昔、まだあのクソみたいな村にいた頃だ
「君、お腹空いてるの?」
「、あ?」
腹が空いた為、適当にゴミ箱から残飯を漁っていると、俺より小せぇ女がそう問いかけた
「良かったらこれ、あげる」
女は自分の食料であろう握り飯を俺に差し出した
「、いらねぇ。毒とか入ってたら嫌だから」
前に同じように握り飯をくれた奴がいた
しかしそれには毒が入っていた為、人から貰う物はなるべく受け取らないようにしている
「、そう」
女はそう言うと、握り飯を一欠片自分の口に入れた
予想外の行動に、俺は思わず目を見開いた
女は咀嚼し飲み込むと、再び俺に差し出した
「毒、入ってないでしょ」
「!、、」
無表情で女はそう言い、俺は渋々握り飯を受け取り口に入れた
程良い塩加減に固くない柔らかい米、全てが美味く感じた
女は俺の隣に腰掛け、地面に絵を描いていた
「、お前、良いのかよ。」
「なにが?」
「なにがって、気持ち悪ぃだろ。俺のこの格好」
老人のような白髪でもない銀髪、血のように赤い目
親からは悪魔や鬼、村の連中からは気色が悪いと石を投げられる
何故そんな奴に、情けをかけるのか
どうせ偽善か好奇心だろう。ガキが珍しい虫を見つけて飼育するのと同じだ
「別に。それに、似た物同士とは仲良くしたかったから」
「似た物同士?」
俺がそう繰り返すと、女は右側に掛かっていた前髪を上げた
そこには右目を覆うような痣があった
「これのせいで、親は私と目を合わせなくなったし、村の人達からも避けられている」
君と一緒でしょ。と、女は俺の方を見ながら微笑んだ
変な奴。しかし、それと同時に興味が出た
それをきっかけに、俺達はほぼ毎日一緒に行動していた
アイツは地頭が良かった。だから、ある程度の文字や計算は理解出来た
アイツは何考えてんのかいつも分からない。けど、誰よりも優しいのは確実だ
俺はそんなアイツに、幼いながらも惹かれていた
そんなある日だ。その時は突然来た
「おい!ソイツに触んじゃねぇよ!」
いつもの集合場所にアイツが来ないのを変に思い、俺は村中を探し回っていた
そして、川敷の近くで見知った背中を見つけ駆け寄ろうとした瞬間
野郎二人が、アイツを縄で拘束したのだ
俺は頭に血が上り、すぐさまアイツの元に駆け寄った
「おい!早く逃げるぞ!」
俺はアイツの腕を掴み、その場から逃げようとした
しかし
「触らないで。汚い悪魔」
「、は、?」
アイツは俺の手から抜け出し、今まで聞いた事のないような冷たい声でそう言った
信じていた物が全て崩れ去っていくような、変な虚無感が頭を走り、 俺は思わず叫んだ
お前も連中と同じだったのか。俺を殺したいから近づいたのか。
否定して欲しかった。全部、夢であって欲しかった
しかし、アイツから出たのはYesの答え
俺には興味も、何の感情もなかった
俺が感じていたのは、この気持ちも全て幻に過ぎないと
俺は膝から崩れ落ちた
「それじゃあ、元気でね」
最後のアイツの顔は、まるで離れたくないと言わんばかりに今にも泣きそうな顔だった
なんで、お前がそんな苦しそうなんだ
お前は嘘が下手くそなんだよ。言ってる間も泣きそうな顔しやがって
勝手に、俺の側から離れてんじゃねぇよ
「、やっと見つけたんだ。今更離してやったりなんてしねぇ」
閉じていた瞼を開き、俺は神楽用に持ってきていた手拭いを持ってアイツを追いかけた
「えちょ、銀さん!?」
「新八ぃ!先帰って風呂沸かしとけ!」
俺は新八にそう言い残し、その場を去った
______
「、はぁ、」
私は近くにあった岩に腰掛け、雨水と共に緩やかに流れる川を見つめた
咄嗟に逃げてしまった
怖かった、過去と向き合うのが、あの子と向き合うのが
きっとあの子は、私を許していないだろう
それはそうだ。私は、あの子の気持ちを裏切ってしまったのだから
「、バカだ、私は」
いつも何かからも逃げて、あの子から向き合う事すらも逃げて
雨水が頬を伝い、最早涙かどうかなんて分からない
今まで蓋をしていた感情が一気に溢れ出し、止まる事を知らない
「バカで、最低で、何も、できないっ、」
血が出る程強く拳を握りしめ、己の情けさに怒りをぶつけるように言葉を紡ぐ
その時
「よぉねぇちゃん。今暇?」
「、!」
激しく身体に打ち付けられる雨水の感覚が無くなり、ふと上を見上げた
そこには、傘と少し濡れたふわふわの銀髪に紅い瞳があった
「あーあ、びしょ濡れじゃねぇか」
そう言うとその子、その人は私の頭に優しく手拭いを掛けた
「、どうして、」
彼は気づいているはずだ。私だと、自分に深い傷を負わせた張本人だと
「どうして、ここに来たの。前に言ったはずだ」
涙を拭い、私はじっと彼の方を見つめた
ダメだ。君は私と一緒にいちゃいけない
こんな最低な私と、君は一緒にいてはいけないんだ
「私は君に興味も、何の感情も」
私がそう言葉を紡ごうとした瞬間、彼は私の胸倉を掴んだ
バサリと落ちる手拭いと傘、そして川の水面に落ちる雨水の音が、やけに心地良く感じた
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