テラーノベル
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「未回答の部屋」
🧣🌵
※この話はnmmnです。界隈のマナーやルールに則った閲覧をお願いいたします。
※ありとあらゆるものを捏造しているのでヤバいと思ったら逃げてください。薄目で見ていただけると幸いです。
異能パロ。いわゆる○○国とかそういう感じのアレ
文化レベルは、異能力者がいるし、魔物とか化け物がいるけど電気はある〜みたいななんちゃってご都合ファンタジーだと思っていただけると…
1:出会い
この世界には特殊な能力、異能を持って生まれてくる人間がいる。俺、ぐちつぼもそうだ。
回復とか転移とか、便利で人の役に立つ能力がある中で、俺に宿った能力は「棘」だ。ものすごく鋭い棘を矢のような速さで狙った場所に撃ち込むことができる。ただそれだけだ。
正直、ハズレどころか普通に生きるなら不必要な異能だった。人に撃てば大怪我だし、だからって物に撃ち込んでも少ししたら棘は消えちまう。壁にポスターを固定するのにすら使えない。画鋲のほうがまだマシだ。
……初めて発動したのはガキの頃、学校の友達の前でだった。泣き叫ぶ声と恐怖の表情、今もハッキリと目に残っている。
だから俺はこの異能を使わないようにして生きてきた。いや、無能力者なんだって言い張って隠してきた。こんな能力を持っているとわかったらまともな人間関係なんて築けない。こいつは危ないヤツなんだと思われることも、能力に溺れて誰かを支配しようとすることもどっちも嫌だった。
そのおかげか、こんな俺にも仲間が出来た。魔物ハンターという危険な仕事だったけど、6人で喧嘩や罵倒をしながら同じ目標に向けて殴り合う関係は心底楽しかった。
だからこそ俺は俺が許せなかった。
*
その日は急にやってきた。
朝起きて、着替えて背伸びをした瞬間に壁に何かが突き刺さった。……白い棘だった。
久しぶりに見たから状況が飲み込めなかった。気づいたら俺の両手から何本も太い棘が飛び出していた。叫んだらまたそれは部屋のあちこちに飛び散って矢のように突き刺さった。
そして物が壊れる音と俺の悲鳴を聞きつけた奴がドアを開けて────
……俺は今、暗い森の中を歩いていた。
あのあと俺は仲間の元から衝動的に逃げ出した。何も持たずに逃げて逃げて、いつの間にか日が暮れていた。
仲間の怒号が今も耳に残っている。ガキの頃のあの事件と一緒だ。
同じトゲ仲間だからってなんとなくサボテンに親近感を覚えてたけど、もしサボテンに意思があったらこんな気分なんだろうな。こんな身体じゃ誰にも近寄れない。弁解も仲直りもできねぇ。
もしかしたら、アイツらには言ってもよかったのかもしれない。俺の異能について白状したほうがマシだったのかもしれない。
でも俺はそうはしなかった。隠して逃げて、20年以上の自制の結果がこれだった。
絶望で行き場を失った俺は国境の先の森に逃げ込んだ。神隠しにあうとか言われて人が寄り付かない深い森だ。自分の行く末について自問自答して、そして……結末を決めてしまうにはうってつけの場所だった。
木々は鬱蒼と覆い茂り、日が完全に落ちてしまうと前も後ろも闇に包まれて足元すらほとんど見えなくなった。
急に俺は心細くなってきた。どうなってもいい、関係も責任もすべてを投げ捨てて逃げてきたのに、いざ選択を迫られると恐怖が勝つもんなんだな。
闇の中を手探りで歩く俺の目に、遠くで薄っすらと光るなにかが見えた。人工的な明かりじゃない。その光を頼りに近づいてみると、急に森が開けて山小屋が一軒あった。天窓が月の光を反射して光っていたらしい。
その瞬間、突然何かがガサガサと動き回る音がした。
「ワ゛ア゛ァァァッ?!」
叫んだ瞬間、手から棘が音のした方に鋭く飛んだ。ピャァッ!という声と蹄の音。逃げていくシカの姿が月明かりで薄っすらと見えた。
俺はホッとすると同時に怖くなった。こんなことでも暴発してしまうんだ。
正面の小屋は闇の中では廃屋にしか見えない。正直、お化け屋敷のようでマジで怖い。でもこのまま何がいるかわからない闇の中で過ごすよりは、それで急に何かを傷つけてしまうよりは、廃屋でもなんでも中に逃げ込んだほうがいいと思った。俺は、もう人に会っちゃいけないんだ。
覚悟を決めて黒いドアノブに手を伸ばした。頼むからお化けだけは勘弁してくれ!
古びた外観に似つかわしくない重そうなドアは、意外にも簡単に開いた。
「すいません、誰かいるか……?」
小屋の中の様子をうかがっても人の気配はなかった。ダメ元でスイッチを探すとなんと電気がついた。白熱灯に照らされる、大して広くない室内には安そうなソファーとテーブル、奥の方にベッドがあるだけだ。壁には棚があって、文房具やよくわからないガラクタがごそっと置いてある。
トイレやシャワールームも覗いてみたけど誰もいない。流し台とコンロには蜘蛛の巣が張っていて、積み重ねられた食器にはうっすらホコリが積もっている。だいたい全部見た最後に、変なものが入ってないことを願って冷蔵庫とクローゼットを開けてみたけど幸いにも空っぽだった。
生活感がなさすぎる。森で迷う人とかいそうだし、避難小屋かなんかなのか?
「なんでもいい、もう疲れた……」
俺は部屋の真ん中の茶色いソファーに腰掛けた。どっと疲れが押し寄せてきて、これからどうしようとか不法侵入だなとか考える暇もなく俺は眠ってしまった。
*
コンコン、となにかの音がして俺はふと目が覚めた。風で枝とかが当たる音だろうか。微睡みに戻りかけた瞬間、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
ノックの音だ!?と俺が気づいた頃には知らない男が小屋の中に入ってきていた。
「あの~すいません、ここ……」
「うッ、わ゛ァァァァ!!!?」
誰もいるはずのない暗い森、そして逃げ場のない閉鎖空間に予期せぬ訪問客が来たことで俺はパニックになった。叫んだ瞬間、今までにないくらい巨大な棘が放たれて、
「あ、ッ」
侵入者の頭と胸に突き刺さった。
「……へ?嘘、だ、そんなっ」
俺が間抜けな声を上げる間に、侵入者は閉じたドアに背中を預け、その場にずるずると崩れ落ちた。とんでもなく太い棘が頭を抉り、胸の真ん中を刺し貫いている。顔が半分無くなった身体はピクリとも動かない。どう見ても死んでる。
────殺してしまった。ついに、人を殺してしまった。
内臓を直接掴まれたような吐き気が襲ってくる。たぶん瞳孔が開いているんだろう、世界が真っ白く色飛びしている。
今までなんとか抑えてきたのに。もう誰も傷つけたくないから逃げてきたのに。こんなところで知らない人を殺してしまった。
逃げる、駆け寄る、なにかをしようにも足がしびれて俺はまたもつれるようにソファーに倒れ込んだ。身体に全然力が入らない。能力が暴発したせいか、尋常じゃなく眠い。
脳がシャットダウンしようとしている。抗おうとする努力も虚しく、俺は再び気絶するように眠りに落ちてしまった。
*
ひどい夢を見た。これが夢だとわかっている悪夢ほどひどいものなんてない。
近寄る人全員が俺の棘で死んでいく。棘だらけの死体は本当にサボテンのようだった。俺は死体の山の上で殺したくない!とただ泣き叫んでいた。
たくさんいた人間をだいたい殺しきったら最後に異形の怪物が立ちふさがった。そいつは強く、殺すのが嫌なのに殺されそうになって俺は焦った。
殺さなきゃ、と焦ったんだ。誰も殺したくなくて逃げてきたはずなのに。
怪物の手が伸びてくる。冷たい手が首にかかった瞬間、目が覚めた。
俺はしばらくここがどこなのか理解できなかった。いつもの自室の白い天井じゃなくて、木の板が並んだ高い天井。四角い天窓からは白む空が見えている。
そういえばこんな小屋に逃げ込んだんだ。そして、人を……
「……そうだった、クソッ」
現実も悪夢みたいなものだった。身体を起こそうとして俺は自分が寝ているのがソファーではなくベッドなことに気づいた。いつの間に?
「あ、起きた?おはよう~」
知らない声が聞こえて全身がこわばった。
昨日殺したはずの男がニコニコ笑って横に立っていた。
「ア゛ーーーッ?!」
反射的に叫んだ途端、また放たれた太い棘が男の目にぶっ刺さった。身体がぐらりと大きく揺れたが、倒れることはなく踏ん張って体勢を立て直している。
「うわびっくりした」
そんなことを言いながら棘を引っこ抜いている。まるで逆再生でもするかのように一瞬で青色の目が復活した。びっくりしたのはこっちの方だ。俺が声も出せないくらい震えているのに気づき、男は大げさに手を広げてみせた。
「驚いたよ、道に迷っちゃってさ、やっと明かりが見えたー!と思ったらいきなり殺されるんだから」
「ッ、は、はは、なんなんだテメェ!?殺した、はず、じゃ……」
明るい声色が逆に恐ろしい。得体のしれないものと相対している恐怖で俺はベッドから体を起こしたままジリジリと距離を取った。
男は紺色の短髪で、深い海のような青い目をしていた。青い上着とニット帽、冬でもないのに首には赤いマフラーを巻いている。
殺したはずなのに生きていることを除けば普通の人間だ。人懐っこそうな目を見ているとつい気を許してしまいそうになる。それを知ってか知らずか男はへにゃりと微笑んだ。
「そうだね、殺されたね」
「なんなんだよテメェっ!!」
「俺?大丈夫大丈夫、俺は通りすがりの死なない一般人だよ」
「いや何だよその一般人」
「本当だよ、ちょっと「不死」の能力があるんだよね」
「ふ、不死?はぁ?!」
「だって死んでないでしょ?じゃあお前は?俺をいきなり殺した一般人くん?」
揶揄するように言われて俺は言葉に詰まった。こいつは間違いなく異能者だ。殺したはずなのに誰も殺してなかったことに俺は思わず安堵した。
……もし、入ってきたのが違う人だったら。俺は今頃どうなっていたんだろう。血まみれの部屋で一人、どうしていたんだろう。恐ろしい考えが脳を横切る。
黙ってしまった俺を見かねたのか、男はベッドに腰掛けてきた。
「なにがあったの?」
ひび割れた心に入り込むような、優しい声だった。同じ目線で見た男の表情はとても優しげで、俺はつい話しだしてしまった。
多分、自分でも思っているよりずっと精神が参っていたんだと思う。
「昔からあったんだよ、この能力。わかってた、でも使わないようにしてた。使い所ないしな、こんなの。誰かを刺すだけで」
「うん」
「でも急に、自分じゃ制御できなくなって……抑えようとしたのに、みんなを傷つけたくなくて、なのに俺ッ」
「やっちゃったの?」
「…………」
「そっか」
同情しすぎない、温度のない相槌が逆にありがたかった。
俺を見た仲間たちの顔が忘れられない。失望したような、化け物を見るような、今までに見たことのない感情の目。
無能力者だって嘘もバレた。そんな嘘をずっとついてたってことがバレた。能力がなくたってぐちさんにできることはいっぱいあるよ、とか励ましてくれた仲間の声が胸に痛い。
崩れることなどないと思っていた強い信頼を、俺の棘が壊しちまった。なにか言われるよりも早く、……怪我の手当をすることもなく、俺は衝動的に逃げ出したんだ。
「だからもう、誰にも会いたくない。会わなけりゃ傷つけることもねぇし、俺はこのまま……し、死んだっていいって」
言葉にすると押し殺していた胸の痛みが込み上げてきた。目の奥がひどく熱い。視界がゆらゆら滲む。
「怖かったんだね、誰かを殺しちゃうのが」
ぽん、と頭に手が置かれた。その瞬間涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「死んでもいい」という言葉の裏にはその何倍もの「死にたくない」が潜んでいる。あきれるほどの生への執着を自分の言葉で否定して、殺していくから余計に胸が痛い。
本当は死にたくない。でもどうしたらいいかわからない。いくら考えても答えは出なくて、答えが出せないことが一番怖かった。
まるで子供のように目が溶けるぐらい泣いて泣いて、泣き止むまで男は俺の頭を撫でてくれた。
あいつらにぬるま湯のように許されるのも、二度と顔を見せるなと突き放されるのも全部怖い。だから何も事情を知らないこいつの慰めが本当に胸にしみた。
「手伝ってあげようか?」
突然かけられた言葉の意味がわからなくて俺はクシャクシャの目で男を見た。
「な、なにをだよ」
「だから、力を制御する練習だよ。教えるのうまいよ~、絶対に死なないし」
「…………」
「そっか、心臓ぶち抜かれて頭えぐられた程度じゃ説得力ないか」
驚きのあまり言葉を続けられなかった俺を見て、男は困ったように頭を掻く。違う、そういうことが言いたいんじゃない。ていうかサラッととんでもないこと言ってないか?
「いやあの、本当、なのか?」
「うんうまいよ、我ながら」
「そっちじゃなくてその、本当に死なない……のか?」
「死なないよ」
まだ疑ってる?とか言って男は自分の心臓のあたりを指差してみせた。そんなことをしなくても昨夜の惨状が目に浮かぶ。あんな状態になったのにケロッとしている時点で信じるしかない。
「なら……」
「その代わり、ここにいてね。外に出たらダメだよ」
「えっ」
予想外のことを言われて俺は固まった。こいつの目は微笑んでるような、なにも感じていないような、底が見えない深海のようで真意が読みにくい。俺が戸惑っているのに気づいて男は苦笑した。
「力を制御できるようになるまではね。この家ちょうど良さそうだし、ここで匿ってあげるよ」
「匿う……」
「暴発するのに外に出たら危ないでしょ?だから人間から逃げてきたんだよね?」
こんな会話の最中でも突然放たれた棘が男の肩に深々と突き刺さった。俺は黙るしかなかった。
確かに、外に出て誰かに会ったら?探しに来た仲間に出くわしたら?こんなんじゃどんな顔をしたらいいかわからない。
そうだ、仲間のもとに戻るのはせめて完璧に制御できるようになってからだ!そうでもしないと俺は自分を許せない。……あんな形で逃げ出した俺をまた受け入れてくれるのなら、だけど。
「決まった?」
「ああ」
「名前、なんていうの?」
「……ぐちつぼ」
「ふぅん、俺はらっだぁ。よろしくね、ぐちつぼ」
白い手が俺の前に差し出された。傷つける不安、信じていいのかわからない不安、俺はどうしてもその手を掴めなかった。
迷ってるとらっだぁはつまらなそうに手を引っ込めた。
逃げ出してきた俺と、死なない人間との奇妙な生活の始まりだった。
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寺に上がってる中で最も長い話になりそう。オチまでの道筋は立っているのでボチボチ書いていこうと思います。
こういうパロ系のやつ初めて書くし、あまり明るくないのでスベってないことをハラハラ祈ってます🙏
コメント
5件
書き方がめちゃめちゃ好きです !!! 見てる途中涙出てきましたありがとうございます …… 続き楽しみにしています 〜 !
異能力パロだ!!!!!! ありがとうございますこういうの大好きですぅぅぅ… 更新楽しみにしてます!