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「亜子さん?」
「へ?」
「大丈夫? 何だか妙にボーっとしてるみたいだけど?」
「そ、そんな事ないよ? 大丈夫大丈夫! それよりも、その、明日から一緒に住むにあたって色々とルールみたいなものを決めた方がいいのかなって思ってるんだけど……どうかな?」
「ルール? 例えば?」
「うーん、そうだなぁ、ご飯は極力一緒に食べるとか?」
「それは勿論、って言うか寧ろ一緒に食べたい」
「後は、その、竜之介くんは家賃と光熱費を負担してくれるって言ったけど、それはやっぱり申し訳無いから私も半分出すよ」
「いや、それについては本当にいいんだって。俺は別に亜子さんに負担をかけるつもりは無い。そのお金は凜や亜子さん自身の為に使ってよ。特に亜子さんはさ、普段から自分の事は後回しでしょ? たまには自分を優先したり、好きな事をしてもいいと思う。一緒に住んだら凜の事は俺も見れるから、一人の時間も大切にして欲しいと思ってるんだ」
「竜之介くん……」
「まあ、それでもきっと亜子さんはまた気を遣うんだろうから……それじゃあこうしよう」
「え?」
「俺は金銭面を賄うから、亜子さんには家事をお願いしたい。勿論俺も出来る事はやるけど出来る事が限られると思う。家事は大変なんだし金銭面以上に負担が大きいと思うから充分釣り合いが取れるよ」
これもきっと、彼なりの配慮なのだ。
腑に落ちない事は少しだけあるけど、ここでまたあれこれ言ったところで竜之介くんが折れる事は無いと分かっている。
「……分かった、それじゃあ家事は主に私がやるよ。何だか申し訳無いけど、金銭面での負担が少ないのは本当に有難いから嬉しい」
「それなら良かった」
「竜之介くん、ビール飲み終わった? 何か他のも飲む?」
「うーん、亜子さんは飲むの?」
「うん、もう少し飲みたい気分かも」
「それじゃあ俺も飲むかな」
「あ、私が取ってくるから座ってて」
「ありがとう」
ビールを飲んで頭がフワフワしていたけど、真面目な話をしていたら徐々に酔いが冷めたのか、物足りなくなった私は冷蔵庫へ向かう。
「竜之介くんは何飲む?」
「レモン味の酎ハイあったよね? それで」
「分かった」
一つはレモン味、もう一つはグレープフルーツ味の缶酎ハイを手にした私は彼の待つソファーへ戻り、二人で二本目の缶を開けた。
酎ハイを飲み始めてから少しして、さっきは酔いが冷めてきたと思っていたけど、どうやらそんな事は無かったらしい。
それどころか再び飲んだ事で余計に酔いは回っていく。
「亜子さん、何だか少し顔が赤い気がするけど、もしかして、結構酔いが回ってきてる?」
「え? ううん、そんな事ないよ?」
なんて答えているけど、確実に酔いは回っている。
以前はそれなりに強いと思っていたけど、飲まない期間が長過ぎたせいか、お酒には弱くなっていたようだ。
それでも、まだそこまで酔ってはいないし、久しぶりのお酒はやっぱり美味しいし、何よりもこの高揚感というか気分が上がる感じと、それによって普段は色々と遠慮して聞きたいけど聞けない、踏み込めない事なんかも聞ける気がした私は竜之介くんについて聞いてみる事にした。
「ねぇ竜之介くん、少し気になってたんだけど、どうして名雪の姓を隠していたの?」
「ああ、あれは社会勉強の為だよ。初めから親の下で働くと甘えなんかも出そうだから一度は社会に出て学んで来いっていう、名雪家の方針なんだ。ただそれには名雪の人間って身元は明かさずに働かなきゃならない。そこで俺は叔父さんがやってるとこで『鮫島』って母親の旧姓を名乗って働いてるんだ」
「そうだったんだ」
それを聞いて、彼がしっかりしているのは親御さんの考え方の素晴らしさも影響しているんだと思った。