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初雪
「本当に簡単な依頼だから!」
と、黒美からの本当に軽い依頼を受けて、わざわざ研究を中断し古い館らしき所に来たが本当に弱い他人類が暴れているだけだった
拍子抜けをしたがそのせいで気がゆるみ少しヘマをしてしまい右手をだいぶ深く刺されてしまった
流血して震える手になんとか力を込め、ある限りの力で相手を殴り飛ばしてやった
相手は数十メートル先に吹っ飛んだかと思うとすぐに動かなくなってしまっあ
応急処置をしたので大きな傷にならなかったがそれでも負傷したのは事実だ
「こんな事で負傷するなんて私もまだまだですね…」
包帯を何重にも巻いては上から革手袋をつける
軽く溜息をつき、館の外から出るとすっかり太陽が沈み夜になっていた
周りにはマフラーやコートを身につけ歩く人々が賑やかに行き交っている
そういえばここはカップルスポットでも有名な場所だ
通りでいつもより男女での2人組が多いと思った
一度だけ兄とこのような所へ来たことがある
寒く凍える中、劇のようなのをしている集団を二人で見ては「またいつかここに見に来ような」と約束した記憶がある
だがそんな約束は果たされる事はなかったが
しかしもうそんな事を考えても無駄なため早く家に帰ろうとすると黒の革手袋の上に正反対の白色が降ってきた
何かと思い空を見上げてみる
すると、ぱらぱらと白く綺麗な雪が街全体を包こもうとしていた
「初雪…」
幼少期の頃から身体が弱いという理由で雪で遊ぶ事はなかった
た時もすぐに自分だけが体調が悪くなり倒れ込んでしまった記憶がある
今の歳では完全な子供心を持ち、雪を全力で楽しむなんて事は出来ないだろうが少しぐらい楽しみたいところだ
手のひらに乗った綺麗な結晶が解けるまで見守っては少し頬が緩み冷たくなった手の行き場を探りながら前へと進む
すると目の前から聞き覚えのある声が聞こえてきた
電柱の下で若い女性が「ありがとうございました」と深々と頭を下げるのに対し「ぁ~、別に大丈夫っすよ」と素っ気ない返事を返す
まさかと思い、そちらに目を向けるとこんな真冬にパーカー1枚の馬鹿が立っていた
そんな奴がこちらに気づいたかと思うとすぐにその女性と解散しこちらへ駆け寄ってきた
「アズ…なんで貴方がここにいるんです?」
大きく溜息をついては最悪な相手に出会ってしまったと思いすぐにその場を抜け出そうとする
アズに対する苦手意識はまだ全く消えないようだ
「いや、俺はちょっとあの人に用事があってな 」
そう言うアズの髪や肩には大量に雪がかかっており、いつもの綺麗好きの癖が出たのかそれを自身の完全に冷えきった手で払ってやる
するとアズのフードで隠された耳が正面からだとよく見え、まるで撫でられて喜んでいる犬かのように少しぴくりと動いたように見えた
尻尾こそないもののアズは耳でとても感情が読み取りやすい
「何をそんな喜んでるんですか」
「は?別に喜んでなんかねぇよ」
「耳が動いてます」
そこまで言うとすぐに黙ってしまい、目を逸らされてしまった
小さく溜息をつくと寒さで手の感覚が無意識に手を動かしてしまい先程負傷した場所が微かに痛む
右手に目をやるとあの包帯の量でも耐えきれなかったのかじんわりと血が流れてきていた
僅かに顔を顰めるとその少しの変化にアズはすぐに気づいた
「お前…また無茶しただろ、これ飲め」
そう言ってはポケットから止血剤を出してきては大きく溜息をついた
我々は黒美から何錠かの止血剤を貰っているがそれがちょうど切れてしまっていた
そしてアズに止血剤を飲んでないのがバレたのだろう
有難く受け取っては口に入れ、水も無しに無理矢理飲み込んだ
アズに対し軽く礼を告げては寒さのせいか思わず鼻をすする
「あと…これ羽織っとけ、どうせ寒いんだろ」
するとパーカーのチャックを下ろしてはこちらにかけてくれた
「いや…流石に悪いですよ」
パーカーの下には薄手の長袖一枚だったが「俺寒さには強いから」と強がり言うことを聞かなかった
だが先程まで人が着ていた服はとても暖かく冷えきっていた身体が少しだけ暖かくなったような気がした
「んで、今から紗知は帰んのか?」
「えぇまぁそのつもりですけど…」
そんな会話をしながらも手の痛みは止血剤は飲んだものの痛みは消えておらずじわじわと痛みが広がってくるのが伝わってきた
それをなんとか片方の手で抑え、傷口がこれ以上開かないようにしようとすると同時に後ろから声が聞こえてきた
「お、もしかして他人類か?」
そう言われては、こちらとアズを交互に見ては先程負傷した手を思い切り掴み上げられる
すると、手のひらに鋭い痛みが走り顔を顰め、反撃しようにも力が入らない
痛みに思わず小さく声をあげるがそんな事は関係ないみたいだ
「他人類にしてはいい面してんなぁ?」
人間が他人類を虐めてくる事は多々ある
これが嫌なのでいつも部屋に引きこもっているが今日に限り面倒臭い奴に引き止められた
どうしようかと考えていると隣から静かな声が飛んできた
「痛がってんだろうが、さっさと離してやれ」
大きな溜息と共にアズがズボンのポケットにだらしなく手を突っ込みそう告げる
どうやらアズ自身も大事にはしたくないみたいだ
「あぁ?なんだお前?俺は男には興味ねぇんだ━━」
男が言葉を全て言い切る前にアズは面倒くさくなったのか手を出していた
男の首にはアズ自身の血が巻きついており、ギリギリと嫌な音が聞こえてくる
どうやら大事になるなんて想像していないかのような表情で男の首を絞めあげている
一言で言うなら正真正銘の馬鹿だ
そんな事を思っているうちに男の手は離されていたが思ったより力が強かったのか手の跡が綺麗に残ってしまった
周りの人の注目がどんどんと集まってきている
周りには警察を呼んでいる人もいた
「アズ、もういいです、帰りましょう」
そう言うとアズは正気に戻ったかのようにこちらを見ては男の首を解放してやる
男は一気に肺の中に酸素が取り込まれた事で大きくその場で白い息と共に咳き込んでいた
それを見た他の人間が大きな声を上げながらこちらに追いかけてきた
捕まえるつもりだろう
「やっべ、全速力で逃げんぞ」
そう言われては傷跡を開かぬように優しく包み込むように手を握られ、すぐに走り出す
自分とアズでは足の速さはアズの方が少し速い
追いつけない速さのせいか足が少しもつれる
だがそれを上手いことカバーしながら走ってくれた
アズの姿が何故か兄と重なるところがある
兄な訳がないのに
でも何故かどこか懐かしい気持ちになった
しばらく走り続けると家に着いたみたいでその頃には2人とも雪まみれになっていた
「俺こんな雪の中走るなんて何十年ぶりだ…?」
肩で呼吸をしながらなんとか息を整えまるで独り言のように呟く
まだ16年しか生きていない癖に何を言っているんだか
と思わずツッコミたくなったがそっと留まる
お互いに服についた雪を払いつつ家の扉を開ける
「お風呂、先に入ります?」
「いや、お先にど~ぞ」
レディーファーストってやつ?なんてけらけらと大袈裟に笑いながら部屋の中へ入る
アズに握られた手は兄のように暖かく自然と握り返していた
信じられないような気持ちのまま「それではお先に失礼します」とアズに告げ、風呂へと向かった
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「ねぇ、これどういう事?」
翌朝、あの街中で大事になったのが黒美にバレたのだろう
アズがとてつもなく黒美に責められていた
いつもなら無視するが今日だけは少し違った
「これは私の不注意で起こった出来事です、私が責任を負います」
部屋の扉を開け放ちアズの隣に立ってはそう言う
元はと言えば後ろから来る人間の気配に気づけなかったこちらが悪い
小さく何かを訴えてくるアズにわざと気づかないふりをしてはそのまま話を続けた
「ん~…分かったよ、今回は私が何とかするけど次からは2人とも気をつけてね、特にアズ」
指を刺されてはそう言われ、申し訳なさそうに謝るアズを横目で見てはこちらも感謝を告げ自室へと戻った
あんな馬鹿みたいな出来事だったが不思議と昨日はとても楽しかった
「たまにはあんなのもいいですね」
後でアズにはお礼の菓子折りでも持っていてやろう
昨日はアズに対する意識が少しだけ、本当に少しだけ薄れた日だった
お帰りなさい🫶
短いお話でしたがどうでしたか!!
皆さんも風邪にはお気をつけて一年の終わりを楽しく迎えましょう🫶
今回は3642文字でした~!