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朝。
アパートの廊下に、鉄の匂いがこもっている。
デンジが寝ぼけ眼で歯を磨き、パワーがその背後で騒いでいる。
「デンジ! わしの歯ブラシがないぞ! また貴様が使ったな!」
「使ってねぇって! 」
その喧騒を、ギロチンの魔人は静かに見ていた。
首筋から金属の刃が少しだけ覗いていて、動くたびに“キィ”と音が鳴る。
髪を乾かしながら、ぼそりと呟いた。
「……静か、できない?」
デンジがこちらを振り返り、気まずそうに笑う。
「わりぃなギロ子。朝からパワーが騒ぎすぎてさ」
「ギロ子言うな。……ギロチン、でいい」
「いや、名前って感じじゃねぇじゃん……道具っぽいし」
「道具、だから。……首、落とすための」
その言葉に、デンジもパワーも一瞬だけ黙った。
アキが部屋の奥から出てきて、コーヒーを淹れながらため息をつく。
「……物騒な会話は朝からやめろ」
「人間、よく喋る。喋る、頭、痛い」
「それは多分、半分脳みそがないせいだ」
「……そう。足りない。でも、静寂、ある」
ギロチンはそう言って、カップに注がれたコーヒーを見つめた。
黒い液体の中に、天井の蛍光灯がぼんやり映っている。
まるでそれが、首のない自分の“もうひとつの顔”のように見えた。
⸻
昼。
任務。デンジとパワーと共に、通りで発生した“ささいな悪魔騒ぎ”を鎮圧する。
血の匂い、刃の光、そして静寂。
悪魔の首が落ち、地面に転がる。
ギロチンはその場にしゃがみ込み、静かに首を見つめる。
「……落ちた。静か。……やっぱり、首は、きれい」
デンジが肩をすくめる。
「お前、やっぱ怖ぇよ」
「怖い? ……それ、人間の感情?」
「まぁな。普通、そういうこと言わねぇから」
「……普通、知らない。教えて」
彼女の瞳には、無垢な光があった。
それは理性を保つために必死に“学ぼうとする”悪魔の目。
アキは小さく息を吐き、煙草に火をつけた。
「……教える。その代わり、誰の首も勝手に落とすな」
「……約束、する。……静かに、生きる」
煙の匂いと、血の匂い。
そのどちらも、彼女にとっては“日常”の香りだった。
⸻
夜。
帰り道、街灯の下でギロチンはふと立ち止まる。
自分の影が、首のない形で伸びている。
「……私の影、首、ない。……でも、生きてる」
小さく呟くと、デンジが横で笑った。
「そりゃそうだろ。首なくても、お前、ちゃんと生きてんじゃん」
「生きてる。…それ、普通?」
「まぁ、悪魔が普通の世界だしな」
後ろでパワーが缶ジュースを開け、夜空に向かって叫んだ。
「わしが一番かわいい魔人じゃあああ!」
「……うるさい」
ギロチンの魔人は、小さくそう呟いて、
夜風の中に“静寂”をひと筋、取り戻した。