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 皆様、こんにちは。芽花林檎です。今回は短編を書かせていただきます。どうぞ、ご覧ください。

コメント、感想、フォローなど歓迎しております!


注意: この小説には、暴力的な描写が含まれています。直接的に描かれてはいませんが、一部の方にとっては不快な思いをさせてしまうことが想定されます。その点、ご理解いただけた方のみ、ご覧くださいませ。

また、この小説に犯罪を助長する意図、また狂信者を称賛する意図は一切ございません。その点誤解なさらないでください。



 2026/03/15 内容を一部改変させていただきました。




 狂信者、という言葉をご存じだろうか。ある思想に極端に執着し、理性、自我を失った状態に陥ったものを指す言葉である。熱心な信者、とは全く異なる。狂信者の特徴は、常識を逸脱し、批判的思考を失っているということである。いうなれば、制御を失った機械と似ているかもしれない。

 狂信者は、はたから見えれば狂っていると思われている。でも、当人からすれば、自分がその思想こそが最上概念であり、ほかの思想はおろかで役に立たないと信じ込んでいるのである。いや、信じ込んでいるという感覚すらないかもしれない。それが唯一の真実であり、ほかに真理は存在しないと初めから常識のようにとらえているのである。狂信者になぜその思想を信じるのかと聞くのは、あなたはなぜ地動説を信じるのかと聞いていることに等しい。

 一つの思想を信じることはよいことである。自分の価値観をしっかりと構築するのはよいことだと私は強く思う。でも、極端にその思想に執着し、視界が狭くなり、ある特定の事柄だけが正しいと信じ込むのは、いかがなものだろうか。実は、情報化社会に生きる私たちに意外に起こり得てしまうことなのではないか。

 歴史の中で、そうした極端な思想の執着は幾度となく見られている。でも、自分が狂信者でないなんて、証明する手立てなどあるのだろうか……….理性を失われた状態で行動したら、どうなるかなんて、普通の人ならわかるかもしれない。でも、狂信者になってしまったら、そんなことを考える、行動を吟味するすべなんて存在するのだろうか……..




 「あなた、警察に通報しますよ!しつこいです!」私は、憤慨して、目の前にいる人に言い放った。「そうだよ!しつこいよ、貴方!早く行かせてもらえますか!?」友人も隣で叫んだ。しつこい。本当にしつこい。何度も、何度も……私は、いろんな思想を知るのは好きだが、ひとつの思想に極端に執着するのは共感できない。こんなにも理性を失うまでに思考を占領されるのは嫌だ。いやだと言っているのに……目の前にいる人は、私にこんなことばかりを言ってきた。「そうです、私たちが地獄のような天国(パラディス)へ行けるように…. ディアブル様の元へ行けるように…. 今日も祈ろうではありませんか。そのための聖なる書物(ビーベル)なのです……」どういうことなんだ。天国のような地獄(パラディス)なんて矛盾している。狂信者と熱心な信者とは違う。熱心な信者は、深い信仰心を心に宿している。でも、狂信者となれば話は違う。理性を失い、常識を逸脱し、批判的思考、寛容さを完璧に失った状態で行動している。そうなってしまえば、ディアブル様とかいう神様の操り人形でしかない……そんな人間の勧誘にのったところで、良いことは何もない……..

 「さぁ、早くご決断を。私は、貴方がたを本当の幸せへと導くためのお手伝いをさせていただいているのです。私人間は、、ディアブル様の深いご慈悲とご加護の元、守られ、生命が作られて今生かされているのであり、そのために、私たちはすべてをディアブル様へ捧げる必要があるのです。ディアブル様の貴重なお言葉をいただき、貴方がたが人生において本当の幸福を、人間としての至福を味わうために、さぁ、今すぐパラディスへ参れるように準備をいたしましょう。そのためのお誘いであり、ビーベルの紹介なのでございます。」繰り返し、その言葉を発した。その目の前にいる人は、感情が抜き取られたかのように、抜け殻だけが存在しているようだった。早くご決断を。そう言ってばかりいた。光が宿っていない瞳の奥には、淡い不気味な紫色をした、ディアブルへ従順さと、服従を誓い、ディアブルへの作られた機械的愛情と、洗脳され脳が侵された操り人形の証明になっているように思える渦が巻かれていた。

 私は、ついに怖くなり、警察へ通報した。友人も、「私、ちょっと警察の人に話けてくる!」と駆け出して行った。この人といると、頭がおかしくなる。本当に、そのディアブルが人間のすべてをつかさどる存在に思えてしまう。そして、その人のお告げということならば、理性を引き留められずに、何でもしでかしてしまいそうな気がしてならなかった。スマホを取り出し、番号を大急ぎでたたく。つながった。私は、すぐさま話し始めた。「警察ですか?今、ここに、狂信者がいて……」そう言いかけた瞬間。何かが割れる音がした。バリン。気が付けば、私のスマホが地面に落ち、画面が木っ端みじんに散っていた。そのスマホから、微かに、「どうかなさいましたか?」という警察の声が聞こえた気がしたが、スマホは間髪入れずに粉々に砕かれ、原形をとどめていなかった。狂信者は、私のほうをまっすぐ見据え、不気味な、身の毛のよだつような笑顔を浮かべて、こちらへ話しかけてきた。

 「何を、おっしゃっているのでしょうか。私は、狂信者ではありません」彼はつづけた。「私は、狂信者ではないのですよ。ただ、あなたをディアブル様のご加護の元、生かされているという自覚を持ち、ディアブル様のために動き、パラディスへと導こうとしているだけなのでございます。」そう不気味な、背筋が凍るような声を聞かされ、私は腰を抜かしてしまった。動けない。一歩もここから動けない。座り込んでしまった。逃げようにも体が言うことを聞かない。目に映るのは、狂信者のあの光がない、ただ吐き気を催すどす黒い渦が巻いた、その眼だけ……はぁ、はぁと息があらなくなる。(やめろ、来るな…..やめてくれ…….)私は切実にそう願った。「さぁ、早くご決断を。」語気を強めて、威圧しながら、狂信者は、私に言った。私は、最後の勇気を振り絞って「嫌だ。やめてくれ。お願いです……」といった。すると、狂信者の顔が、見たこともないほどに歪み、「…….ディアブル様へ反逆いたしましたね、貴方は。許されざるお方です。」狂信者は、そう私に言い放つと、骨が浮き彫りになった、皮だけの黒い手を、私のほうへゆっくりと伸ばしてきた。(やめろ、来るな。そんな、いやだ。やめてくれ、お願いだ……)声を出そうとしても、上ずってしまい、何も言うことができない……そして、その「手」は…….一気に私を空へと突き上げた。首根に狂信者の指先がしっかりと食い込んでいる。自分がどういう状況にあるのか、理解するのに数秒を要した。動けなかった。息苦しかった。狂信者の絞める力がだんだんと強くなる。視界が真っ白に染まっていく。すると、狂信者は、おもむろに、見ているだけで吐き気を催す邪悪な色をした紫色の瓶を取り出し、そのふたを開けた。その瓶を、ゆっくりと私の口元へ運んできた。「やめてくれ…….」私は、声を絞った。何とかして絞った。でも、狂信者は、私の言葉に応答しなかった。そして...体に激痛が走った。何かが腹に食い込んだ気がした。頭の奥までしびれた。げほっという低い音の咳とともに、口の中に鉄の味が広がった。激痛の中、かろうじて私は意識を保っていた。そして、邪悪な色をした瓶の中の液体を、私の口の中に突っ込んだ。その瓶の中に入っていた液体は、まるで私の脳を支配していくかのような感覚を催し、私は正気を保てなくなっていた。むせ返り、口角から、鉄の味と混じった液体が零れ、頬をしたって、地面に垂れて落ちていく。その地面に落ちた液体が、陽光を反射して不気味に光った。狂信者は、満足そうにして、私を掴む手を離した。地面に無造作に落とされた私は、意識が遠くなるのを感じた。

 「起きなさい、ディアブル様のしもべよ。」狂信者の声がした。私は、ゆっくりと立ち上がった。体はもう痛くはなかった。でも、何かに必ず服従しなければならないような感覚があった。「ディアブル様の元へ参るのです。さぁ、早くお立ちになって。」ディアブル様?あぁ、そうか、私は、ディアブル様の従順なしもべ。このお方が狂信者なんて、失礼な。このお方は、私を正しく導いてくださる使者….そうか、私はディアブル様の…….ふと水たまりに映る自分の瞳を見た。そこに光はなく、その奥には、淡い不気味な紫色をした、ディアブル様へ従順さと、服従を誓う証明といえる渦が巻いていた。

 「そこで、何をやっているんだ!!」「警察の人連れてきたよ!」突然、警察官の声と、友人の声が、続きざまに聞こえた。私は、痛みを感じていなかった。身体の奥の痛みも、口の中の鉄と液体の味も、私は何とも思わなかった。むしろ…….そう、幸せだった。あたりが黄金の光で包まれている気がした。ディアブル様へ忠誠を誓っている自分が誇らしく思えたのだ。楽しかった。頭がふわふわとする。体の中全てが、幸福感で麻痺させられていた。私は、ディアブル様のご命令に従うだけ、そのためにならなんだってする……そこに、理性が入り込む余地も、自我が入り込む余地もなかった。ただ糸で操られた人形のごとく行動した。その時使者が命令した言葉も、聞こえた音も、光景も忘却の彼方にある。だけれど、まっすぐ友人と警察官のほうへ向かったこと、警察官の顔から血の気が引いていたこと、友人が絶望と驚きが混ざったような顔をしていたことはなぜか脳裏に焼き付いている…….

 気が付けば、私の手は、「朱色」に染まっていた。私は、おもむろにあたりを見回した。濃淡の違う朱色で染められた道路と、硝子の壁。硝子に陽光が当たると、その朱色がなぜか無性に綺麗に見えた。そして……目の前に、横たわるもの。私は、残酷にほほ笑んだ。だんだんと聴覚が戻ってきた。これで、ディアブル様のご命令を一つ果たした……

「あんな輩いりませんよね、そうですよね、ディアブル様、ねぇ、ディアブル様、あははははは、あはははははは、あはははははははははははは!!!!!!」と使者がくるったように笑っていた。私は、えも言われぬ残忍な幸福感に満たされ、気分が高揚していた。私も、声を出して天に向けて笑った。そして、叫んだ。「あはははははは!….なんて楽しいんだろう。なんて、幸せなんだろう……..」



 その瞬間から、私は聞いた音も、周囲の景観も、ぼやけて何も覚えていない。

 まるで、私の記憶にフィルターがかけられたみたいに。

 でも、手の「朱色」が時間の経過とともにだんだん濃くなっていったこと、道路がだんだんと灰色から濃淡の違う朱色で染められていったことは覚えている…….



  どれほど時が過ぎたのだろうか。私は法廷に立たされていた。周りに、ディアブル様の元へと導く使者はいなかった。そして……..

 空っぽの心だけが残された私に、感覚を失った私に、思考がなくなった私に、裁判官は冷徹に言い放った。

 「主文。被告人を死刑に処す」


 判決の声が法廷に落ちた瞬間、私は何も感じなかった。

 胸の奥には、空洞だけがぽっかりと開いていた。

 恐怖も、後悔も、怒りも、どこにもなかった。

 私はゆっくりと顔を上げた。

 傍聴席の人々の視線が、針のように私に突き刺さっている。

 けれど、その痛みすら、どこか他人事のように思えた。

 ただ、無音で、白い世界が目の前に広がっていた…….





 気のせいだろうか。

 法廷を出るとき、ふと、視界の端に「あの」紫色の渦が、だれかの瞳に映った気がした。

 何かが、ゆっくりと、静かに――笑った気がした。



                                     2026/03/12 芽花林檎

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