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「随分閑散としていますね」
「フリーマーケットアプリが普及したせいですよ」
「…?」
「バーコードひとつで値段がつくような時代になったから鑑定士は必要なくなったんです…便利でしょう?あれ」
しばらく眺めていると、依頼人の目が泳いだ。
「申し上げにくいんですが、この鏡も最初はフリマアプリに出したんです」
ああ、なるほど。そういう手合いは慣れているから大丈夫だ。
「ダメじゃないですか」
布越しに鏡に触れながら、坂沼は大袈裟に依頼人をたしなめた。
「鑑定書がないと信用が無いと思われますよ?」
「…はい、すみません」
(イジワル!)と依頼者の背後からしかめ面を向けるヨミカは無視した。
これは洗脳じゃない、教授だ。フリマアプリがある限り、生身の鑑定士に未来はない。これはオンラインとの戦争、嘘も方便だ。・・とはいえ。鏡は慎重に見ないとな。坂沼は片眼鏡を取り出して左目にかざした。瞬間、鏡が妖艶な光を放つと同時に。鏡を持つ右手が布越しだというのに、焼けるように熱くなった。これは金属の熱なんかじゃない。・・“当たり“だな。
「これは『雲外鏡』(ウンガイキョウ)ですね」
「はぁ」
初めて聞いたらしく、依頼人は顔を歪めて頷くというおかしな動作をした。当然だろう。『ここ』が“そういう場所“だということは門外不出と一族の掟で定められているのだから。・・しかし。坂沼はもう一度鏡を見た。こいつは本当に雲外鏡なんだろうか?
「お客さん」
「はい」
「一日、この鏡を預からせていただきたいのですが、よろしいですか?担保としてうちの助手をそちらに向かわせるので」
「人質じゃん!!」
ヨミカの悲痛な叫び。
「担保ってなんよさ!?いつから貸し付け銀行になったのよ!あたしはイヤなの!!」
キーキー叫んでいるヨミカを無視し、坂沼はしっかりと依頼客をみた。鑑定依頼者の性別や住所は聞かないのが鑑定士坂沼一族の決まりだ。だから、自伝には書けない。依頼者は太い眉毛を吊り上げると笑った。何か変なことでもあっただろうか?
「いえいえ、タダで差し上げますよ」
「タダ…?」
「勿論ですとも。それに」
そういうと、依頼客は分厚く膨らんだ封筒を取り出した。
「鏡を受け取ってくれたら礼金も支払おうと思っていたんですよ」
ーーやっぱりな。いわくつきか、例の『呪われた品』かなんかだな。この鏡。