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昼下がりのアパートの一室
風鈴の音が、少し遅れて廊下に響く。
テレビの前では、デンジとパワーが昼寝中。
カーテンの隙間から、うっすらと光が差していた。
冷蔵庫の前で、ギロチンはじっと立ち尽くしていた。
扉を開け、内部を覗き込みながら、
ゆっくりと喋る。
「……白い棒。あまい。冷たい。好き」
ちょうどコーヒーを淹れていたアキが振り返る。
「……アイスか? 昨日、デンジが全部食った」
ギロチンは少しの沈黙のあと、
刃のきらめく額をわずかに傾ける。
「……それ、欲しい。首、落とす、出てくる?」
アキはコーヒーカップを持ったまま目を細めた。
「お前な……。落とす前に、頼むって言うんだよ。人間は」
「……頼む?」
「そう。“欲しい”じゃなくて、“ください”。
それが、優しいやり方だ」
ギロチンはその言葉をゆっくりと繰り返した。
「……ください……」
アキは少し笑う。
「よし。じゃあ買ってきてやる。コンビニ行くから、待ってろ」
彼が玄関に向かう背を見つめながら、ギロチンはぽつりと呟いた。
「……“ください” 言うと……首は、落ちない?」
「落ちねぇよ。
代わりに、誰かが“優しく”してくれる」
その言葉に、ギロチンはほんの少しだけ、 笑う真似をした。
⸻
十分後、アキが戻ってくる。
袋からアイスを取り出し、ギロチンに手渡す。
「ほら、冷たいの好きなんだろ」
ギロチンは棒を受け取り、ゆっくりと舐めた。
冷たさが舌を刺し、
歯の間で金属がこすれるような音がかすかに鳴る。
「……冷たい。…あまい、」
アキはソファに腰を下ろしながら言った。
「それが、“人間らしい”ってことだよ。
暑いとか、冷たいとか、そういうのを“感じる”のがさ」
ギロチンはしばらく黙って、
溶けかけたアイスを見つめていた。
「……感じる、の 静かじゃ、ない」
「静かじゃなくてもいい。
静かすぎるのは……生きてない証拠だ」
ギロチンの手が、少し震えた。
半分欠けた脳の奥で、何かが熱を持って動き出す。
「……アキ。静かじゃなくても、いい?」
「ああ。お前がうるさくしても、誰も怒らねぇよ」
ギロチンは目を細めた。
まるで、金属の中に一瞬、
小さな“心”が灯ったように見えた。
「……もう一本……ください」
アキは苦笑しながら立ち上がる。
「はいはい。二本目な。ちゃんと“ください”って言えたじゃねぇか」
ギロチンはわずかに首を傾け、
刃の光を反射させながら、
「……首を落とさずに、貰えた」
と静かに呟いた。
その声は、ほんの少し――
“人間の温度”を帯びていた。