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相沢は、警察署の裏口で立ち止まった。
「……芽衣ちゃん」
「はい、相沢先輩」
芽衣ちゃんーは、自転車置き場の前で腕を組んでいる。
なぜか少し得意そうだ。
「本当に、なくなったの?」
「はい。確実に、だって、ないじゃないですか!自転車、見えるんですかぁ!?」
いやいや、逆ギレしないで。迫力0点(?)だけど、
芽衣は大きくうなずいた。
「ここに停めたはずなんです。昨日の夕方」
相沢は自転車置き場を見渡す。
十数台の自転車が、きれいとは言えない列で並んでいる。
あるようにしか見えない、絶対あるって。
「鍵は?」
「かけました」
「本当に?」
「はい。たぶん」
「…芽衣ちゃん?」
「かけた…と思います」
そのとき、背後から声がした。
「どうしたんだい?」
黒瀬警部が、紙コップのコーヒーを片手に立っている。
「警部」
相沢は状況を簡潔に説明した。
「芽衣ちゃんの自転車が、なくなったそうなんです」
「なくなった?」
黒瀬警部は自転車置き場を見て、首をかしげた。
「たくさんあるが?」
「私のがないんです」
芽衣が真剣な顔で言う。
「白くて、ちょっとサドルが低くて、カゴが歪んでて、ぼろめで、」
「それは特徴なのかい?」
「はい。たぶん」
たぶんが多すぎる。
芽衣ちゃん?あなたがいうこと信じれなくなる日が近そうなんだけど。
「盗難か」
黒瀬警部は腕を組んだ。
「最近、この辺りは物騒だからな」
「警部、それ言うと芽衣ちゃんが余計混乱します。」
「そうか。では安心していい」
「どうしてです?心配です!」
「ここは、警察署。だからな!」
…理屈が雑。
相沢は一歩前に出た。
「芽衣ちゃん。昨日ここに来たのは何時?」
「えーと、十七時くらいです」
「誰かと一緒だった?」
「いえ。一人です」
「そのあと?」
「署に入って、書類出して、帰りました」
「帰った時、自転車は?」
「……」
芽衣は少し考えた。
「見てないです」
「見てない?」
「はい。疲れてたので、バスで帰りました。」
それで“確実に”なくなったと。
「……佐伯さん」
相沢の声が低くなる。
芽衣はぴしっと姿勢を正した。
「はい」
「本当に、盗まれたと思いますか」
「えー?」
「それとも——」
相沢は自転車置き場の奥を指した。
「置き場所、間違えました?」
「そんなこと——」
芽衣は言いかけて、止まった。
「……あるかもしれません」
「どの辺に停めたか、覚えてます?」
「この辺……だった気が…」
「“気が”で捜索はできません」
黒瀬警部が口を挟む。
「だが、可能性は二つだ」
「警部」
「盗難か、芽衣くんの記憶違い」
「芽衣“くん”じゃないですぅっ!芽衣ちゃん!」
「これは失礼、芽衣ちゃん。」
そこじゃない。てか警部が部下に芽衣ちゃんはやばくない?
相沢は、自転車置き場の一台一台を見て回る。
そして、端の方で立ち止まった。
「……これ」
「え?」
芽衣が駆け寄る。
「それ、私の…?」
「鍵、かかってますよ」
「あ、本当だ。」
「サドル、低い」
「はい、低いです」
「カゴ、歪んでる」
「それです!」
芽衣はぱっと笑った。
「ありました!ありました!私のきいちゃん!」
黒瀬警部も笑顔になる-、いや、きいちゃん!?
「芽衣ちゃん?きいちゃんって、誰のことだい?」
芽衣ちゃん呼びやめろ!!通報されるぞ!
「あ、紹介します!このこ、走ると”きいきい”言うんで、きいちゃんです!」
自転車に名前つけるのもあれだけど、ネーミングセンス…。
「まあ、よかったじゃないか。事件じゃなかった」
「……一応、理由はありますね」
相沢は自転車の隣を指した。
「昨日、新しい自転車が三台増えてます」
「え?」
「そのせいで、芽衣ちゃんの自転車が端に追いやられた」
「だから見つからなかったんですね-!」
「たぶん。」
「芽衣ちゃんはたぶん、多いな」
黒瀬警部が言う。
いや、知らない人が見たらただのバカップル!
芽衣は自転車にまたがり、首をかしげた。
「でも私、盗まれたって思い込んでました」
「思い込みは、一番よくある原因です」
「じゃあ、私が犯人ですね」
「違うでしょ」
「容疑者ですか?」
「違うわよ」
「つまり今回は——、事件性、ゼロです」
「そうか。平和でいいな」
微笑ましく芽衣ちゃんを見る警部。
次は父親!?
芽衣はハンドルを握りながら言った。
「でも、ちょっとドキドキしました」
「ドキドキって、芽衣ちゃん。反省の心は?」
「もうしましぇえん」
「次からは、停めた場所を確認しなさい、」
「はい。写真撮るので先輩と警部に見せますね!」
「そこまではいいです」
黒瀬警部が二人を見て、満足そうにうなずいた。
「やはり君たちは、いいチームだな」
相沢は一瞬、空を見た。
チームというより、保護者、またはバカップル
芽衣は笑顔で言った。
「相沢先輩、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「次はちゃんと事件にしますねっ!」
「しなくていいです」