テラーノベル
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日曜の午前、
珍しく早起きして駅前に向かった。
待ち合わせの時間より十分も早く着いてしまって、
落ち着かない。
何度もスマホを確認していると、背後から声がした。
「おー、元貴。今日やけに真面目だな」
振り返ると、若井が手をポケットに
突っ込んで立っていた。ラフな白シャツにジーンズ。
赤髪が太陽に照らされてやけに映える。
普段の制服姿よりも
ずっと大人っぽくて、思わず見惚れてしまった。
「……なに見てんだよ」
「いや、似合ってるなって」
「お? 素直だな、珍しい」
若井は嬉しそうに口角を上げる。
からかわれるのは癪だけど、心臓はバクバクだ。
まずはショッピングモールをぶらぶらして、
CDショップで新作を試聴。
若井がギターのリフを真似して
エア弾きするのを見て笑いが止まらなくなる。
「お前、それ人前でやんなって!」
「いいじゃん、ノリだよノリ!」
笑っていると、気付けば緊張も和らいでいた。
昼はフードコートでラーメン。
若井は大盛りチャーシュー、僕は普通盛り。
「元貴、少食すぎんだろ」
「いや、これでちょうどいいし」
「ほら、一口やるよ」って自分の箸でチャーシューを
突っ込んでくるから、周りの目を気にして真っ赤になった。
「やめろって!」
「うるせー、俺が食わせたいんだよ」
本気で困るのに、胸の奥は熱くて、
結局チャーシューを噛みしめた。
午後は映画館へ。ホラーを観ようって
言われて断りきれず入ったけど、
暗闇と不気味な音に心臓が限界を迎える。
肩がびくって揺れた瞬間、若井の手が自然に僕の手を掴んでいた。
――あ。
冷たい手のひらが、彼の温かさで包まれる。
指先が少し震えてるのを悟られたのか、
若井は小声で「大丈夫」って囁いた。
映画の内容なんて頭に入らない。
ただ、隣で握られたその手の存在が強烈で、
心臓の音が爆音になっていた。
上映後、出口に向かいながら、僕は思い切って口を開いた。
「……いつまで手、繋いでんだよ」
「嫌?」
「……嫌じゃない」
答えた瞬間、若井はにやりと笑って、
指をさらに強く絡めてきた。
夜、駅で別れる直前。
手を離すのが惜しくて、僕は俯いたまま立ち止まった。
「また来週、練習な」
「……うん」
若井はそう言って、
最後まで僕の手を離さなかった。
その温もりが消えた後も、胸の奥でずっと燃え続けていた。
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