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北門にて、仮の通行証を返却し、街の外へ出る。
振り返ると、門の上の方に【ミスト】と書かれていた。
(街の名前かな?)
昨日、この街に入るときに通った南門に対し、そこそこ人の出入りがあるようだ。
「さて、稼がないとね」
近場の森に入って行く。
採取するのは、回復薬や解毒薬の材料になるミミ草とゾナ草。
師匠の家で山菜採りしてた頃にも、よく見かけたことがある。
「5本1束で銅貨2枚……けっこう集めないとだなぁ」
雑草の中から目的のものを採取しつつ、少しずつ森の奥へと進んで行った。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ、こんなものでいいかな」
けっこうな数を集めたけど、マジックポーチのおかげで手ぶらだ。
道中、同じ採取目的らしい冒険者と出くわすこともあったが、取り合いになるのは面倒なので、大分人気のない森の奥へと来てしまった。
「うん……なんかいるね」
体内の人工精霊ことアーちゃんが何かに反応する。
会話ができるわけではないし、姿も見えないけど、何となくそう感じた。
周囲の茂みから、ガサガサと何かの音がする。
距離は5m程度。
音のする方に指先を向ける。
――その時二つの影が飛び出してきた。
(速いッ! けどアーちゃんに比べたらなんてことない)
両手を使うまでもなく、右手人差し指だけで、マナバレットを二発放つ。
声をあげることもなく、二つの影は動かなくなった。
(角の生えた……ネズミ?)
おそらく魔物だと思われるが……。
(思ったより冷静に対応できたなぁ……)
師匠との修行に比べたら、初の魔物との戦闘は思ったほど恐怖を感じなかった。
「これ……売れるのかな?」
一応、ポーチに入れて帰った。
◇ ◇ ◇ ◇
「すいません、常駐依頼のミミ草とゾナ草の査定をお願いします」
冒険者ギルドで、カードを提出し採取したものを査定してもらう。
常駐型の依頼は、ギルドで買い取ってもらうことで、そのまま達成証明扱いになる。
「えっ……これ全部ですか? 雑草でごまかしてませんよね?」
「そんなことしませんよ」
たしかにちょっと採りすぎたかなとは思うけど。
ちゃんと場所は変えながら、同じ場所で採りすぎないように配慮もした。
(それに、これぐらい集めないと大した金額にならないしなぁ)
お金稼ぐって大変だよね。
「たしかにミミ草30束、ゾナ草25束、変なものも混ざってませんし、どれも品質に問題ありませんでした」
査定が終わったようだ。
「こちら報酬になります」
銀貨1枚と青銅貨1枚を受け取る。
宿2泊分と考えると十分な稼ぎだと思うが、今日の出費を考えるとやや物足りない。
「あとこちら新しいギルドカードになりますね」
返ってきたギルドカードは木製から鉄製に変わっていた。
「Eランクになってる……いいんですか?」
「Fランクの採取依頼は通過儀礼のようなものですからね。冒険者は野営することも多いので、薬草の見分けぐらいできないとってことです」
なるほど、たしかに食用にも使えるし、理にかなっている。
「大体累計で、5束ずつ集められたらランクアップなんですけどね。登録した初日にいきなりこれだけ集めて、即日ランクアップは珍しいですよ」
よせやい、あんまり褒めると調子に乗っちゃうよ。
「次からは討伐依頼とかもがんばってくださいね」
そっか、Eランクからは討伐依頼もあるんだよね……危ないのは嫌だな。
「あっ、そだ。魔物の買取はあっちのカウンターでいいんですよね?」
「はい、あちらでお願いします。それでは次の方どうぞ」
素材の買取カウンターへ移動する。
こちらの受付は女性ではなく、筋骨隆々のおっさんだった。
はたして角生えたネズミなんて買い取ってもらえるんだろうか。
「すいません、解体してないんですけどお願いします」
ポーチから出すところをローブで見えないようにして、魔物の死体を2体カウンターに出す。
「角ネズミか……解体費用差し引くと銅貨1枚にしかならんぞ?」
「……安いんですね」
「まぁな、こいつらすばしっこいだけで弱いからな。ほれ、角も先が丸くなってる上に体重も軽いから、突っ込んで来ても何の危険もない」
マジか……弱いくせに襲い掛かってきて、しかも安いとか傍迷惑な。
「おまけに取れる素材も少ないからな、こっちも新人の解体練習用に使ったりすんだ」
練習用かよ、哀れ角ネズミ……。
持っててもしょうがないし、こっちとしては引き取ってもらった上に、銅貨1枚でももらえるなら十分ではあるけど。
次はもっとお金になりそうな魔物を――――
「なに!? ほ、ほとんど雑草!?」
先ほど採取の報酬を受け取った受付から、大きな声が聞こえてきた。
「そうですね、なんとか一束分はありましたので報酬は銅貨2枚になります」
「私の……今日の努力が……銅貨2枚……」
見れば赤髪を後ろで結った、剣士っぽい女性が魂の抜けた顔をしていた。
「ま、初心者の最初の壁だからな。普通は採取すらまともにできなくてああなる」
っと、解体のおっさんがやれやれと言った顔で話す。
初心者ということはおそらく僕と同じ、採取の査定だったのだろう。
「……声を荒げてすまない、また明日来る……」
剣士らしき女性は、踵を返し冒険者ギルドを後にしていった。
「あそこで暴れないなら上出来だな」
「暴れるような人もいるんですか?」
「おうよ、まぁ初心者冒険者なんか、この筋肉ですぐにおとなしくさせちまうけどな」
解体のおっさんは筋肉をピクピクさせはじめる。
……別に羨ましくなんてないし。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日、宿の宿泊日数を2日延長したのち、早速受注型の依頼で、調査の依頼を受けていた。
Eランクでも受けられる調査依頼なんて、きっと楽に違いないという寸法だ。
北門から出て、昨日採取を行った森をさらに奥に進むと浅い洞窟がある。
この洞窟にゴブリンが数匹住み着き始めていたそうだが、討伐の依頼を受けた冒険者が洞窟にきたときには、すべて倒されてしまっていたらしい。
誰が倒したのかは謎だが、もし魔物同士の争いであるなら、別の魔物が住み着く可能性もあるので、それを確認してくるという調査依頼だ。
「つまり単なる事後確認、見てくるだけの簡単なお仕事なんて、素敵やん?」
ただし報酬は青銅貨5枚。
これだけだと少ないので、行きと帰りに薬草採取での小遣い稼ぎも忘れない。
「うん、ホント浅い洞窟だったね」
10mもなさそうな洞窟で、あっさり調査は終わってしまった。
結果はもぬけの殻、本当に何もない浅い洞窟だった。
ゴブリンとか気持ち悪そうだし、何も無いのは良い事だね。
「今日は角ネズミも出ないし、ただのピクニックみたいだ」
帰路につきながら目に付いた薬草を採取する。
あくまでもついでなのでほどほどに……
っと、そこで、昨日ギルドで見た赤い髪の剣士が目に入る。
カゴを背に今日も採取に勤しんでいるようだ。
がんばってくださいね、っと心の中でエールを送り、その場を去る……つもりだったのに声をかけてしまった。
だって悲しいものが見えてしまったんだもの。
「あの、カゴの中身……全部雑草ですよ?」