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第8話
「――よしっ! 今日は“勉強しに行く”だけだから!」
自分にそう言い聞かせながら、私は黒瀬の家の前に立っていた。
……心臓、落ち着け。別に男子の家行くだけだし。
(うわ、言葉にするとヤバい響き……!)
「この前は風邪を引いてたから来たけど、
今日は……勉強! 純・学・問!!」
……なんか一気にテンションが空回りした気がする。
──ピンポーン。
「はいはい……って、水原かよ。」
ドアを開けた黒瀬が、明らかに“また来たか”みたいな顔してる。
「なにその顔!? 今日は真面目に来たんですけど!」
「お前が“真面目”って単語使うと不安になるんだよ。」
「失礼な! 私だって本気出すときは出すもん!」
「……で、何回目の本気だ? 」
「第7形態くらい!」
「もはや変身系主人公かよ。」
家に上がると、部屋は相変わらずキレイだった。
ホコリひとつない。机の上は完璧な整頓。
私の机とは真逆の文明。
「で、どこまで勉強してんの? 」
「えっとね、ここ!……のちょっと前!」
「つまり、ほとんど最初からだな。」
「ち、違うし! ちゃんと予習済みだから!」
「そのノート、落書きで“やる気100%”って書いてあるけど?」
「モチベーションは大事なの!!」
「内容ゼロのやる気100%。バランス悪いな。」
むぅっ! この男、いちいちムカつくっ!
「でさ、男子の家って……思ったより静かなんだね。」
「何だ、うるさくした方がいいか?」
「やめて!? 落ち着かないから!」
「じゃあ黙って勉強しろ。」
「ぐっ……その言い方、地味にムカつく!」
隣に座る黒瀬の肩が、思ったより近い。
うわ、近い。っていうか距離近い!!
「な、なんか距離近くない!?」
「ノート見えねぇから近づいただけだろ。」
「こ、こっちは集中できないんですけど!?」
「それは知らん。」
あーーもう! 心臓ドラムロール鳴らしてんだけど!?
「……で、ここ。間違ってる。」
「えっ!? あ、あれ!? うそ!?」
「間違ってるっていうか、全滅だな。」
「ぎゃー!! 数学の神に見放されたぁ
ぁ!!」
「神のせいにすんな。」
そのくせ、黒瀬はちょっと笑ってて、
それがまたムカつくような、嬉しいような……。
「なんか笑った?」
「別に。」
「今、笑ったでしょ!?」
「……お前、ほんと騒がしいな。」
「うるさいな! これが私の勉強スタイルなの!」
「……はいはい。静かな敗北者の勉強スタイルだな。」
「誰が敗北者だぁぁぁ!!」
そんなこんなで、ツッコミと笑い声が交互に飛び交って、
気づいたら外はすっかり夕暮れ。
……でもまぁ、いいか。
勉強よりも楽しい時間を過ごせたから。