朝日が薄く、カーテンの隙間から差し込んでいた。
藤澤の部屋には、まだ静けさが残っていた。
微かに残る吐息と、肌のぬくもり。
それは、昨夜の熱を確かに物語っていた。
「……ん……ぅ……」
微かに寝返りを打つ藤澤を、大森が優しく抱きとめる。
「おはよう、涼ちゃん」
「……ん……元貴……」
半分夢の中のような声で、大森の名前を呼ぶ。
その声に、大森は小さく笑って、額にキスを落とした。
もう片方の腕の中では、若井が藤澤の腰に手を添えたまま眠っていた。
昨夜、欲望も、感情も、全てを晒して重なった3人。
「……ちゃんと、寝られた?」
「うん……すごく久しぶりに安心して寝られた……」
藤澤は、大森の胸元に顔をうずめて答える。
副作用でずっと苦しんでいた夜。
けれど、昨夜の“疼き”は、もうそれだけではなかった。
愛されることで、安心できた。
愛されることで、痛みが安らいだ。
──それが、何よりの「癒し」だった。
3人で囲む朝の食卓。
ぎこちなくなってしまうかと思ったが、
不思議と空気は穏やかだった。
「……その。さ、涼ちゃん」
「ん?」
若井が、コップを手にしながら言葉を探すように切り出す。
「昨日のこと……ごめん。俺、勝手に……。我慢できなくて」
「……ううん。俺の方こそ、ごめん。ひとりで抱えちゃって」
藤澤が、そっと両手で若井の手を包む。
「元貴も、ありがとう……。来てくれて、嬉しかった」
大森は、2人の手を見て、ゆっくり頷く。
「これからは、ひとりで我慢しなくていい。
俺たちで、支え合っていけばいいんだよ」
「……うん」
3人は静かにうなずき、まるで誓うように視線を重ねた。
この日の午後、 研究室に届いた報告書。
かつて、最初に禁忌の薬の調合に関わった薬師の記録が見つかり、 副作用を和らげる安定剤の作成に希望が見え始めたという知らせだった。
──けれど、藤澤はその紙を手にしながら、小さく笑った。
「たぶん、もう……薬じゃなくても、俺は大丈夫かもしれない」
「え?」
「昨夜、ふたりがいてくれて、わかったんだ。
俺が一番欲しかったのは、処置でも治療でもなくて……ただ、受け止めてくれる誰かだったって」
その言葉に、大森と若井は、同時に笑みをこぼした。
「それならもう、俺たちが一生、傍にいる」
「俺も……お前を抱きしめる方が、全然“本気”になれる」
「……ありがと。俺、今が一番……生きてるって思える」
夕方。
風が涼しくなってきた頃、3人で見上げた空には、 まるで新しい旅立ちを祝うような、美しい夕焼けが広がっていた。
手を繋ぐでも、抱きしめ合うでもない。
ただ隣にいるだけで、心が満ちていく。
愛は、薬を超える。
この3人の“絆”こそが、
最大の“処方箋”だったのだろう。
──そしてあの夜以降、藤澤に副作用が出ることは、もうなかった。
END
コメント
6件
めちゃめちゃいいお話だった〜!! ドキってする場面もあったけどもうそれ以外は癒しと言っても過言では無い! ちょっと終わっちゃったの悲しいけどハッピーエンドだからいい!! そういえば明日体育祭なんですよ〜!!頑張ります(ง •̀_•́)ง
涼ちゃん良かったね! 主さんもお疲れ様でした✨ 毎回 必死に読んでました 言葉なのに頭の中に描写が浮かんできました(///∇///)ハズカシイ… 次も期待してます♥️💛💙
いい話すぎる…!3人ともお幸せに…! 今回のお話も主さんのワードセンスが光ってました!さすがです✨️尊敬の念です✨ そして、いつもお忙しい中での作品更新ありがとうございます!これからも頑張ってください!陰ながら応援しております!