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水×青
『麻婆豆腐、それは静かな戦い』
「……さて。作るか、麻婆豆腐」
僕はエプロンをキュッと締めて、まな板の前に立った。
冷蔵庫を開けると、材料はちゃんと揃っている。豆腐、ひき肉、長ネギ、にんにく、しょうが、調味料各種。
「今日は本格的にいこう。豆板醤も甜麺醤も使う。もちろん、にんにくはチューブじゃなくて生を刻む!」
テンションは上々だ。
実は麻婆豆腐は僕の得意料理のひとつ。中華鍋こそないが、フライパンでもしっかり“うまいヤツ”を作ってみせる。
……と、その時。
「なあ、ほとけ」
「わっ、びっくりした!」
背後から声をかけてきたのは、いふだった。手には炭酸の缶ジュースを持っていて、明らかに見物モード。
「いきなり現れるなよ。心臓止まるかと思った」
「俺からしたら、お前が“豆腐に向かって話しかけてる姿”の方がびっくりだったけどな?」
「それは“気合”ってやつだよ」
いふは缶のプルタブを開けて、音を立てながら飲んだ。
「で、今日は何作ってんの?」
「麻婆豆腐だよ。ちゃんと甜麺醤と豆板醤も使う、本格派」
「ふーん……。あ、でもあれだろ? あの……辛いやつ?」
「“あれ”って雑な聞き方やめてくれない?」
僕はにんにくとしょうがを刻みながら返す。細かく、リズムよく。
「なんか、お前の作るやつ、いつも“真面目すぎて若干おとんの味”になるよな」
「どういう評価だよそれ。もっとこう、“おしゃれな中華屋”っぽくならないかな?」
「目指してんの、町中華じゃなくてチャイナバル?」
「できるなら目指したいけど、うちはIHなんだよ! 火力の限界あるから!」
ツッコミが鋭い。こっちは真剣なんだ。
刻んだにんにくとしょうがをごま油で炒め、香りが立ったらひき肉投入。ジューッといい音が響く。
「うお、急にプロ感」
「ここからが勝負なんだよ。調味料の比率次第で“家庭の味”にも“本格中華”にもなるからね」
「家庭の味でいいじゃん。なんなら“給食の味”でもいいくらいだし」
「そこに落とすな! 給食の麻婆豆腐は別のジャンルなんだよ!」
豆板醤、甜麺醤、醤油、酒、鶏ガラスープ。スプーンを使い分けて加えていく。絶妙なバランスを取りながら、木べらで混ぜる。
「てかお前、調味料の時だけやたら慎重なのなんで?」
「それが味の決め手だからだよ! 愛情とセンスと、あとちょっとの運!」
「“あとちょっとの運”で仕上げるなよ」
火を弱めて、豆腐を投入。崩れないように優しく混ぜながら、最後に水溶き片栗粉をまわしかける。
「……よし、できた」
湯気の立ち上る麻婆豆腐は、つやつやと光っていて、香りもばっちり。
僕は小さな器に取り分けて、いふに差し出した。
「ほら、試食してみてよ」
「んー……。まあ、食うけど……」
いふは一口食べて──
「……なんか、普通にうまいのが腹立つな」
「そのコメントやめてよ。素直に褒めて」
「いやだって、文句つけるつもりで見てたのに、うまいんだもん……。クソッ……バルだ、これは。中華バル……!」
「そこまで言ってくれるなら、もうちょっと素直になろうか?」
「……ありがとう、普通にうまかったです」
「うん、よくできました」
二人で笑いながら、炊きたてのご飯にその麻婆豆腐をかけて、もくもくと食べた。
やっぱり料理って、誰かに食べてもらって、笑ってもらってこそだね。
コメント
6件
いむくんその麻婆豆腐私にくれ☆
水くんが作った麻婆豆腐??...食べたいな...
麻婆豆腐…オイヒイナ いむいむ☆麻婆豆腐 食べてみたい((