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そういえば、私はしっかり、アルバの実力を知らなかった気がする。
(自分の護衛なのに、これでいいのかなあって所はあるんだけど……プハロス団長の娘だから、強いって、あの場のノリでお願いします。って言っちゃったんだよな……)
もの凄く懐かしいことを思い出しながら、私はそこら辺にあった木の株に座って、二人を眺めていた。
騎士団の団長であるプハロス団長の娘。それが、アルバ・シハーブ。だから、私はアルバは強いって、守ってくれる、私の護衛に値するって決めた。勿論、話しやすい女の子って言うのもあったんだけど、それよりも、強そうだからって言うのは理由の一つだった。けれど、思えば、彼女の実力を何も知らなかったのだ。
女性だから、筋力量は男性よりも劣るし、そういう所をどうやってカバーしているのかとか、それを同翁って何を生かしているんだとか考えた。よく、アニメとか漫画ではそこまで気にしなくても良いところが気になってしまうタイプで、それは物理的に考えて可笑しいだろッていう描写があるたびに、がみがみ言っていたあの頃を思い出した。
未だに、私はオタクだと思っているし、此の世界がゲームだという認識が抜けないでいる。でも、目の前で繰り広げられているこの世界は、紛れもなく本物。そして、本物の世界で、息をして、魔法やら剣やらをこの目で見て、納得しているのだ。アニメやゲームみたいに、簡単に剣が振れないこととか、魔法も使うのにタメがいったり、気力がいったりと魔法を一口に使うといっても難しいものだった。
だからこそ、アルバの実力をこの目で見なければと言う使命感にかられた。
「負けても文句言わないで下さいよ。レイ卿」
「どっちがだよ。主人の前で無様な姿さらすことになるかも知れねえ奴が、何言ってんだ」
(うわ~本当に、アルベドって煽るよね……)
お互いに剣を構えて向き合い、そんなことを互いに口にしあっていた。
アルバはそこまで口は悪くないけれど、完全に勝ちに行く気でいるみたいだし、対するアルベドは、もの凄く余裕そうなかおをしていた。
アルベドは、魔法は凄いって言うのは分かっているし、ナイフさばきも一級品だって分かっているんだけど、剣を使うイメージがなかった。剣を使ったところを見たことがあるのは、あのラヴァインとの戦いだったか。でも、あれは、魔法で創り出した闇の剣で……
見る限り、今回は普通の剣を使っているようだけど、アルベドの剣術はいかほどのものなのかも気になった。気になることが多すぎて、頭がオーバーヒートしかけているが、そんな場合ではないと。
(魔法を付与せずに、アルベドはどんな風に動くんだろう……)
風魔法を自分に付与していたからこそ、あれ程身軽に動けたのだとすれば、今回のルール、魔法を使わずに、自分の剣術だけで戦う……というのは、かなりアルベドも不利なんじゃ無いかと思った。これまでアルベドの戦いを見てきて、彼が毎回、風魔法を付与していることは目に見えて分かるようになってきたし……
(分析、出来るようになったのは良いけど……何というか)
そんなことを思っていると、二人の間で試合のゴングが鳴った。
先に動き出したのは、アルバの方で、アルバは剣を握りしめたままアルベドに向かって走って行く。真正面から正々堂々と。それが、アルバの戦い方なのかも知れない。
対するアルベドは一歩も動こうとしていなかった。そのまま受け止める気なのかも知れない。アルバの剣は、細身だが、しっかり質量はある気がしたし、あれを軽く受け流すことは出来ないだろう。
「良い切り込みだな……だが、お前には、その剣はあっていない」
「ッチ……まだまだ!」
大きく振りかぶって切り込んだアルバの攻撃を、アルベドはいともたやすく片手で握りしめた剣で受け流し、そのまま横へ飛んだ。アルバは、すかさず踏ん張り剣を横に振るったが、アルベドはそれをステップを踏むようにして後ろへ避けた。まるで、相手の剣の軌道を呼んで言えるようだった。
(見えてるの……? あのスピードを?)
私の目では、剣が振られた避けられた。という単純な動きしか見えないのに、アルベドには次何処に剣が来るか分かっているように見えた。経験の差のような気がして、ここをアルバが埋めるのは難しいだろう。
アルバは、苛立った様子で、でもそれをしっかりと押さえつつ、かまえの体勢を再び取る。二三度の動きで、アルベドが強者だと認めたのか、顔が先ほどより険しくなった。
分が悪いような気がする。
「さっきまでの威勢はどうした? 面白みがないなあ」
「はあ……勝手に言っていて下さいよ。でも、訂正します。貴方は、強い」
「そりゃあ、そうだろうよ」
「……このッ!」
アルバは、額から垂れた汗を拭うと再び地面を蹴った。振りかぶられた剣先は、アルベドの目の前をぎりぎりで通過していく。わざと、当てられるフリをしたのか、アルベドの顔には溶融の文字が浮かんでいた。
まるで、遊んでいるように思えてしまった。
(これ、アルバに勝ち目ないんじゃない?)
先ほどから、おちょくるような動き、そしてアルベドは何だか楽しそうなかおをしていた。
あんな顔出来るんだってくらい楽しそうだった。矢っ張り、戦闘狂何じゃないかと、危険人物そのものだなあと思った。
「動きが……よめなっ」
「シハーブ嬢は、ダンス習わなかったのかよ。ダンスの要領と一緒だろ。戦闘も、剣舞って言うぐらいだから、舞だろあれ」
「意味が分かりませんがッ! ッチ!」
「矢っ張り、女性が剣を振るうべきじゃないんじゃないか?」
と、アルベドがいった瞬間、ピリッと場の空気がかたまるような感覚がした。
たった一言。その一言が、場の空気を凍りつかせたのだ。
(え、何、どういうこと?)
凍りつくような空気を放っている元凶を辿れば、それは間違いなくアルバで、先ほどかいていた汗もスッと引いたように、肩で息をした後、ユラリと身体を揺らしながら立ち上がった。先ほどとは打って変わったその雰囲気に私は息をのむ。
冷たい目。でも、そこにははっきりと「取り消せ」と殺意が宿っているようにも思えた。
(これ、地雷ふんだんじゃ……)
アルベドも、アルバの変わり様を見て、ようやく自分のいったことの重さが理解できたのか片手で握っていた剣を握り直した。
「取り消して下さい。今の言葉」
「何を? 言わなきゃ分からねえけど」
「言わないと分からないんですか?レイ卿」
「ああ、わかんねえな。お前が、何にキレて、何を鎖にしていたかも。そんな目が出来るなら、初めからすればいいだろ。ビビってたのか」
「今すぐに、その減らない口を縫い付けてやりたいです」
そういったのと同時に、アルバは先ほどの早さとは比べものにならないぐらい早く地面を蹴り、アルベドの後ろに回り込んだ。
アルベドは一瞬反応に遅れたのか、アルバの攻撃を先ほどのわざとぎりぎりで避けた、ではなく本当に紙一重で受け止めることが出来た、と言うように、アルバの攻撃を防いだ。アルベドの顔から少しだけ余裕が消えたような気がした。
「ハハッ! いい、その目、滅茶苦茶良いじゃねえか」
「矢っ張り、貴方狂ってますよ。レイ卿」
「よく言われる。もう、褒め言葉だよ!」
アルベドは、アルバの剣を弾いて大きく後ろに飛んだ。靡く紅蓮は、美しくて、それこそ、剣舞をしているのはアルベドのようだった。
紅蓮が揺れる。そして、目の前で覚醒したアルバは剣を構え直し、息を吐いた。先ほどとは雰囲気が違うのは、目で見て取れた。
「次は、こちらが攻撃をする番です。レイ卿」