はっきり見ていれば。もっと、早くにアルバの才能に気づいていれば、グランツとの連携とかとれて、もっといい未来があったんじゃないかって思った。まあ、今更考えても後の祭りだけど。
(凄い、少しだけどアルバがアルベドの事押している……)
アルバは、瞬発力の天才だと思った。重い剣だろうにあんなに軽々と振り回して。そして、一つ一つの動きに無駄がなくて、一発一発が重い。素人の私から見ても、凄いと思った。女性でここまで動けるとなると、やはり才能と努力を重ねた結果か。
(違う……女性の強みを生かしてるんだ)
男性よりも華奢な身体、だからこそいかせるしなやかさや、柔軟性。それを武器にしているんだろうと。私の予想でしかないけれど、アルバはアルバなりに研究を重ねて、その境地にたどり着いたんじゃないかと。
「良い動きだな。矢っ張り、さっきまでのは、遊びだったか」
「随分と余裕ですね。レイ卿。そんな余裕かましていて、大丈夫なんですか?」
「勿論。お前が、覚醒しようが、俺には勝てない。所詮は、そこ止まりだ」
「……ッ」
アルバの攻撃を、弾くと今度はアルバがやったように、彼女の後ろに回り込んだアルベド。スッと横に振られた剣をアルバは、ギリギリの所でかわし、地面に手をつき、後ろへ下がった。アルバの動きを真似て、すぐにアルベドは同じ事をやり返したのだ。あの一瞬で、それを掴めるのは、またアルベドの一種の才能か。
(何か、実況しているみたいだけど……初めから、勝負なんてついているんだろうな……)
アルバの力は分かった。彼女が、内に秘めている思いも。それを、鎖にして、ずっと抱えて、押さえてきたんだろうと。
だから、先ほど女性が……何て言われて怒ったんだろうし、そうやって、怒りにまかせれば通常よりかは力が出ると。でも、それじゃダメなんだろうなって言うのが分かった。
怒りにまかせて剣を振るうこと、その集中力は長くは続かない。
その集中力、ゾーンの状態を継続させるのが、今後のアルバの課題だと私は思った。それにしても、アルベドについていけるんだから、たいしたものだと思う。これなら、普通の敵であれば、どうにかなるだろう。アルベドみたいな、手慣れた相手は、キツいかも知れないけれど、土壇場で力を発揮できるのは、いいと思う。
「まだま、だいけますから!」
「いいや、ここで終わりだ。面白かったぞ。お前の動きも、剣さばきも……だが、まだ、足りないなあ。これじゃあ、主人を守れないだろう」
「……何、をッ」
そう言ったアルベドは、アルバの背後に回ってトン、と剣の柄でアルバの背中を叩いた。体勢が崩れ、アルバはそのまま前のめりに倒れ、地面に顔をたたきつけた。
(勝負あった……)
初めから勝敗は見えていたけれど、綺麗な決着の付き方だなあと思った。本当に、アルベドが味方でよかったと思う。あの動きなら、何人もの敵を一気相手にしても問題ないと思う。元から、そんな風に命を狙われてきたような男だし。
「エトワール」
「何? 嬉しそうな顔して」
「俺が勝ったんだぞ。誉めてくれても良いんだぜ?」
「何で? そんな約束してないし。そもそも、私の護衛倒しておいて、誉めても何もないと思うんだけど?」
嬉しそうに近寄ってきたアルベドからは、チューリップの香りがして、一瞬驚いた。もしかしたら、そういう香水でも付けているのかなあ何て思いつつ、似合わない匂いと、私は彼を見上げる。前に、戦った後みせた顔は、まだ戦いでの興奮の余韻が残っているのか、目がぎらついていたが今回はそうじゃなかった。清々しいほどの笑顔。
きっと、アルバなんて取るに足りない相手だったんだろうなって、実感してしまう。
アルバは、悔しそうに立ち上がって、アルベドを見ていた。悔しいっていうのが、その目から感じられて、目が合った瞬間、アルバは目をそらしてしまった。主人の前で無様に負けた。それが、アルバにとっては許しがたいことなのだろう。気持ちは分からなくもないが。
負けは負けなのだ。
「でも、アンタ相変わらずだよね」
「俺の戦いのことか?」
「剣なんて使ったところ見たこと無かったから……ああ、あのラヴァ……ごほん、あんたの弟との戦いの時に使っているのは見たことあったけど、様になっているというか……何処かで習ったことあったの?」
何となくだが、ラヴァインと言いかけた時、悪寒を感じたため、弟、と言い換えたが、それでもアルベドはいい顔をしなかった。でも、名前かそっちで話さなければ、あの時のことを表現できなかったため、仕方がない。
まあ、それはいいとして、アルベドが剣を使っている所なんて珍しかったため、何処かで習ったのかと聞けば、アルベドはうんともすんとも言わなかった。
「言えないの?」
「いいや。基本的に剣術と魔法は習うんだよ。貴族はな。だが、俺は風魔法の適性があったから、剣よりもナイフの方が有利だって気づいてそっちに変えただけだ。だから、扱えないわけじゃねえよ。だた、向いていないって言う話だ。そっちの、シハーブ嬢のようにな」
と、アルベドは、アルバの方を向いた。
アルバは、アルベドに言われてキッと目をつり上がらせた。負けたことがよほど悔しいようで、これ以上アルベドも余計なことを言わないでくれと願うばかりだった。
「これ以上、私に何か言いたいことでも?」
「いいや。今言ったとおりだ。人には向き不向きがあるんだよ。シハーブ嬢、アンタの武器は瞬発力と、その早さだろ?なら、もっと細くて軽い、剣を使った方が良い。その方が、よっぽどアンタに向いてるぜ?」
「……」
「まあ、俺の意見なんて聞きたくもないだろうけどな。でも、アンタは、もっと強くなれると思う。だから、こうやって塩送ってやってんだよ」
そうアルベドはぶっきらぼうに言った。言い方はあれだけど、アドバイスをしているんだと言うことはすぐにでも分かって、良いところあるなあとは思う。まあ、言い方が、言い方でカチンとくるかもだけど。私がアルバだったらキレているかも知れない。
でも、アルバは、その意見をしっかりと聞き入れたようで「ありがとうございます」と小さいながらに言っていた。そういう所は、素直で可愛いなと思った。誰かさんとは違って。
(アルバの実力も分かったし、アルベドが伸びしろがあるって言うなら、もう万体かなあ……)
良いデータが取れたぞ、何て私は何処の解析班なんだと思われるぐらい今の戦いをしっかりと見ていた。
「ああ、後さっきの言葉訂正しておいてやるよ。アンタは強い。女でも男でも関係ねえよ。実力があれば生き残る。だから、アンタは生き残ってんだろ? エトワールの護衛になれてんだろ?」
「……そうですよ。でも、女性と男性の差別も、その力が埋まらないことも分かっています。だからこそ、腹立たしい。自分が男に生れれば……また違った未来があったのかとか、色々考えてしまいます。ですが、レイ卿に言われたことは、胸に刻みますよ。ありがとうございます。肯定してくれて」
「そこまで、深読みするか普通」
「貴方は、どうやら煽るだけじゃなくて、自分の本心にも気づいていないようですね。レイ卿」
「まあ、どうでも良いか」
アルバは、アルベドという強者に認められたことで、少しだけ前を向けたのか、明るい表情に戻っていた。アルバは、痛感していた女性と男性の差を。そして、それをコンプレックスに思って生きてきたのだろう。でも、それが男性のアルベドから強いと認められたことによって、彼女の闇は少しだけ取り払われたのではないだろうかと。
(本当なら、私が救ってあげないといけない気がするんだけどな……そんな救うとか、大それた事じゃなくても、実力を知って、認めてあげて、必要としてあげられれば……)
彼女をしっかり見てこなかったんだなあと今になって思ってしまった。見てあげれていたら、彼女の実力はもっと早くに伸びたんじゃないだろうかとか。その他にも色々と。
「すみません、エトワール様。あんな、醜い姿を見せてしまって」
「え、いや。そんなこと全然思っていないから」
「私が、ただ恥ずかしいだけですが……それでも、宣言しておいて、この結果は」
「アルバァ……」
そこまで落ち込まなくて良いよという代わりに、私は彼女の頭を撫でた。ふわふわとしたその頭は撫でやすいなあ何て思いながら、顔を上げるとばっちりとアルベドと目が合った。
「そんなに見られたら穴空きそうなんだけど」
「そういや、次はお前の番だったな。すっかり、シハーブ嬢との戦いで忘れてたけど、お前と戦うためにここに来たんだったな」
「戦うって、教えてくれるって事じゃないの!?」
「まあ、言い方は気にすんなって。つーことで、次はお前の番だぞ。エトワール」
「ひぇ……」
そんな笑顔の圧をかけられて私は涙目になりながらも、やるしかないと拳を握った。
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