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きっと、紗季は悪くない。
そう思うようにしても、胸の奥がずっとチクチクしている。
笑っているはずなのに、どこかで寂しさが抜けない。
(どうして、最近の紗季の話に私の知らない名前が出てくるんだろう)
葵は、うまく笑えない自分に戸惑っていた。
誰よりも応援したいし、誰よりも信じてる。
でも、それなのに。
「藤堂さんって、どんな人なの?」
何気なく聞いたとき、紗季の目が一瞬だけ、やわらかく光った。
――あ、って思った。
その顔は、私には見せたことのない顔だった。
たぶん本人は無意識。でも、確かに“特別な何か”がそこにあった。
(私、もう一番じゃないのかな)
***
何度もメッセージを書いては消して、結局送ったのはたった一言だった。
「距離を置こう」
それが紗季を傷つけるってことくらい、分かってた。
でも、それよりも、今の自分が紗季のそばにいる方がつらいと思った。
気づかないふりをして、笑って、何事もなかったようにふるまうのはもう無理だった。
(本当は……抱きしめて、聞きたかった)
「私のこと、まだ好き?」
だけど聞く勇気がなかった。
もし“分からない”って言われたら、私はきっと、もう立ち直れない。