深夜の道。
ライブ終わりの疲労と余韻を引きずったまま、若井はハンドルを握る。
 助手席にいる大森は窓の外を眺めながら、無防備に笑っていた。
さっきまでステージに立っていた男が、今こうして隣で静かに息をしている。
その事実だけで胸がざわめく。
 
 
 
 「なぁ、若井」
 「ん?」
 「退屈」
 
 
 
 唐突な言葉に横目をやると、大森が挑発的な笑みを浮かべていた。
その指先が、俺の腿にそっと置かれる。
 
 
 
 「……おい、やめろ。今運転中だろ」
 「平気だよ。若井なら事故らないよ」
 
 
 
 軽口を叩きながら、指先は布越しに内側へと進む。
呼吸が一瞬で乱れた。
ハンドルを握る手に力がこもり、心臓が速く打ち始める。
 
 
 
 「……元貴、マジでふざけんな」
 「ふざけてないよ。ちょっと、欲しくなっただけ。」
 
 
 
 その声は熱を含み、吐息が混ざっている。
耳にかかるだけで理性が揺らぐ。
布越しに触れられた瞬間、思わず喉から掠れ声が漏れた。
 
 
 
 「っ……く……」
 「……はぁ、やっぱ反応してる」
 
 
 
 吐息が甘く、わざとらしく耳元にかけられる。
ブレーキを踏みそうになるほど、全身が熱を帯びていく。
 
 
 
 「……元貴……ほんとやめろ、事故る……」
 「じゃあ、どっか早く止めろよ」
 
 
 
 その囁きに耐えきれず、若井はウィンカーを出して脇道へ車を寄せた。
街灯が一本だけ遠くで光っているが、ここなら誰にも見られない。
 ギアをパーキングに入れ、エンジンを切る。
途端に静寂が訪れ、心臓の音と吐息だけが車内に満ちた。
 
 
 
 「……我慢できなかった?」
 「……お前が煽るからだろ……」
 「ふふ、いいよ。任せて」
 
 
 
 シートベルトを外し、大森が身体を寄せる。
暗闇で光る瞳が、甘く、どこか意地悪い。
 次の瞬間、下に触れる温もりが布越しから直に変わった。
 
 
 
 「……っ……ぁ……!」
 
 
 
 頭がのけぞり、荒い吐息が漏れる。
舌が這い、唇が絡み、熱が奪われていく。
 
 
 
 「ん……っ、はぁ……若井、すごい……ビクビクしてる……」
 
 
 
 下から響く声が背筋を痺れさせる。
大森の頭を掴み、堪えきれず指が震えた。
 車内に濡れた音と吐息が混ざり合い、ガラスはみるみる曇っていく。
シートがわずかに揺れ、狭い空間が背徳で満たされる。
 
 
 
 「……っ、はぁ……もう……無理、イく……」
 「いいよ……全部、口に…出して」
 
 
 
 その一言で理性が砕け散る。
痙攣するように全身が震え、吐息と声が夜を裂いた。
 荒い呼吸を繰り返し、シートに沈み込む。
大森は口元を拭い、無邪気に笑った。
 
 
 
 「……なぁ、これで終わりだと思った?」
 
 
 
 挑発の一言が、再び胸を灼く。
 
 
 
 
 
コメント
1件
尊い…。 私、この世に生きててよかったわ…!(マジで) いつも素敵なお話ありがとうございます🙏 次のお話も楽しみにしています!