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「透子。ただいま」

「おかえり。樹」


母への挨拶を済ませた数日後、私は樹の新居へと引っ越しをした。


今は同じ部屋で樹を待てる幸せ。


「ご飯。もう少し出来るからもうちょっと待ってて」

「今日は何作ってくれんの?」


家に帰って来た早々キッチンに来る樹。


「今日は私もちょっと残業になっちゃったから、簡単なパスタになっちゃった。ごめんね」

「透子が作ってくれんなら何でもいいよ」

「ありがと~。急いで作っちゃうから」

「いいよ~。別に急いでないし」


そう言いながら樹は後ろから腰に両手を回して抱き付いて来る。


「ちょ、樹。今ご飯作ってるから邪魔だって」

「腹減ってるのは我慢出来るけど、透子は我慢出来ない」

「もう樹くっついてたら料理作れないってば~」

「なら後にする?オレは透子先でいいよ?」

「ちょっと何言ってんの。もうすぐ出来るから」

「ならこのまま見てていい?」


そう言ってもっと近寄って後ろから顔を覗き込んで来る樹。


「えっ?いや、向こうでゆっくりしてなよ」


軽くあしらうモノの、さすがにこの状態は料理しながらでもドキドキしてしまう。


「だって今日もオレ向こうの仕事だったから、会社で透子と会えなくて寂しかったし」

「寂しかったって、もう一緒に住んでんじゃん。朝も一緒にご飯食べたでしょ」

「それだけじゃ物足りない。透子と一緒にいる方がいいし、ホントは向こうの仕事も行きたくなかったけどさ。仕方なく」

「社長さんがダメでしょ~。そんなんじゃ」

「じゃあ透子が秘書してくれる?そしたらオレ絶対頑張れる自信あるけど」

「何それ。私がこっちの会社の仕事好きなの知ってるでしょ」

「それは知ってるけど・・・」

「なら樹がこっちの会社にまた戻って来ればいいじゃん。そしたらお昼も一緒に食べれるし」

「それはそうなんだけど、向こうも結構忙しくなってきて」

「じゃあさ、こっち戻って来る日はさ、お弁当作ってあげる。それで、どっかで一緒に食べようよ」

「えっ!マジで!」

「うん。だけど、それはうちの会社戻って来る時だけね」

「毎日作ってくれないんだ?」

「だってうちの会社戻って来るの増やしたいから、特別感出したいもん。私だって樹に会社でも会いたいし」

「透子~!」


すると樹がなぜか名前を叫びながら更に強く抱き締める。


「ちょっ!」

「じゃあ約束ね、透子」

「わかった。約束。ハイ、ホラ出来た」

「もう出来たの?もっとくっついてたかったのに・・」

「そんなの後から出来んじゃん。冷めないうちに食べよ」


樹は一緒に暮らし始めてから、こんな風に前以上に甘々になってきて、少し戸惑う。


だけど、素直に気持ちを伝えてくれることが嬉しくて、そんな樹にも少しずつ慣れ始めて、私も少しずつ照れずに気持ちを伝えられるようになってきた。


「じゃあ。こっち食べてから透子はまたあとでゆっくりと♪」

「お好きにどうぞ(笑)」


でも、相変わらずの樹らしさに戸惑いながらもホッとしながらも、またこういうやり取りを出来る嬉しさを実感したり。


「いただきます」

「ハイ。召し上がれ」


昔はハルくんの為にこうやって作ってあげるのも、小さいながらに素直に喜んでくれて、それも嬉しかったけれど。

でも、やっぱり今好きな人に作って、それを目の前で見れる嬉しさはまた違う幸せで。


「うん。これもウマい」

「よかった」


今ではハルくんもすっかり私以上に料理上手になっちゃってるし。

それどころか、今は星がついてるお店で働いてるんだもんね。

こんな簡単なレベル比べたら申し訳ないくらいだけど。

でもその分、ハルくんに作った料理食べてもらえたら、ちゃんとした意見もらえそうだけど。

だけど、今目の前にいる樹は、こうやって私の料理を美味しいと言って、いつも冷めないうちに口いっぱい頬張って一気に食べ進める。

幸せそうに食べてくれる樹を見て、私も幸せを感じながら同じように食べ続ける。

そして、一気に食べ終わって満足してる樹。


「ねぇ、これも作ってあげたの?」


すると、一瞬何かを考えて声をかけてくる樹。


「ん?誰に?」

「元カレとか」

「え?何?まだそういうの気になるの?」

「そりゃ気になるでしょ。こうやって今まで出来ないことしてもらえたり、初めてのこと一緒にしたりすると、まだまだオレの知らない透子いっぱいあるんだなぁって思うし」

「それは私も同じだよ。その都度、樹の凄さや魅力に気付かされてすごいなぁっていつも思ってるよ?」



本気になってはいけない恋

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