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「なぁなぁ、矢千ってどこに住んでんの?」

「何でそんなこと言わなきゃいけないわけ」

「心配しなくても押しかけたりしないし。お前はほんとにクソ真面目だな。こういう時はテキトーに返せよ」

「テキトー。じゃあ、東京駅の中」

「バレる嘘はやめろ」

だんだん、矢千という人間が分かってきた。最初は声を聞くことを目標に、彼の人柄を引きずり出す為の質問を多数用意して隣の席に座った。

彼はひとり暮らしをしている。一度冗談で、もしかして天涯孤独ってやつ? と訊いたら変な間が空いたので、もう訊かないことにした。

肉より魚。

質より量。

恋愛より、勉強。

周りが恋人作りに躍起になって飲み会に参加してる中、矢千はさっさと家に帰っていた。

「お前もたまに妄想したりしないの? エロ本見たり、AV借りてシコッたり」

矢千が大人びているせいだと思うが、彼といるとこちらの精神年齢が極端に下がる。ガキっぽい発言で気を引こうとしてしまう、自分がすごく惨めに思えた。最近はすごく頭が痛い。

「AV……高科は好きなんだ」

「好きっていうか、自然だろ」

「俺は全然。あんまりたまらない方みたいなんだよね。あと、恋愛観もさっぱりわからない。しなきゃいけないもんでもないし……、重要性がないよ」

それを聞いた時、あ、こいつとはないな、って素直に思った。

退屈で情強なこいつの価値観をぶち壊さない限り、絶対恋愛には発展しない。

どうでもいいけど、もし自分が彼を変えられたら……それはそれで面白いかもな。

「俺の親父さ、最近面白い事業始めたんだよ。男同士の恋愛トラブルを専門に扱う相談事務所みたいな」

「へぇ! 面白そう」

何故かそれには異様に食いつき、矢千は目を輝かせた。意外だ。そんなに興味があるなら、就活に失敗したとき呼んでやるか。矢千を部下としてこき使うのも面白そうだ。

「誰かの助けになることは良いよね。どんな形でも

「あー……慈善団体ならな。親父はモロ利益の為だから」

「お父さんのこと尊敬してる?」

「わかんない。感謝はしてるけど」

夕焼け色に染まった川沿いを二人で歩いた。肩を竦めて笑う高科に、矢千は首を振って答える。


「感謝してればそれだけで充分だよ。よっぽどの事情がない限り、家族は大切にしないとだめだ。いつ居なくなるのか誰にも分からないから」


多分……あの時の矢千が一番自分の意見を主張していただろう。教授にも同級生にも見せない顔。それを自分にだけ見せてくれたことに、何らかの感動を覚えた。

恋愛の重要性なんて俺も知らない。したかったら勝手にして、したくなかったら死ぬまで童貞を守ればいい。気の済むまで独りでいればいい。

それを蔑むような奴がいたら、お前を馬鹿にする奴がいたら、俺がボコボコにするよ。そう言ったら、矢千は笑って「いいね、それ」と答えた。冗談だって分かってるけど、ふざけたかったんだ。俺も、彼も。





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