
きっと彼がくれたのだ。
「ありがとう、ずっと待っててくれたんだね、」
そこで気持ちと涙が溢れた。
「……中也…ッ」
『中也』というのは知らない言葉だ。
だが、言わずにはいられなかったんだ。
この言葉を忘れてしまったら、私は一生後悔する気がして。
涙を拭って、顔を上げると、タイミングよくバスが来た。
バスに乗り込み、いつものように後ろを振り返る。
するといつも彼が座っていた場所には、彼の帽子が残っていた。
「ッ…、」
…きっと彼と私が出会うことは、もう二度と無いだろう。
そんな気がするのだ。
あのベンチに背を向ける。
「さようなら…中也」
バスの扉が閉まり、2人用の椅子に座席に腰を下ろした。
そしてもう1人分の座席には、チョーカーを置く。
バスが音を立てて、出発した。
誰もいなくなったバス停に、冷たい突風が吹く。
その風は帽子をさらっていき、小さく舞い上がらせた。
バス停のキンモクセイの花は、美しく輝いていた。
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どうでしたでしょうか、全然イチャイチャしてないけれど、こういう系の作品結構好きなんですよっ!!って…応募作品なのに完全に性癖の押し付けですね。すみませんでした。
ちょいちょい伏線入れてたのに気づきましたかね、?
中也が太宰の方を見なかったり、音や自分が感じることの出来る動作にしか反応しなかったのは、中也が盲目だったからなんです!
中也が太宰を見てすぐに太宰だと気づかなかった理由もこれです!
ちなみにこれは色を与える伏線です。
そして、中也が自分語りをする場面で、一つ行間が増えているのは、太宰の焦りや不思議な感情への戸惑いなどを表しています!中也の話に対して時間が長く感じている…みたいなイメージです、!
枝だけだったはずのキンモクセイ、バスの音など、他にもたくさん伏線張ったので、改めて読んで探してみる。ってのも楽しいかもしれません、!
にしてもluiyaさんのイラスト見て、これどっちが手引いてるのか(助けているのか)分からないな…、やっぱLuiyaさん天才だな…ってなりましたね、…素敵なイラストありがとうございます、!
面白かったらいいね、コメント、フォローお願いします、!
選ばれるといいなぁ…笑
コメント
2件
おぉ!✨文才あり過ぎだ…👀💕 表現とかすげえ綺麗で良いなぁぁぁ…😍💞 見ててすごい浄化された… ご参加本当にありがとうな! 結果発表をお楽しみに✊🏻🎶