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__目覚めたのは真っ白な部屋の中だった。
僕の他にざっと数えて10人以上が居るようだ。
彼らもまた次々に身体を起こしては、見知らぬ白い部屋に状況の把握が遅れている。
「サラダ油、サラダ油!」
隣から低い声が聞こえてくる。
「おい、」
グイッと袖を引っ張られるとやっとその呼び声が僕に対してなんだと理解した。
「えっと…僕ですか…?」
「ここ、名前書いてある」
彼の指さす方を見ると、どうやら二の腕あたりに生徒会が付けていそうな赤いタスキがクリップで止められていた。そしてそこには黒文字で『サラダ油』と書かれている。
彼にもまた色違いの青色のタスキが掛けられていた。見てみると書かれているのは『絆』。
これは一体何を意味しているんだろうか。
ふと他の人のタスキを見てみると、どうやら色つきなのは僕と彼ともう1人、近くでまだ倒れている彼女のみであることがわかった。
他の視覚的にわかることといえば、皆制服または私服であること。見る感じ全員年齢が近いということだけである。知り合いは誰もいない。
その後、皆がようやく目を覚ましたところでアナウンスがスピーカーから流れ出した。
『この度はお集まり頂きありがとうございます。今から皆様には、一日一回訪れる“来館者”の恋愛相談を解決してもらいたいと思います。』
辺りがザワつく。
『解決にはどんな手段を使っても構いません。しかし12時間以内に“来館者”の相談を解決出来なかった場合、罰として深夜零時に“二重人格者”がどなたか一人を襲撃致します。また、皆様の各部屋にある“大事なノート”への違反行為は強制処刑の対象とします。』
襲撃、処刑。それらの人の恐怖を煽る言葉に皆顔を青く染めている。
『48時間に一度、“二重人格者”を処刑する討論が行われます。時間になりましたらここへお集まりください。次に役職についてです。これから皆様はこの館の“住人”になってもらいます。そして赤色のタスキは“管理人”青色のタスキは“副管理人”です。“二重人格者”の存在は現在誰も知りません。』
僕は自分の腕に掛かったタスキに目をやった。
色は赤色。
僕と同じように周りの皆も同じように自分のタスキの色を確認している。
『タスキに書かれてある文字は皆様の部屋番号と名前です。本名を明かせば違反となります。
それでは皆様、次のアナウンスでお待ちしております。』
そこでアナウンスの音はパタリと消えた。
突然の出来事に皆困惑し、泣き始める子もいた。
「ここ何処なの…帰りたいよぉ」
そう言ったのは幼い顔の低身長男子『なる』だった。
「だ、大丈夫ですよ。すぐお家帰れますから…」
「ほ、ほんと?」
「……」
『ピアニカ』はなるを慰めるもすぐに黙り込んでしまった。
「ねぇ、なんで何も言ってくれないの???
本当は家帰れないんだよね。ピアニカさん!!どうしてくれんさ!!」
「お、落ち着いて!!」
なるが狂ったようにピアニカの首に手を掛ける。そんな状況を『玲央』が慌てて止めようとするが、なるは剥がされても再度ピアニカの首を絞めようとしてくる。
「なんで止めんのさ!!ママに会えないなら共に逝こうよ!!」
「う………うぅ……!」
(やばい、このままじゃ本当にピアニカが死ぬ……!)
「お前ほんとにやめろ!!マジで死んだらどうすんだよ!」
僕が動けずにいる中、先程まで隣にいたはずの絆がなるとピアニカの間に入って無理やり止めさせた。
「なんで?皆してそんな顔しないでしょ…僕が悪いことしたみたいじゃん…」
「突然のことで混乱してるのはわかる。だけど人に当たるのはだめだろ」
「じゃぁどうすればいいんだよ!!」
なるは勢いに任せて目の前にいる絆に殴りかかった。
「_ッ!」
『ナンバー11、“大事なノート”への違反により処刑が決定しました。管理人・副管理人は一時間以内に処刑を行ってください。』
突如流れたアナウンスを聞いて皆が一斉に動揺しだす。
「しょ…けい…?」
「だってサラダ油、どうする?」
「待って、処刑ってなに!なんでそんなすぐ受け入れられるの!?」
「だってこのまま何もしないで時間過ぎたら俺らが処刑されるかもしれないだろ?」
「確かに…」
もう一人の副管理人、『ゆき』が言った。
周りの皆の視線が痛いほど伝わってくる。
なんで皆はこの状況をすんなり受け入れられるのか、僕には理解が出来なかった。こんなの我々をここへ連れてきた“誰か”の遊びに決まってる。
「僕には、そんなこと出来ない」
僕の放った言葉に絆は顔に影を落とす。
「じゃぁ、俺とゆきがやる」
「や、やめようよ。僕らは騙されてるだけだよ」
「これ、残念だけど本当だよ」
そう言ったのは窓の外に視線を向けているガングロ男子『ベインズ』だ。
「ニュースで見たことある。高校生大学生が一日に数人行方不明になるの。見た感じみんな同年代っぽいからきっとそれなんじゃないかな。ほら、外森だし」
ベインズは淡々と置かれている状況を説明した。
その間にもなるはずっと泣いていたが、命乞いのように言葉を口にした。
「う、嘘だよ。だって、殺したら犯罪者だよ?」
「ここに“犯罪”なんて概念ないと思う」
ベインズは冷たくなるに言う。完全にこの状況を受け入れているようだ。
「ゆきは出来るよな?」
絆はゆきに向かってそう言うが、ゆきの肩は震えていた。
「無理ならみんなのところ居な、俺がやる」
「待って絆!!駄目!!」
「サラダ油は死にたいの?俺はベインズの言う通りだと思う。だからやる」
部屋の端に並べられたたくさんの武器の中から絆はナイフを手に取るとなるのもとへ歩いた。
どうやら絆は本気のようだ。
「や……やめて……!」
「なる、ごめんな」
____________ッ!!!!!
白い部屋に赤黒さが混じり、返り血が絆の制服を汚す。女子は悲鳴をあげ、男子は顔を引きつっている。
なるの高い叫び声はだんだん掠れていき、身体はピクピクと痙攣し、そして無に帰った。
(本当に……殺、した。)
僕はその場に崩れ落ちた。
するとだんだん視界が薄れて微かに血の匂いが漂う床に倒れ込んでしまった___。
そうだ。これはきっと悪い夢なんだ。
____意識が途切れるまではそう思っていた。